少女と、女性 1
獣人の村に戻ったら、私たちが人間を一人連れていることに周りが驚いていた。人間、というものは獣人たちの間ではやはり警戒する対象なのだろう。助けなければならないと思ったから、連れてきちゃったけど、この連れてきてしまった人が悪い人だったらどうしようと不安はある。だけど、この人は大丈夫な気がしている。
きのみや収穫した作物で簡単に作った炒め物を、今目の前で食べている人を見る。
大人の人。
女性だというのは見てわかる。服装は、土で汚れていたりして、どういう生活をしていたのだろうと思う。外でずっと生活していたのかな。でも外で生活していたにしても汚れている。
不思議。
私は、そう思いながら目の前の女の人をじーっと見ている。
というか、この場にいる皆が女の人を見ている。それは、行き倒れていたこの女の人のことを、皆が警戒しているからだとわかる。
普通、行き倒れて森にいるなんてことはそうはない。
私も捨てられて森で暮らしていたけど、でもそういう人はあんまりいないはずなのだ。
この女の人は、土がついてたりしているけど、綺麗な顔立ちをしている。なんといえばいいんだろうか、あんまり見た事がないぐらい動きが綺麗というか……そんな感じがする。
食事を終えたその人は、
「ありがとうございます。とても助かりました」
そういって頭を下げた。その仕草も、何だか、様になっていた。
「お礼を言うならこの子にいってくれ。この子が君を助けるといったから連れてきたんだ」
アトスさんがそんなことをいって、じーっと女性を見つめる私の頭に手をやる。女性は私を見る。驚いた顔をしている。獣人の村に人間の子供である私がいるからかなと思った。
「……子供? 獣人の村なのに、人間の子供なのですね」
「ああ。でも人間でも、俺達の大事な子供だ」
アトスさんがそういって、少し警戒したように女性を見ている。
どうして、ちょっと怖い顔をしているのだろう。というか、大事な子供って、嬉しい。そう思いながらも、女の人を見る。
「……そう、なのですね。その子をこの獣人の村から連れ出そうなど考えてはおりません。確かに、私が元々いた国では獣人を軽視する勢力が大きかったですが……、私も子供の頃に獣人に助けられたこともありますし、その子供がここに居たいと望むのならば連れ出すなどということはしませんわ」
……この女の人って、私が居た村の所属する国から来たのかな。正直どこにどういう国があるかとか、全然分からないから、他にも近くにそういう場所があるのかよくわかってない。
「では、何故、このような場所に? この森は我らにとっては生まれ育った場だが、人間にとっては危険な森でしかないだろう?」
女の人が警戒心を解かせようといった言葉に対しても、アトスさんはそう言う。ガイアスも不安そうに私の服の袖をつかんでいる。
「……人を、探していたのです」
「人?」
「ええ。名前はわかりませんが、気になって、追いかけてしまったのですわ。もしかしたらという、欲求から。私は研究者でもありますから、気になると、つい……。そして一人で森に飛び出して、恥ずかしながら……行き倒れてしまったのですわ。本当に、感謝しております」
研究者。
勉強が得意な人、なのかな。それにしても、名前も知らない人を探しているってどういうことなのだろう。
「あの、それで……もしかしたら、その子が探している子供かもしれないのですが」
私?
女性が口を開いた瞬間、ガイアスの袖をつかむ力が強くなった。アトスさんたち、大人の人たちの警戒心が上がった気がした。
「ひっ……えええ、っと、探している子供だからといって、ここから連れだすとかは、本当にないので安心してください! 寧ろ、探している子供がその子……いえ、その方でしたら、何でもしますのでこの村においてください! ですので、まず、か、確認だけでもさせてくださいませ」
女性、とっても必死だった。
私が探している子供かもしれないとは、ちょっと一つしかもしかしたらという心当たりが浮かばない。
あまりにも必死で、膝をついて頼み込んでまでしてきそうな感じだったのでアトスさんたちが困惑しているのも分かる。私も困惑してる。
「ガイアス、私、話す」
「話す?」
「ん。二人で、この人と」
「ダメだ! 何かあったらどうするんだ!」
「じゃ、シーフォ、一緒」
ガイアスに女性と二人で話したいって言ったら反対された。でもシーフォを一緒に連れて行くといったらそれなら……といわれた。
アトスさんにも「二人、話す」といった。アトスさんも困った顔をして反対していたけれど、「大丈夫」と告げた。そして女の人に、「話す。向こうで」と言って、シーフォも一緒にちょっとだけ移動した。
ガイアスやアトスさんたちが、心配そうに遠くからこちらをうかがっているのが視界に入る。
心配してくれていることに何だか嬉しくなりながら、私は女の人の方を向いた。
「えっと……貴方様は、アリス様の……妹様でしょうか」
女の人は、屈んで、私に目線を合わせて、そう問いかけた。
――――少女と、女性 1
(多分、神子な少女は行き倒れていた女性と会話を始める)