少女と、魔法の練習 1
「レルンダ、まずは魔力を込めてみようね」
「うん」
私は、私たちが新たに作った住む場所から少し離れた森の中に居た。なぜかといえば、風の魔法を使えるようになりたいと思ったからだ。自分の手で風の魔法が使えるようになったら、それだけ私の中の可能性が広がるし、皆のためにもっと力になれると思うから。
この場に居るのは私と、フレネと、グリフォンのリルハとカミハの夫婦だ。リルハとカミハの娘であるルミハは村でお留守番している。
最初は私とフレネだけで行こうとしていたのだけど、まだこの周辺にどんな危険があるか分からないから二人も来てくれていた。
それにしても、やっぱり私は神子という存在なのだろうか。そう考えるのはこうして森の中に足を踏み入れてもこれといった危険に遭遇しないからだ。絶対ではないかもしれないけれど、遭遇しない。それもあって、風の魔法の練習はのんびりとできている。
風をイメージする。
あの植物の魔物に向かって魔法を行使した時は、フレネが一緒にやってくれたからあれだけ上手く出来た。でも私一人だけでは、魔力が私のイメージするように形作る前に、拡散してしまったり、思ったようにならなかったりと難しい。
魔法、という力は本当に難しいと改めて思った。身体強化の魔法よりも、風の魔法はずっと難しいように感じられた。
「難しい……」
「最初は誰だってそうだよ。レルンダは、風と相性がいいから頑張ったら絶対出来るようになるよ」
「風との相性が良い……」
「うん、というか、レルンダが契約をしているのって風と相性が良い存在ばかりでしょ。そこからも相性いいのわかるよ」
「うん」
確かに、言われてみればそうだ。皆、風と相性が良さそう。グリフォン達もシーフォ空を飛ぶ存在で、背に乗せてもらうと心地よい風を感じられる。
「他の属性の魔法も使えそうだけど、ひとまず風の魔法出来るように頑張ろうね」
「うん」
私は、フレネの言葉に頷く。
私は正直今の現状に焦りを覚えている。私には明確に仕事というものがなくて、皆のためにもっと役に立ちたいのに、私の現状は私の理想よりも程遠くて。だけど、神様にお祈りをして毎日気分を落ち着かせて、それでいて私の大好きな皆が焦らなくていいよって笑ってくれるから、だから少しずつでもやれることを一つずつ積み上げていこうと思った。
魔法の練習もその一つだ。
私が風の魔法を上手に使えるようになれたら、大好きな皆のことを守れるかもしれない。それは所詮、たらればの話だけど、いつどんな危険に見舞われるか分からないから。私はそのもしもの時に、大好きな人たちを守れる私でありたい。
――そんな私の願いは、皆にとっても共通の願いだった。だからこそ村の決まりを作っていったり、村として形作っていく中で、皆強くなりたいと行動している。ガイアスは変化した自分の体をもっと知るためにとドングさんたちと一緒に狩りによく出かけているし、エルフのシレーバさんたちももっと魔法を使えるようになると一生懸命だ。もっと力をつけるなんて無理だ、いずれ何か災難に訪れた時に大好きな人たちを守れるはずがない、などという諦めの気持ちを持っていない。それが凄いと思った。
でもそのことをシレーバさんに言ったら、「レルンダがやりもしないで出来ないなんていいたくないなんて言ってたんだろう。我らもそれに共感しただけだ」と言われた。それは確かに、シレーバさんから魔物の事を聞かされた時に私がいった言葉だった。
私の言葉で、シレーバさんたちがそう思ってくれていることが嬉しかった。皆が頑張って、目標を叶えようと必死だから、私も頑張ろうって思えるんだ。
だから、私は魔力を必死にねる。魔力を感じる。温かいものが私の中に確かにある。それを、形づくる。イメージするのは、風の刃だ。それを目の前にある木を切り倒すことを目標に行使する。でも、上手くいかなかった。
それを何度も何度も繰り返す。
中々上手くいかない。だけど、繰り返していく中で、少しずつだけど何だか上手くいっている感じがする。魔法の練習を始めた当初はもっと上手くいってなかった。僅かだけでも確かに私は進んでいる。それが実感できると嬉しくなる。
「レルンダ、ちょっとずつ上手くなってるね」
「嬉しい」
「レルンダ、もっと上手になったらレルンダがいっていた空を飛びたいも叶うから」
「うん」
お空、飛べたらと思う。私はグリフォン達やシーフォの背の上から空からの景色を見たけれど、自分もお空を飛べたら素敵だなと思うから。自分の力で空を飛んで、大好きな家族たちと一緒にお空を散歩でもできたら、なんて素敵で、楽しいのだろうって、想像するだけでもわくわくする。
私は人間で、レイマー達はグリフォンで、シーフォはスカイホースで、フレネは風の精霊で。皆種族は違うけれど、私にとって家族と認識している存在たちだ。家族と一緒の方が嬉しい。私もお空を飛べるようになりたい。
そんな願望が強くて、私は一層に風の魔法の練習にのめりこんでいた。
――――少女と、魔法の練習 1
(多分、神子な少女は風の精霊と共に魔法の練習をする。大好きな人たちを守れる力を求めて、少女は練習に励むのだ)