神官、もどかしい。
「どうしたものか」
私、イルームは引き続き、地下に監禁されている。
私はアリス様が神子ではないかもしれない、そんな事実を伝えたため大神殿に監禁されることになった。大神殿がどういう意向でそんなことになっているのか分からない。
もしかしたら、私は消されるのではないかと考えていたが、今のところ、そういう気配はない。食事はきちんと出る。外で何が起こっているのか分からない。私の立場がどうなっているのかも分からない。
そして、一番頭に浮かぶのは、神子様のことだ。
アリス様が本当の神子ではないというのならば、本物の神子様はどこにいらっしゃるのだろうか。そもそもどうしてそのような手違いが起こるに至ってしまったのだろうか。私以外の神託を受けた神官たちはまだ、目を覚まさないのだろうか。
ここで食事をして、寝るだけの日々を過ごしていると、時間の感覚が分からなくなってくる。私が閉じ込められてからどれだけの時間が経過したのだろうか。―――そして、あれから一度も私の元を訪れないジント様。私はジント様を崇高で、尊敬の出来る方だと思っていた。彼女に相談をすれば、良い方に好転するのではないか。そう思っていた。思っていたけれど、行動した結果が、これである。
私は、ジント様を見誤っていたのではないか。もしかしたら、相談する相手を間違えたのではないか。他の人に相談すれば違った結果が待っていたのではないか。
「―――私はどうしたらいいのだろうか」
ぽつりと、一つつぶやく。
此処にやってくるのは、私が最低限生きるために世話をするものたちだけだ。私が何か聞こうとしても口を開いてくれない者たち。
ここから抜け出すことも頭に浮かんだが、もし抜け出せたとしても私は大神殿に目をつけられてしまうことになってしまう。そもそもここから抜け出すことが難しい。抜け出そうとしたら無傷ではすまない。
神官である私は攻撃魔法は使えない。そのあたりの適性は一切ない。窓もないこの部屋にずっといるのは参ってしまう。
参ってしまう中で出来ることは考えることだけである。
神子。神子という存在について考える。神子様、私たちが保護しなければならない存在。神子という特別な存在。そんな存在が大神殿で迎えられることがなく、過ごしているというのは問題だ。神子様は、特別な力を持っているからこそ、大神殿で迎え入れるべきなのだと伝えられている。迎えられなかった場合、特別な力を持つ神子様が大変な目に合う可能性も大きいのだという。神子様は歴史的に見ても、特別な存在で、神に愛されている。とはいえ、完璧というわけではなく、大変な目に合われる神子様もいる。大神殿は神子様に降りかかることから、神子様を守り、神子様と共に歩んでいくことも目的の一つとしている。
とはいえ、アリス様の言葉にただ頷くだけで、アリス様を導くでも一緒に歩むでもない現状は大神殿が本来あるべき姿ではないとは思う。大神殿は神子様を導き、神子様を守り、神子様と共に歩む。そう思っていた。そういう姿こそ、目指すべき姿だと思う。
私はそういう姿を目指して、神子様を見つけるための神託を賜ることを進んでした。神子様にとって、それが一番良いことだと思っていた。だけど、だけれど……もしかしたらそれは神子様にとって一番良い選択肢ではなかったのかもしれない。ならば、神子様ではないかもしれないアリス様の方が迎えられたのは神子様にとっては良いことなのだろうか。いや、しかし、神子様ではないかもしれないものが、神子様として迎え入れられていているのは問題ではあるし。私が、神子様のために何か出来ることはあるのだろうか。
それにしても私たち、神託を受け取ったものたちは神子様がどこにいるか、神子様の年、神子様についてなど意識を失う前に伝えられるだけのことは伝えたつもりだ。それなのに、神子様をもしかしたら間違えたかもしれないという現状はどういうことなのだろうか。神子様の家に同じ年の子供が居たということなのだろうか。神子様の両親はアリス様と共にこちらにやってきている。その両親があえて、もう一人子供が居るのにそれを伝えないなんていうことがあるのだろうか。普通、我が子が神子であるかもしれない可能性があるのならば、それを伝えないということはあるのだろうか。
考えても仕方がないことを、ずっと、私は考えている。私が一番考えているのは、神子様のことである。
ああ、神よ。私に神子の姿を見せてくださった神よ。私は神子様のために何が出来るのでしょうか。
願った。願ったけれど、神は答えてくれない。
元々神託も大勢でようやく神子様のことを受け取ることが出来ただけなのだ。一人で祈っても、そんなもの届かない。
―――私は、自分の力で、自分の頭で考えて、行動しなければならないのだ。
――――神官、もどかしい。
(神官は、監禁されたまま、思考をし続ける)