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王女、決意する

フェアリートロフ王国側の話


「日照りが続いている地域が出てきております。このままでは昨年のような収穫は見込めないでしょう」

「王都に雷が落ちることなどここ数年は皆無だったというのに」

「魔物による襲撃も、以前より増えているとの報告があります」

「神殿の方では神像にひびが入ったという噂も———」




 フェアリートロフ王国の王都は現在、慌ただしい。



 私、ニーナエフ・フェアリーはこの国の第五王女。王位継承権も低く、側妃の子供として生まれた。要するにいてもいなくても変わらないような王女である。今年、十歳になった。



 ここ最近、特に神子を大神殿が保護してしばらくしてからというもの、何だか王城が慌ただしい。それとなく無邪気を装って情報収集をした所、少しだが情報が手に入っている。



 神子の機嫌を損ねたからこういうことになっている、とそういう風に大神殿も、国王であるお父様も考えているようだ。それに民衆も。

 神子がこの国の大神殿に保護されたことは広く告知されている。



 神子がこの国にいるというだけでも民衆たちの心は満たされる。安心感を得ることが出来る。神子とは、それだけ特別な存在である。



 そんな神子はまだ、お披露目はされていない。というのも、お披露目が出来るほどには神子は礼儀が出来ていない。七歳であるということを抜きにしても、あのままでは駄目だという報告がされているらしい。



 神子の機嫌を損ねられない。

 だけれども、神子があのままでは駄目だ。


 そういうことでまだ切り捨てられる教育係として、若い女史が選ばれたはずだ。そして結果として国内で色々起こってきているのもあり、女史は追放されたらしい……。



 となると、次の教育係を誰にするかというのも揉めているようだ。神子の機嫌を損ねればこの国にいられない。それどころか神罰が下るかもしれないと恐れている者が多い中で、どうするべきかと最近論議中のようだ。



 神子。

 それは諸刃の剣のような存在だと私は思う。

 神子は恵みを与えるけれども、神子は脅威も与える。



 神子を保護出来た国は、栄えることが約束される。そう、伝えられているけれどもそれは本当だろうか、と今の国を思うと考えてしまう。


 私は第五王女とはいえ、この国の王族だ。何れ、私は嫁いでいくだろうから、この国に残れるか分からないけれど、私はこの生まれ育った国が好きだ。


 この国が不幸に見舞われることは嫌だと思う。

 第五王女という比較的自由な立場だからこそ、城下町に出かけることもあって、お忍びで出かけた先で、この国の国民が好きだなと思えたから。



 私に出来ることは、何かあるだろうか。

 そんなことを、考えていた時のことだった。


 お父様に、私が呼ばれたのは。










 国王であるお父様は忙しい人だ。国王としての政務は多岐にわたり、多忙で、私は第五王女ということもあって最低限しかお父様とかかわってきていない。


 まだ正妃の子であるお兄様やお姉様は別だけど、それ以外の王子・王女に関しては皆そういうものだと思う。それに王侯貴族の家族関係なんて、そういうものなのだ。


 それにしても、この忙しい時期にお父様が私を呼び出すとはどういうことなのだろうか。私はそんなことを思いながらも、侍女を連れてお父様の元へ向かった。



「第五王女、ニーナエフ・フェアリーが参りました。どのようなご用件でしょうか」

「来たか、ニーナ」



 私の愛称をお父様が口にする。

 お父様は、私を見下ろしている。お父様を見るのは久しぶりだ。血のつながりのある親子とはいえ、頻繁に顔を合わせるわけではない。



「ニーナ、君に頼みがある」

「……お父様が、私に頼みですか?」



 私は思わず問いかけた。お父様がそんなことを言うのは初めてだった。


「神子様、アリス様に諫言してほしい」

「……私が、アリス様に?」

「ああ。王族であるニーナからの諫言ならば、アリス様も聞くかもしれない。今、この国で起こっていることはアリス様の怒りからだとそんな風に結論付けられている。アリス様を諌めて、その怒りを収めるように働きかけてほしい」



 私はそんなお父様の言葉を聞きながら、思いました。



 私も、切り捨てられた若い女史と一緒なのだと。第五王女だからこそ、切り捨ててもまだ問題がない王族の私だからこそ、この役目が選ばれたのだと。



 王族が諫言をすればいいというのだけなら、他の王族でも問題がない。

 神子の気分を害した存在なら、切り捨てなければならないかもしれないからこそ、私が選ばれた。



 それを、私は自覚している。

 ちゃんと、自覚したうえで、私はお父様に答えた。




「その王命、お受けいたします」




 私は、この国が好きだ。

 この国が好きだからこそ、出来ることはしたい。

 それに、お父様にこんな風に頼みごとをされるのは初めてだった。

 だから、やろうと思った。神子に意見をした先で、どんな未来が待っているか分からないけれど。だけど、私は諫言をしようと、決意をした。



 ――――王女、決意する

 (第五王女様は、自分が切り捨てられるかもしれないことを自覚しながらも、その決意をした)



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