女史の記録
『神子に関する記録』
記録者:ランドーノ・ストッファー
神子であると推定されるレルンダ(※1)に対する記録である。
※1 神子である少女を呼び捨てにするのには抵抗があるが、本人の希望により呼び捨てで表記している。
まず、神子とはどういう存在であるのか。そのことについてまとめをする。
神子
・神に愛されている。
・住まう土地は栄える。
・祝福を与え『騎士』を作ることが出来る。
・特別な力を持っている。
わかっていることなど、このくらいだ。神子についての情報は本当に少ない。神子が現れた一番最近の記録は百年前である。神子は時折この世界に出現する。
私は神子について研究をしている身であるが、神子についてのことは文献に残っている情報しか残っていない。
次に、神子と思われるレルンダについての情報をまとめる。
レルンダ
・七歳
・髪と瞳、茶
・120センチぐらいの身長
・無口
・小動物のような振る舞い
・回復魔法の適性はあるらしい。
・グリフォンやスカイホースと契約を交わしている。
文献の中の記録では、神子が憎しみを抱いた国に関しては悲惨な末路になっていた。このことから、神子の不興をかったら大変な目に合うとされていた。ただ現状、フェアリートロフ王国では文献の中であるような災厄は起こっていない。
確かにフェアリートロフ王国において少しずつ変化は起こっているが、それが文献の中の災厄と同じであるかどうかというと違うだろう。
フェアリートロフ王国に災厄というものが起こっていないのは、レルンダの性格によると考えられる。レルンダは疎まれ、捨てられた事実があってもフェアリートロフ王国に対する憎しみはないように見えた。
要するに災厄が起こるかどうかというのは、神子の気持ち次第なのではないかと考えられる。レルンダはフェアリートロフ王国に対し、負の感情を一切抱いていない。レルンダの昔がどのようであったかというのもある程度本人から聞くことが出来たが、幼い子供には大変な日常であるとしか言えない。しかし、やはり、レルンダは神子であると私は改めて昔の話を聞いて考えた。
なぜなら、普通、食事を与えられなければそのまま餓死をする。都合よく食べられるものが見つかったりなどするはずがない。暴力を振るわれそうになって、偶然が重なって暴力を振るわれることがないということもありえない。
そもそもあのレルンダが生まれ育った村は、私が訪れた時には虫害に苛まれていた。食物の収穫が上手くいかず、暗い顔をしていた。レルンダが村に滞在していた間は少なくともそんなことはなかったという。村で疎まれていたというレルンダなのだから、もし村に食べるものがないという状況になっていたら真っ先に口減らしにされていただろう。恐らく、レルンダが神子だからこそそういう状況にならないようにされていた。
アリス様――いや、アリスは美しい外見から、辺境の村にしては栄えていたあの村でいろんなものを貢がれていたらしい。これは、村人とアリスとレルンダの証言からも分かったことである。
しかし、そもそもそういう状況にあれたのは、レルンダという神子があの村に存在したからであろう。そしてフェアリートロフ王国が豊作であったのも、おそらくレルンダを飢えさせないため。国が不作であれば辺境の村に住まうレルンダにどのような影響があるか分からないからということなのだろうと、私は推測する。
神子は、神子を愛している神によって影響力が異なるとされている。現状、レルンダがどの神の寵愛を受けているかは定かではない。ただし、レルンダの周りを見ていると見えてくるものはあるように思える。
例えば、レルンダが契約を交わしているグリフォンとスカイホース。この二種の魔物の共通点は、空を飛べることである。もしかしたら空や飛行に関する神なのではないかとも思う。それともそういう共通点は関係なしに、グリフォンやスカイホースと関わりが深い神かもしれないが。現状は分からない。
次に獣人たちとレルンダの関係について。それは極めて良好である。そのことから獣人とかかわり深い神かもしれないとも考えたが、獣人の村のトップであるアトスさんの話を聞く限りそれは違う気もする。アトスさんはレルンダのことを当初、大変警戒していたらしい。
この村の獣人たちは、森に住まっている関係からグリフォンのことを神様のようにあがめていた。その神であるグリフォンと共に過ごしている人間の少女に警戒を抱かないというのも無理な話である。ましてや私の故郷であるフェアリートロフ王国を含め、人間の国の中では獣人を奴隷としているものが少なからずいる。人間の中には人間以外の種族を奴隷と考えているものがそれなりに存在しているのだ。そのこともあって獣人たちが人間を警戒するのは当然のことであると言える。その警戒心を日々の暮ら��の中で解いていき、レルンダは獣人の村に溶け込んでいる。私がレルンダと初めて会話を交わした時も心配そうに獣人たちが見守っていた。それは私を警戒してである。
レルンダは獣人の村でのびのびと暮らしている。レルンダと仲良くしている獣人の少年、ガイアスの話ではレルンダは友達が出来た、頭を撫でてもらえてうれしいなどと、普通の生活をしていれば経験出来ることを初めて経験出来て嬉しそうにしていたといっていた。レルンダは、この村での生活を幸せに感じている。
レルンダはグリフォンやスカイホースのことを家族という。今、アガッタにいる両親や姉であるアリスは家族であった人たちという認識であるそうだ。レルンダは、両親のことも姉のことも憎むこともなく、好意を抱くこともなく、ただ家族であった人たちという認識のようだ。
レルンダはあまり、自分の意志で行動をするということが生まれ育った村ではなかったという。もし、レルンダが自分の意志で行動をして、村でのびのびと暮らしていたならば獣人の村で起こった奇跡(※2)のようなことが起こって、国は神子をすぐに察知することが出来ただろう。
※2 私が獣人の村を訪れる前に起きたという瀕死の獣人をレルンダが治したという奇跡
レルンダは獣人の村で楽しそうに生きている。村人たちの頼みごとを聞いて、魔法の勉強をして、グリフォンやスカイホースたちと戯れて、そして私から神子の話を聞く。
恐らく神子であるレルンダが住まい、愛しているこの土地は驚くほどに豊作である。レルンダが神子であろうという事実を知らない獣人たちは今年は良い年だなどと口にしていた。
この豊作が来年も、再来年も続くならレルンダが神子であると改めて確信することが出来る。
私はレルンダは神子であると思っているが、本人は神子かもしれないってだけで分からないと言っていた。フェアリートロフ王国の神殿は、神託を受けれるものがいないという状況だから論外であるが、他の国の大神官にでもお目にかかれればレルンダが神子であるかどうかわかるかもしれない。が、その機会は訪れるかどうかも定かではない。
まだ私がこの獣人の村に足を踏み入れて数日しか経過していない。獣人たちには警戒されているが、神子であろう少女を間近で見られることに関しては研究者として幸福なことだと言える。
どうにかこの獣人の村の村人たちに村の一員として認められて、”神子”とはどういう存在であるかを追求していくことが私の現状の目標である。
――――女史の記録
(獣人の村にいる女史は多分、神子である少女のことを記録する)