少女と、魔法の話 3
2018.11.6 少し修正
「魔法はね、使えるだけでも重宝される。高い適性が一つでもあれば、それだけでも引っ張りだこになるだろう。ただね、魔法を使えるからと使い潰されたものだって歴史の中には存在するから一概に魔法を使えることが良いとは私は言えないけどね。
魔法はね、魔法を使えないものが決して出来ることがない不可能を、可能にする力だ。レルンダが傷を治したのだって、魔法を使えないものにとってあれだけ短時間であれだけの怪我を治すことは不可能なんだ。もしすぐに怪我を治すことが出来なかったらあの子は死んでいたかもしれない。だから、レルンダは本当に凄いことをしたんだ」
おばば様の話は続く。
魔法は、不可能を可能にする力。
魔法を使えない人が決して出来ないことを、出来るようにする力。
「魔法、ちゃんと、使えたら……、皆、役、たてる?」
「レルンダは、いい子だね。そうだね、ちゃんと使えるようになったら私たちも嬉しいよ。ただね、レルンダ、この前も倒れただろう? 私たちのために魔法を使えるようになりたいという気持ちは嬉しいけどね、私たちはレルンダに無理なんてしてほしくないんだ。ちゃんとね、勉強をして、使っても大丈夫だってなってからしか使っては駄目だよ?」
「うん」
「良い返事だ。約束だからね、レルンダ」
「ん」
ちゃんと、ガイアスが怒ってくれたから。そしておばば様もこんな風に心配してくれるから……。私は、無茶なんてしない。大事な人たちが、悲しいって思うの嫌だから。
魔法はちゃんと学んで、大丈夫だってわかってからしか使わない。それがいつになるかも分からないけど、それでも……、使えるからって使って皆に心配をかけたくないから。
「じゃあ、魔法の歴史について話すね。まず、魔法というのは、神々がこの世界を作った当初は世界にはなかったとされているものさ」
「そう、なの?」
「ああ。そうさ。この世界を神様が作った当初は神人と呼ばれる最初の人種しか存在しなかったともされている。その神人を元に、今の人種が生まれていった。それは神々の影響も強いね。私たち獣人の成り立ちには、森の神や水の神、獣神、などといった神々が関わっていたといわれている。尤も遥か昔の話だから、事実かどうかは定かではないけどね」
なんとなく、生まれ育った村にきた吟遊詩人さんがそんな世界の成り立ちを話していた気がする。ただ、吟遊詩人さんが話していたのは、神人の正当な子孫は人間であるとか、そういう話だった気がする。獣人のこととかは話されてなかった。……そういう、考えがあるから獣人たちにひどいことしたり出来るのかなって思った。
「今の世界には沢山の種類の生物がいるけれども、元となったのは全て最初期に生まれた神人や、あとは神獣と呼ばれていた存在たちだね。そこから、今いる人種や魔物などといった存在が生まれてきたと、されている。そういう生物たちが生まれていった過程で魔法というものは生まれたそうさ。ただこれは私が若い頃に読んだ文献に書かれていたことだから他にも色々と説はあるだろうけどね。それで私ら獣人たちが魔法を使うのよりも身体的に優れているのは獣神と呼ばれる神の影響だとされている。エルフが魔法が得意なのも、エルフに影響した神の影響、そんな風にその文献には書かれていたさ」
「……にん、げんは?」
「人間については、少し特殊なのだと思うのさ。人間の中には、神人の正当な後継者は人間であるという説が広められているそうだけど、その文献を見る限り一番最後に生まれたのが人間なのさ。エルフよりも魔法が使えるものが少なく、獣人よりは身体能力が優れておらず、他の人種の優れている部分ほど人間は優れてはいない。だけれど、全ての人種の種族をそれなりに引き継いでいる———そういう、種族だと書かれていたのさ。それを踏まえると、様々な神の影響を少しずつ受けている種族というのが人間なのではないかと、私は考えているのさ」
一番最後に生まれたのが、人間。
おばば様が読んだ文献の中での話だけど、そうらしい。そうなんだ、って思った。獣人たちは獣人たちが生まれた時に関わった神々の影響が強いけれど、人間は色々な神の影響を少しずつ受けている。それって、言い換えたらどの神様の影響もそこまで受けないってことなのかな。
「それで魔法が生まれた当初は、今ある魔法の呪文などというものは確立されていなかった。言葉や文字という文化も発達していなかったから、それも当然だろう。魔法は今のように効率化もされておらず、使いたいものが使いたいままに使っていたようだ。今は長年の研究から効率よく魔法を使うための呪文などが生まれているけれど、そういう魔法よりも昔の、それこそ神代と呼ばれている頃の魔法の方が強力だったという話さ」
呪文。
魔法を使う時に、読む言葉。
それは昔はなかったらしい。
今、当たり前のように存在するものが、ずっと昔には当たり前ではなかった。
そのことを実感しながら、メモを取る。
「ただ、呪文というのは使用者のことも考えられて効率化されたものなのさ。呪文を使わずに魔法を行使することは、呪文を唱えて魔法を使うことよりも難しく、危険なのさ。レルンダがこの前倒れたことを考えるとそれも事実だろうね」
呪文は、長い間研究をされて、魔法を使う人のことを考えて組み合わせられたもの。呪文なしに魔法を使うことが、難しくて、危険だから。
おばば様の話を聞きながら私はそれをメモに取る。ガイアスも、まじめに聞いている。子グリフォンたちも、煩くしたら駄目だとわかってからは頑張って黙って聞いている。
「呪文というものを定めたのは、イトスタ・キースーと呼ばれた魔法王とされている。その人物は人間でありながら膨大な魔力を持ち、あらゆる魔法を使いこなしたとされている。それでいて、精霊とも仲が良かったようだね。イトスタ・キースーは魔法について研究をし続け、呪文というものを定めた偉大なる存在として伝えられている」
呪文を作った人。イトスタ・キースー。うん、一回聞いただけだと、覚えられない。
それにしても、精霊かぁ。私は見たことない。どんな存在だろう?
おばば様の話を聞きながら、私はそんなことを思った。
「とりあえず、今日はここまでにしようか。また次に呪文について教えるからね」
「ん、あり、がと」
「ありがとう、おばば!」
気づいたらそれなりに時間が経っていた。おばば様が今日はここまでといったから、私とガイアスはおばば様にお礼を言った。おばば様は、それを聞いて笑ってくれた。
―――少女と、魔法の話 3
(多分、神子な少女は様々な知識をそうして身に着けていく)