少女と、行方 2
アトスさんが帰ってこない。
そのことを聞いて私は不安になった。アトスさん、温かい人。大好きな獣人のおじさん。
出かけたっきり帰ってきていないのだと。
猫の獣人の村が襲われたこともあって、村の外に出かけるのは慎重になっていた。アトスさんは、この村のトップだというのもあって実力もあるからって一人で必要な時だけ外に出かけたりしていた。
アトスさんなら、って皆心配をしていなかったんだって。
でも帰ってくるといっていた時間にアトスさんが帰ってきてないんだって。
村の中がざわめいていた。こんなことは初めてなんだって、みんなそんな風に言っていた。
「父さん……」
ガイアスはそういって、いつもの元気さが嘘のように不安そうな顔をしていた。
私は、ガイアスを慰めようと思ったけど、なんていえばいいか分からなかった。
「ラン、さん」
ガイアスが、「一人にしてくれ……」と一人で去っていったあと、私はランさんの手を握った。
不安になった。怖くなった。
猫の獣人たちが村にやってきて、話を聞いて、ひしひしと感じていた不安が的中している気がした。
これからどうなるのか分からない。そのことが不安に思う。これからどのようになっていくのだろうか。
アトスさんは、無事なのか。アトスさんは、アトスさんは……。不安で、怖くなった。ランさんは私の手をぎゅっと握り返してくれた。ランさんも、難しい顔をしている。
「……アトス、さん」
「……心配ですね、レルンダ」
「うん……」
私は動けずにいる。ガイアスのことを追いかけることもできなくて。ただ、思考し続けて。ランさんの手をぎゅっと握って。しばらく動けなかった。
ランさんに、「……ずっと外にいたら風邪をひきますから」と言われて一緒に私の家に向かった。そのまま、ランさんやグリフォンたちに囲まれて、気づいたら、私は眠っていた。
眠っていて、目を覚ましたら大人たちのうちの何人かはアトスさんを捜索するっていって村を出たんだって聞いた。
それで、アトスさんが見つかったらいいなって、見つかってほしいって願ってた。望んでいた。アトスさんの優しい笑顔を見れないことが、悲しいなぁ、苦しいなぁって思った。
ガイアスは、ずっと沈んだ顔をしている。ううん、ガイアスだけじゃない。皆、皆アトスさんのことが大好きだから、大切だから、アトスさんが帰ってこないっていう事実に悲しんでいる。
猫の獣人たちの話を聞いたあとだからこそ、余計に、もしかしたら……って不安が強くなっているんだと思う。私も、凄く不安だ。
アトスさんを捜しに出かけた、大人の獣人たち。
―――彼らも、帰るっていったのに、帰ってこなかった。
いつまでに帰ってくるって、アトスさんが見つからなくてもそこで切り上げて帰ってくるって言っていたはずなのに。それなのに、どうして。帰ってこないんだろう。
不安が募る。
私だけじゃない。皆、不安で。悲しそうで。私も、苦しい。
ずっと、生まれ育った村で一人だった。周りに人は沢山いたけど、あの色々教えてくれたおじいさんが亡くなってから、ただ、生きていた。そんな私が、皆が大好きだって思えて、大切な場所が出来た。
皆が悲しいと、苦しい。
笑っていてほしいなって、思うけど。私も、こんな中で笑えなかった。
アトスさん、そして、アトスさんを捜しに行った皆。
皆の顔が、頭に浮かぶ。
一人一人の顔、皆と一緒に過ごした記憶。私にとって、大好きで、優しくて、幸せな思い出たち。
………苦しいな。
もしかしたら皆、大変な目に合っていたりするんだろうか。大好きな人たちが苦しい気持ちを感じていたりするのだろうか。それを思うだけで苦しい。
そんな風に考えながらも、私は、何もできなかった。いなくなった皆のために何か出来ないかと思ったけれど、願うことしかできなくて。
ただ、無事でいてほしいなって、ずっと願ってた。帰ってきてほしいなって、望んでた。
グリフォンたちやシーフォは、この村を守ってくれる子たちと、皆を探しにいってくれる子たちで別れて行動してくれた。皆を探しに向かった子たちは、まだ帰ってきていない。
だけど、ガイアスは。
アトスさんの息子であるガイアスは、ずっと、願うだけとか、望むだけとか、それでは待っていられなかった。
ある日、ガイアスが、村からいなくなった。
多分、アトスさんを捜しに外に出たんだろうって、そういう話だった。私は怖くなった。ガイアスも、居なくなってしまうのだろうかと。そう思ったら気が気じゃなくて、気づいたら私も———ランさんの制止の声を振り切って駆け出してしまっていた。
頭の中はガイアスのことばかりで。ただ、ガイアスに追いつかなきゃって、それしか私の頭の中にはなかったのだ。
――――少女と、行方 2
(多分、神子な少女はそして村を飛び出してしまうのであった)