少女と、獣人 3
「どうして、ここに住むことになったんだ?」
「捨てられたから」
「……捨てられたとは、家族に?」
「うん。そう。シーフォがここ、連れてきてくれた」
「シーフォとは、スカイホースの名だったか」
「うん」
「契約をしているというのは、本当なんだな。……まさかと、思うがグリフォン様たちとも?」
「うん。グリフォンたちとも、してる」
「……それは、どのグリフォン様とですか」
「全員」
私は今、ガイアスのお父さんに凄く色々聞かれていた。
ガイアスのお父さんは私に興味津々のようだ。
一々驚いているというか、頭を抱えそうになっているみたいだけど、大丈夫?
ガイアスのお父さんと私が会話している間、他の人たちはこちらを見守っていた。グリフォンたちとシーフォも同様である。子グリフォンたちは会話を聞いているのに飽きたのか眠っている子もいるのが視界に映ったけど。
ちなみにガイアスは私の隣だよ。
ガイアスのお父さんは、私が全員と契約をしていると聞いたら目を見張った。
「……ここにいるグリフォン様、全てとですか」
「うん。ところで、どうして敬語?」
突然敬語になったから、驚いて聞いた。
「……グリフォン様と契約している存在に無礼な真似は出来ませんから」
「そんなの、気にしなくていい」
私はそんな風にガイアスのお父さんにかしこまられるような特別な存在ではないから。多分神子かもだから、特別といえば特別かもだけど、ガイアスのお父さんに敬語使われるの何だかさびしいし。
敬語って、なんだか心の距離がある感じがして嫌だなと思ってしまう。ガイアスのお父さんの方がずっと年上だしね。
それから敬語を使いたいガイアスのお父さんと、敬語を使って欲しくない私の攻防が繰り広げられた。結果は、
「わかった。敬語は使わない。これでいいか、レルンダ」
「うん!」
私の粘り勝ちである。頑張った!
その攻防が終わったあと、私はいう。
「皆、名前、知りたい」
結局、ガイアス以外の名前を把握できていなかった私である。ガイアスのお父さんとは沢山話していたけど、まだ名前を聞いていなかったの。
それでガイアス以外の四人が自己紹介をしてくれた。
ガイアスのお父さんはアトス。
茶髪の女性の獣人は、シノルン。
赤髪の男性の獣人は、オーシャシオ。
茶髪の男性の獣人は、ドング。
そんな名前であるらしい。
「アトスさん、貢物、よく持ってくる?」
「二か月に一度ぐらいだな。基本的に希望がなければ食べ物やグリフォン様が集めているような物を持ってくる」
「グリフォンたちの言葉、わかる?」
「グリフォン様の言葉は正確には分からないが、なんとなくは意思疎通が出来る」
「なんで、グリフォンたち、神様?」
「圧倒的にこの森の中でも強者であるから。それに森の中での生活でグリフォン様に助けられたこともある。そういうことが重なった結果だ」
グリフォンたちが圧倒的に強くて、時々助けてもらったり恵みを与えてもらったり、そういうことが重なった結果、この森の中でグリフォンたちが神様みたいにあがめられているってことなのかな。グリフォンたち、凄い。
「アトスさんたち、どこ、住んでる?」
「ここから東に一週間ほど歩いた先に我らの村がある」
「行っても、いい?」
私はアトスさんに思わずそう問いかけていた。
獣人というのを見たのはガイアスが初めてで。五人もの獣人と対峙するのも今回が初めてで。興味が
あった。
それにここでグリフォンたちとシーフォと共に暮らす日々は穏やかで、楽しいけれど、私は人間で。獣人たちが持ってきてくれたという服の問題もそうだけど、ずっと暮らしていると問題が出てくる。
私は皆に助けられている。だけど、家族であるのなら支えられ、助けられるだけではなく支えて、助けたいと思う。
獣人の里に行ったら、私に出来ることが何か見つかるかもしれない。明確な目標も、これからどうやって生きていこうとも考えていないけれど、何かしら目標が見つかるかもしれない。そうも、思うから。
……まぁ、もふもふなだらけな獣人の里に興味津々で、どんなもふもふがいるのかなとわくわくしているからというのももちろんあるけれど。
「我らの村にか? ……それは構わないが」
「ありがとう。皆……連れてって、いい?」
「グリフォン様と、スカイホースを?」
アトスさんは私の申し出に少し驚いた顔をした。でも私は家族を置いて新しい場所に行く気はなかった。それに契約したわけだし、一緒にいるのは当然だと思うの。
「駄目?」
「いや、構わない。ただ、グリフォン様たちもとなると村の方で受け入れの準備をしたい。人間であるレルンダを受け入れる準備も必要になるし」
「人間だと、準備いる?」
「……レルンダは子供だから知らないかもしれないが、人間の中には我らを人と認めなかったり、奴隷に落とすために捕まえるものもいる。まだ子供で、グリフォン様とこれだけ親しくしているレルンダを受け入れないことはないだろうが、複雑な思いを抱えるものもいるのだ」
「……酷い話、だね」
全然知らなかった。
獣人と会ったこともなかったし、獣人の話題が出たことも村ではなかった。存在は知っていたけれど、村だとそんな教育もされていなかった。
人間第一、人間一番、って考え方ってあるんだ。そんな考え方より皆で仲良くした方がずっと楽しいだろうに。
それから準備が出来たら使いをこちらにアトスさんがくれることになった。それで会話を交わしていたらすっかり日も暮れていたので、皆グリフォンの巣に泊まることになった。アトスさんたちは恐縮していたけれど、結局泊まった。
私はいつも通り、子グリフォンたちと一緒に眠りにつく。その日はガイアスも一緒だった。ガイアスは遠慮していたけれど、「一緒が、いい」って頼み込んだら頷いてくれた。
これで子グリフォン4匹と、ガイアスでもふもふに囲まれて睡眠をとれるわけである。その日はとっても幸せな夜だった。
翌日、アトスさんたちは村へと帰っていった。
獣人の村にいけるの、楽しみだな。
――――少女と、獣人 3
(多分、神子な少女は獣人の村にいく約束を獣人たちとする)