96話 ハンターギルドの方向性と小悪党
夕闇が迫る中で、大会後の宴会が行われていた。まぁ、住民たちにとってはハンターギルドとかの大会とか理由はなんでも良い。お祭り騒ぎをしたかっただけだ。スラム街ではお祭りなんかなかった。というか祭りというものすら知らなかった。そのために、大勢が集まって陽気に楽しんで過ごすことに大興奮していた。
「うめぇ~、この焼き鳥うめぇよ」
屋台ではガドクリーチキンに鶏油をかけた焼き鳥を売っており、その旨さに舌鼓を打つ。天然物の油をかけるだけで、合成チキンの味が数段跳ね上がって、夢中になって頬張っている。
「プハァ〜、良く冷えたガドクリービールもいけるぜ。チキンと一緒に食べると最高だ!」
「こんなにたくさん食べられるなんて、ここに来てよかった」
「ランピーチ様々だな!」
皆は笑顔で大騒ぎだ。ガドクリー食品は正直いうと、一般の合成食料よりも不味い。それでも明日の食物もなかったスラム街の住人たちにとってはご馳走だった。
なので、すぐに祭りにして大騒ぎをするというヒャッハー文化がランピーチマンションには作られ始めたが、それは少しあとの話である。何かあればすぐにお祭り騒ぎにする小悪党のせいであるのは間違いなかった。
小悪党率いるチヒロ、ドライ、セイジ、ガイ、コウメはそれを見ながら、ゆっくりと飯を食べていた。
「大騒ぎですね、ラン」
クピリとジュースを飲みながら、チヒロが騒いでいる人達を眩しい光景かのように見つめる。以前の拠点なら絶対にあり得ない光景だった。
「だなぁ、でも祭りは楽しいし良いだろ」
もちろんランピーチもガドクリービールを飲んでいる。だが、そのまずさに眉をしかめてしまう。まずいと言うか薄い。本来のランピーチなら、うめぇ~と顔を綻ばすだろうが、残念ながら前の世界のビールの味を知っている今のランピーチは美味しく感じられなかった。
「あ〜、ガドクリー合成食料は安いけど、いまいちだよなぁ」
このビールは水の代わりに飲むためのものかな? 炭酸の抜けたサイダーみたいな味だ。
「地上人が飢えないようにと地下街区から配給されているものですから仕方ないことかと」
セイジが苦笑をして、手に持つビールを掲げる。色合いはビールなだけに残念さが半端ない。
ガドクリーと名のつくものは、全て地下街区からの流れ品だ。その値段は驚くほどに安いが、驚くほどにまずい。もっと美味い物を食べたければ、地上街区の合成食料を買えばよいのだが、この拠点に住む住人の懐具合は良くない。なのでカドクリー製品だけを用意していた。
さすがのランピーチも一人だけ良い物を人々の前で食べることはできなかったのである。小心者の小悪党の可能性もある。
「まぁ、良いや。それじゃ大会の勝者はハンターとして登録するからこれからよろしくな」
もうこのビールはいらないやとテーブルに置くと、気を取り直してハンターたちを見ると、にやりと笑う。
大会勝者への賞品をあげよう。
「結局俺を含めて四人しかハンター登録できなかったけど、ランクは決めておこう。ナンバーワンは、『今孔明』ならぬ『今幼女』のコウメ! その智謀は追随を許さない。ハンター登録は危なすぎてできなかったけど、将来頑張ってくれたまえ」
「あい! コウメはがんばりゅ!」
ランピーチの膝に乗っていたコウメはノリノリだ。ふんふんと鼻息荒くちっこいお手々をあげて、大興奮だ。なにしろ大会2冠だ。
「賞品はおまんじゅう一箱だ。ご飯前にあんまり食べるなよ?」
奮発して経験値50の饅頭一箱だ。ナンバーワンなんだからこれくらいは奮発しないといけないよね?
「続いてナンバーツー、『饅頭喰い』の鶴木灯花! なかなかの腕前だ。期末試験は頑張って赤点を取らないようにするんだな。赤点取ると確実に実家に戻されるぞ」
「もう少し良い二つ名にしてよ、おじさん! もっとかっこいい名前! エイリアンの灯花とさか」
「エイリアンは宇宙からの侵略者って意味だからな? それとコウメの饅頭を奪おうとするんじゃない。可哀想だろ」
たぶんそういう意味だと思う。合ってるよな? それとなんでコウメに渡した饅頭の箱を受け取ってるんだよ。
「え~っ! エイリアンって、宇宙人ってゆー意味じゃないんだ。あとこれは箱を開けてあげるだけだよ。ほら、ぴっちりと貼られたビニールって剥がしにくいでしょ?」
「あけたらみんなでたべようね! みんなにくばりましゅ」
「さすがはナンバーワン! ナンバーツーは忠誠を誓うよ」
コウメを抱きしめて感動する饅頭少女である。コウメは嬉しくなって、キャッキャッとはしゃぐ。
「ハンターランクだって、言ってるだろ。忠誠とかないから。四天王とかじゃないからね? あと、赤点回避は?」
「美味しいね! 何個でも食べれちゃうよ」
「おいしーでしゅ」
駄目だこりゃ。赤点といった途端に騒ぐから諦めた。次に行こう。
「ナンバースリーの『氷』のドライ、もう少し頑張ろうか? ナンバー4はガイね」
「強くなったと思ったけど負けた。ピーチお兄ちゃんなんで?」
ドライは不服そうだ。頑張ってレベル上げをしたのにと不思議そうでもある。
「3位決定戦やってないべ、ランピーチどん?」
「3位決定戦は多数決だから諦めてくれ。ぶっちゃけ3位決定戦って、盛り上がらないんだよ。賭けも事前に用意できないしさ」
金が動かない格闘試合なんかやっても意味ないだろと平然とした顔で告げると、ガイはため息を吐いてあっさりと引き下がる。もう少し足掻いたり不満を口にしないと、鈍臭い男のフリは無理だぞ? 理解が早すぎるんだよ。ここは「なんでおらだけ〜」とか不満を口にして駄々をこねて、殴られるまでがパターンだろ。
「まぁ、良いや。それよりもドライが弱い理由はやはり魔力の使い方がなってないから。正式な訓練を受けたことがないからか?」
「あ~、それはあるね。ドライちゃんは魔力の使い方が全然できてないんだよ。力任せなんだよね。ガイさんはそこそこ出来てたよ。おじさんは出来てるのに、教えたことないの?」
モキュモキュと饅頭を食べながら灯花が言う。たぶん攻撃や回避時の一瞬の魔力の集中の仕方とか、魔力運用方法のことだろう。ドライはその点、まったくできていない。
「俺は感覚型だから教えられないんだよ。なんとなく自然に動かしているだけだからさ。ほら、いわゆる天才型ってやつ?」
嘘である。スキルの使い方は頭にあるが、その内容は膨大で教えることなんかできない。呼吸するように自然に魔力運用ができるのだ。小悪党ランピーチはインストールされたプログラム通りにしか動けないのだ。
「あ〜、たしかに天才ってそーゆーところがあるって聞いたことある。私も教えるの苦手だし」
自身を天才と言い放つ灯花。たしかに体術は頭一つ抜けている腕前だ。言うだけはあるが、謙遜という言葉は知らない模様。
「魔導学園に通った方がいいべさ。あそこなら基本から学べるしな。おらが教えてもいいけんど、きっと歯抜けの適当な訓練になるべよ。若い人はしっかりとした訓練を受けた方がいいんだ。特にこれから上を目指すんならな」
「そうですね……。魔導学園はお金を積めばとりあえずは編入テストは受けられます。スラム街とかで見つかった素質ある子供たちがたびたび編入するのは珍しくありません。今のドライさんなら、編入試験代くらいは簡単に出せるでしょう」
まともなことを言うガイに、セイジも頷く。
「うーん、ピーチお兄ちゃんはどう思う?」
「まぁ、良いんじゃないか? その代わり、テロリストや魔物が襲撃にきたら、俺に教えてくれ。クエストクリアしに行くから」
学園襲撃イベントって、必ずあるからな。是非呼んでくれ。
「ハンターギルドはどうするんでしょうか? ドライが抜けたら、ラン、灯花、ガイだけになりますよ?」
零細ギルド、ギルドメンバーはたった3人。零細すぎるかもしれない。
「ギルドは作ったんだけどな……」
開け放しの扉の向こう、廊下の向かい側に自動ドアがある。ドアの先には待合室と受付窓口、依頼表が壁にかけられているモニターに表示されているのだ。物論窓口はウサギ。
今のところは閑古鳥だ。なにせハンターがいない。『拠点防衛術』を6に上げて設置したのが『ハンターギルド』だ。まだ使用していないんだけどね。ゲームでも設置したことはなかった。街に探索者ギルドがあるのに、設置する意味などなかったからだ。だが、使用方法は知っている。なぜ探索者ギルドではなく『ハンターギルド』となっているかはわからないが。
ハンターに登録する方法は簡単だ。チュートリアル試験を受ければ良いだけ。そして、チュートリアル試験は仮想敵を倒せば良い。
だけど、その試験内容、即ち出現するモンスターを倒せたのは俺とドライ、灯花、ガイだけだった。
……仮想モンスターがかなり強かったのだ。多分探索者ギルドだと星3は必要。なんで、こんなに水準が高いのかわけわからん。いや、本当はわかってる。ランピーチ難易度だからだ。
「まぁ、精霊区へのテレポートポータルも設置しないとだし、手始めにそこからだな。だからそれまでは魔導学園で鍛えてこいよ」
ハンターギルドには素材稼ぎ用に必ず精霊区へのテレポートポータルがあるからな。自前のギルドを設立する場合はそれらも自前で用意しないといけないんだ。
「さらっと変なことを言いませんでしたか……?」
何故かドン引きの顔になるチヒロたち。俺なにか変なこと言ったかな?
「むぅ、わかった! それじゃ学校行って半年で卒業してくる!」
「その意気やよし! そんじゃセイジ、学園の試験の手続きはよろしくな?」
「わかりました。それではこちらで話を進めておきます」
決意に満ちた表情のドライにセイジがニコニコと笑顔で頷く。俺もゲームでは3ヶ月で卒業したから、問題ないだろう。……ないよね?
「それじゃ暫くは水面下で動くってことで良いか?」
「あ〜、良いけんど、あんまり良くないべ………」
「ん? なにかあるのか?」
「ランピーチどんにはおらがここに来た理由を教えてないべさ?」
「前のパートナーを見捨てたんだろ?」
「それは響きが悪いべ。実はな、おらのパートナーが例の鎧を育てるのに……カジノの最高レベル商品を取ろうとして………破産したべさ」
気まずそうにガイが言う内容は驚きの内容だった。はは~ん、必勝法を使おうとしやがったな。
「聞かせてくれ、心の友よ」
もちろんそんな面白そうなイベント、スルーするわけがないランピーチだった。