少女と、行方 4
ぎゅっとガイアスの体を抱きしめる。
向かってきた竜巻は、私たちにあたることはなかった。横を大きな力が通り過ぎて行ったことが分かった。
「え」
「魔法が、よけた!?」
驚いたような声が聞こえて、目を開ける。
私の腕の中にいるガイアスも驚いているのがわかる。私が目を開けて目にしたのは、驚いた顔で固まっている大人の人たちだ。
ああ、よかった。あの竜巻みたいなの、当たったら私もガイアスも、無事ではすまなかっただろう。良かった。ガイアスのこと、守れてよかった。でも、これからどうしよう。目の前の大人たちの攻撃は、私には、多分、届かない。でもこのままだとどうしようもない。どうしたらいいんだろう。どのようにしたら、私はガイアスのこと、守れるんだろう。ぎゅって、ガイアスのことを抱きしめる。ガイアスがなんか動こうとしているけど、私はぎゅって抱きしめているのをやめられなかった。
そうしていたら、声が聞こえた。
「……何をしているんだ。って、子供?」
声のしたほうを見る。ああ、また人間がやってきた。鎧を着ている人たちの前に、凄くきらきらした服を着た人がいる。私やガイアスよりは年上だけど、まだ子供といえる年齢の人だと思う。
「王子! この子供が獣人の子供を庇っているんですよ!!」
「不思議なことに手が出せなくて。何か妙な術でも使っているのではないかと思うのですが」
「……妙な術か」
王子、と呼ばれた人が近づいてくる。王子、って、王子様? 王子様が……国の、上に立つってされている人が、獣人の皆を大変な目に、そんな人が合わせるの? キラキラしている人。とっても綺麗な人。でもなんだか、目が。私の方を見ている目が、悲しそう? そんな感じに見えた。
その人が、私とガイアスの近くにまで寄る。手を伸ばす。その手は、私に届いた。
あれ? なんでだろう。でも、その手が私の手に触れた時、鳴き声がした。
「ぐるぐるるるるるるるる(レルンダみつけた!!)」
ワノンの声。ワノンの声が聞こえて、他のグリフォンたちの声が聞こえた。それに、シーフォの声も。私の体から力が抜ける。ああ、皆が来てくれたんだ。それが嬉しかった。そこにいるのは、全員じゃなかったけれど、皆が来てくれたんだって、ほっとした。ほっとしてぎゅっとガイアスを抱きしめていた力が抜ける。
私に手を伸ばしていたきらきらした人は、驚いたように手を引っ込めた。大人の人たちが、きらきらした人を守るように下がらせた。
「レルンダ……やっと、離してくれた」
「……ガイアス」
ガイアスはようやく、私の腕から解放されて声を出した。レイマーが、私とガイアスの目の前———人間達との間に飛び出てくる。守るように私たちの前にいて私は益々ほっとする。
「レイマー」
「ぐるぐるぐるるうう(無事で良かった)」
レイマーが、私たちをいたわるようにそういう。王子と呼ばれたきらきらした人と、大人の人間たちは「こんなところにグリフォンがいるなんてっ」「魔物を従えているなんてっ」などと声を上げている。
きらきらした人だけは、驚いた様子だったけれど、私のことをじっと見ていて、他の大人たちのように混乱しているようには見えなかった。不思議な人、だと思った。目が他の人みたいに怖くない。ガイアスを見つめる目も、何だか違う気がする。
さっき、私に触れられたのも不思議だった。なんでなんだろう。
混乱している中で、レイマーに「ぐるぐるるる(乗って)」と言われて、はっとなって私はガイアスの手を引っ張る。そしてレイマーの上に乗るように言う。そして二人でレイマーの上に乗った。レイマーは大人のグリフォンだから、私と、ガイアスが乗っても大丈夫なのだ。
そしてレイマーが舞い上がる。
他のグリフォンたちとシーフォも空へと飛びあがる。ガイアスは初めてグリフォンの背中に乗ったからか、落ちないようにレイマーの体にしがみついていた。
下を見る。
人間たちがこちらを見ている。何かをしようとした大人の人間達を、きらきらした人が何かを言って止めていた。きらきらした人と目が合う。じっと、見つめられた。よく、分からない。
「レイマー、ありが、と」
背中の上でお礼を告げる。皆が来てくれなかったらどうなっていたか、正直わからなかった。ガイアスのこと、私は守れなかったかもしれない。ガイアスの方を見る。ガイアスが、ちゃんと、無事だ。生きている。良かった、そう思う。
「ガイアス、無事で、良かった。心配、した」
「……ごめん。俺、父さんに会いたくて、探しにいかなきゃって思って……。ごめん。レルンダのことも、危険にさらしてしまった」
「……うん。私も、アトスさん、会いたい」
ガイアスが、下を向いていった言葉に私もそういう。そうしたら、グリフォンたちの様子がおかしくなった。
「どう、したの?」
私は聞いた。聞いたら、レイマーが、言いにくそうにいうんだ。
「ぐるぐるるうう(アトスは、見つかった)」
「ほん、と!?」
アトスさんが見つかった。その言葉に嬉しくて声を上げたけど、私たちをのせているレイマーの様子はおかしくて。私は不安になった。
「どうしたの?」
「……ぐるぐるぐるるう(アトスは見つかったが———)」
「え?」
レイマーが、次に告げた言葉に私の頭は真っ白になった。
「レルンダ? どうしたんだ? レイマー様はなんていってるんだ? 父さんのこと、何か、分かったのか!?」
「………」
私は、アトスさんのことが何か分かったのかと問いかけてくるガイアスに何も答えられない。なんて、答えたらいいか分からない。
だって、レイマーが言いにくそうに教えてくれたのはアトスさんの死体が見つかったっていう、そういう話だったから。
――――少女と、行方 4
(多分、神子な少女は王子と邂逅を果たし、そして探していた人がどうなったかを知った)