少女と、魔法の話 2
「レルンダ、魔法というのは使い方次第では良い結果も、悪い結果も生み出す、そういうものなんだよ」
おばば様から、今魔法について学んでいる。
ガイアスと子グリフォンたちも一緒に居る。ガイアスは魔法に興味があるから一緒に受けるって言ったの。あと、子グリフォンたちは「ぐるぐるぐるる(レルンダと一緒に聞く!)」と言って、ここにいるの。
おばば様はガイアスや子グリフォンたちが一緒に聞くといったのも笑顔で受け入れてくれた。私、おばば様の優しい笑顔、好き。
「そう、なの?」
「ええ。そうなんだよ。レルンダ。魔法は強力な力なんだ。力があることは良いことだとは思うけれどもね。力を持っているということは、それだけ使い方に気をつけなければならない。この村の住民たちはね、皆優しい。私の自慢の仲間たちさ。でも……この前のレルンダが魔法で彼を治したのだってね、悪い大人に見つかったら、レルンダがどうなろうと知ったことじゃないから傷を治すようにと強要されるようなことだってあるかもしれないんだ」
「……そ、っか」
ここの村の獣人たちは優しくて。優しいからこそ、私のことを心配してくれて。ガイアスなんて無茶をしないでほしいって怒ってもくれて。だけど、たまたま、運がよく私が出会った皆が優しかったっていうそれだけで。私は本当に運が良かったんだなって思った。
改めてそのことを実感する。
「そんなことにならないためにも、ちゃんとレルンダは魔法について学んだ方がいいんだよ。申し訳ないけど、私は魔法を実際には使えないから、知識しか、伝えることは出来ないけれどね」
「おばば、さま。知識、嬉しい。ありがと」
魔法に関する知識も私には全然ない。一介の村娘でしかない私には魔法なんて程遠いものだった。魔法を使える人なんて周りにはいないし、魔法の存在を知っていても、魔法を見たこともなかった。そんな私が魔法を使うことが出来るなんてやっぱり何度考えても不思議だ。
「魔法を使うために必要なのは、適性と魔力なんだよ。この村には魔法適性を量るものなんてないから量ることは出来ないけどね。レルンダはこの前、傷を治したことを考えると神聖魔法の適性は高いんだと思うよ。適性が高くなければ魔法を学んでいない状況で、あれだけの魔法を使うなんてことは出来ないからね」
おばば様はそういった。
私の神聖魔法の適性は高いらしい。適性が高いっていうことは、私は頑張れば怪我した人とかをもっと治していけるってことだと思う。神聖魔法、得意になりたいな。そしたら、大好きな人たちが怪我をしても治せるのだから。
「ぐるぐるるう(レルンダ凄い)」
「ぐるぐるぐるぐるるう(よくわかんないけどレルンダ嬉しそう!)」
レイマーの子であるレマとルマは私の左右を陣取って、おばば様の話を聞いて声をあげて、おばば様に「静かにするように」と注意されていた。他の二匹の子グリフォンはガイアスの左右にいる。ガイアスは、まじめにおばば様の話を聞いていた。
「他にも適性があるかどうかは、現状は分からないけれど……レルンダは魔力量も多いようだからね。きちんと魔法を学ぶことが出来れば、レルンダは凄い大人になれると思うんだよ」
「ん、がんば、る」
凄い大人がどういう大人かは分からないけど、頑張るのはいいことだと思う。魔法の練習とかは現状出来ないけれど、魔法がどういうものか学ぶことが出来ればこれからのためになると思うから、頑張る。
「魔法の適性はね、火、水、風、地、雷、闇、光、神聖魔法とあるんだよ。神聖魔法は傷を治したりするこの適性の中でも一番特別な適性さ。だからこそ、神聖魔法を使えるものは少ない。神聖魔法を使える者の多くは、神殿に自分の意志関係なしに引き取られていくことが多いね。だから、レルンダは神殿に引き取られたくないっていうのならね、神官たちの前では神聖魔法の適性があることを悟られてはいけないよ」
魔法の適性ってそれだけあるんだ、へぇと思いながら話を聞いていたけれど、神聖魔法を使えたら神殿に引き取られていってしまうらしい。神殿って姉が連れて行かれた場所だよね。それは困る。只でさえ神子かもしれないというのもあるのに、そちらも気を付ける必要があるらしい。
「おばば、神殿って?」
「ああ、神殿っていうのは大きな街にある神様を祀る場所だよ。私たちは森で暮らしているのもあってグリフォン様のような身近な存在を神としてあがめてもいるがね、大きな国などにある神殿だとこの世界を作った神々たちを主に祀っているね。この世界を作った神々についてはガイアスも学んではいるだろう? そういう神様たちを祀っているのが神殿でね……。尤も私たち獣人には国と呼べるものもないし、あるのは私たちが暮らしているような村ぐらいだ。神殿なんてものを作っているのは人間の国さ。人間以外は国なんてものを持ってないし、神殿なんて作れるほど余裕もない。もしかしたら神殿を持っている種族もいるかもしれないけど、私はそんな種族を知らないさ」
おばば様はガイアスの言葉にそういった。
人間だけが、国というものを持っているとおばば様はいった。国があって、余裕があるから神殿なんてものを作っているのだと。……この世界を作った神様については、生まれ育った村でちょっとだけは聞いたことがある。あまり詳しくは知らないけれど。
「え、じゃあレルンダがその神聖魔法ってやつ使えるって人間に知られたら、連れていかれるってこと?」
「おそらくね。レルンダは只でさえ、人間であるから……。この村で暮らしていることを知ったら面倒な連中が湧くかもしれないから、気をつけるべきなんだよ」
人間と、獣人。
仲良くしていたら面倒な人が湧くかもしれない。
アトスさんも、人間が獣人を奴隷にしたりする事もあるって言っていたし、そんなこと、やめたらいいのに。どうして、優しい皆と同じ獣人を、そんな風にするんだろう。考えると、もやもやしてくる。
「そうなのか……」
「ああ。そうなんだよ。だからね、ガイアス、レイマー様たちもいるし大丈夫だとは思うけどね、レルンダのことちゃんと守ってあげるんだよ」
「ああ。もちろん!」
おばば様の言葉にガイアスは、躊躇いもせずに答えた。ガイアス、守ってくれるんだ。嬉しい。私はガイアスの言葉を聞きながら、ちょっと嬉しくなっていた。
「と、魔法についての話に戻るさ。魔法の適性が高ければ高いほど高度な魔法が使えるし、低ければ魔力があっても意味がなかったりもするのさ。歴史の中には幾ら魔力が多くても魔法適性がなくて苦労した人物だっている」
「おばば、身体強化の魔法は? 適性の中のどれになるんだ?」
「ああ、その説明も忘れていたね。身体強化などの、どこにも分類されないものがあるんだよ。それは魔力さえあれば誰だって使えるものさ。所謂適性なしのものが使う魔法として知られているものでね……」
「へぇ、俺も使えるかな?」
「魔力があれば使えるだろうけれど、どうだろうね? 気になるのなら学んでみてもいいかもしれないよ。とはいっても魔法を使えない者の方が圧倒的に多いのだから、使えなくても落ち込まないように。ただレルンダは魔力は十分あるから学べば身体強化の魔法は使える可能性は高いのかもしれないね」
私は習った文字を使ってメモを取りながらおばば様の話を聞いていた。
要するに、適性関係なしに身体強化などは使えるってことなのかな。魔力さえあれば使える魔法って便利だと思うのだけど、その適性なしのものが使う魔法には、名前もないのかな。おばば様が言わないってことは。身体強化の魔法、使えるようになってみたいな。村にいる身体強化が使える人に聞いてみようかなと私はそんな風に思った。
―――少女と、魔法の話 2
(多分、神子な少女はおばば様に魔法の話を聞いている。そして身体強化に興味を抱く)