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93話 ???

 漆黒の宇宙。星は静かに光を放ち、真空の世界は全ての物を凍りつかせるように残酷で生き物が存在することを許さない。


 何者も侵すことのできない世界。永遠に変化のないと思われる世界だが、地球から遠く離れた小惑星帯に小さな光が瞬いていた。真空の世界にてその光は小さく、一瞬だけ輝く。いくつもいくつも。


         ◇


 小惑星の一つの岩塊に蟻が張り付いている。いや、その蟻は生物ではあり得ない金属製の外骨格を持ち、岩塊に取り付けられているケーブルから伸びた戦艦に取り付けられるような長大な砲を担いでいる。


 メカニカルなバイザー型カメラアイが頭に光り、多脚は滑らかに動き、まるで生物のようだが、それは機動兵器であった。全長は10メートル程度、機械仕掛けの蟻はわずかにカメラアイを動かしていた。そして、蟻の中には一羽のウサギが搭乗している。


『エリアE7から敵機侵入を感知うさ。敵の数2機。ラギョウ隊はこれを至急迎撃せよ』


 コックピット内に、ピピッと通信音が入り、雑誌を読んでいたウサギ、名前はロロと言う。ロロはフワァと小さくあくびをして、モニモニと口を動かして返答する。


「ラギョウ隊、了解うさよ。そろそろこのエリアが墓場だと考えて欲しいうさね」


 スンスンと鼻を鳴らすと、ロロがモニターに映るオペレーターうさぎへと親指を立てる。うさぎなので、親指ではなく前脚になっちゃうが、気分の問題なのだ。


 180度モニターにて、映し出されるのは長く広がる小惑星帯だ。狭い小惑星帯には、戦艦や機動兵器と思われる残骸が漂っており、遥か昔に大規模な戦争が起こったことを示している。


 手元のコンソールは思念伝達型となっており、水晶のように半透明で細かい内容だけはキーボードを叩くが、基本はレバーを握ると自在に操作できる。クッションの良い椅子に座り直して、シートベルトを付け直すと、思念を送り通信を開始する。


「敵を感知したうさ。全機戦闘準備、ララは敵の索敵始め」


 通信にモニターにすぐに一羽のうさぎが映し出される。


『こちらララ。敵機索敵開始、索敵成功、敵種類偵察型人工悪魔レッサーデーモン『グレムリン』と解析うさ』


 すぐに新たなるモニターが中空に浮かび上がり、コウモリのような羽根を生やす赤い体の小柄な悪魔の姿が映し出される。


『グレムリン:レベル6』


 その姿を確認して、ロロはフッとクールに笑おうとして、うさぎなのでスンスンと鳴く。どうしてもウサギなので、クールにするのは無理っぽい。


「ハーケーン製の偵察機人工悪魔たった二機とは馬鹿にされたもんうさね。各機、スタンバイ。切るゾーンにて迎撃するうさよ」


 スパンスパンと切って倒してねと、ロロはちっこいお手々をぶんぶん振る。


『撃って倒さないの〜?』


「この程度に砲を使うと、姉御が赤字ですって、渋い柿を食べさせようとしてくるうさ」


『あれって、渋いよね〜』


『リリは貰ったら干しているうさよ』


『良いなぁ、ルルにも干し柿の作り方教えてうさ』


『コツが必要うさ。親分のウサギたちに混じって地上に降りるのがコツうさ。そんで日干しするうさ』


 干し柿なら美味しいよねと、話が脱線しそうになるのをロロはペシペシとコンソールを叩いて引き戻す。うさぎは集中力がないので、すぐに脱線しちゃうのだ。


「グレムリン程度ならタイマンで大丈夫ウサね。ルル、レレ、接近戦を許可する。迎撃を開始せようさ!」


『ルル了解うさ』

『レレ了解うさ』


 返答と同時に、小惑星帯に二本の赤いエネルギー光が現れて、光の帯を残していく。


 蟻型機動兵器『アントリオン』だ。ルルとレレの操るアントリオンが隠れていた小惑星から出撃した。


 小惑星帯に隠れるために、メタリックな装甲は茶色に塗られており、関節部分には複数のスラスターと脇腹に大型バーニアが取り付けられて、赤い粒子を吹き出す。


 小惑星帯を縫うように飛行して、突如として出現したアントリオンを見て、グレムリンたちが慌てて旋回し、手のひらからエネルギー波を撃つ。


極大火炎砲フレイムカノン


 放たれたエネルギー光はアントリオンとの間に存在する遥か昔の戦艦の残骸を貫き、勢いをなくすことなくアントリオンへと迫っていく。恐ろしいエネルギー量であり、残骸は一瞬で溶解し、真っ赤に熱せられて散らばっていく。


 だが、アントリオンは翅を震わせて、回避することなく、まっすぐに向かう。そして、まともに命中するが、残骸とはいえ、戦艦をあっさりと融解させたエネルギー光は、アントリオンの手前に出現した赤い障壁の前にあっさりと霧散した。


「しょぼい魔法では、このアントリオンのシールドは破れないうさよ!」


音速兎歩ソニックラビット


 ルルの操るアントリオンが白く輝くと、加速して音速となり残像を残し、グレムリンに肉薄する。慌ててグレムリンは後退し、繰り返しエネルギー光を放つが残像を貫くだけで、かすりもしない。


 スラスターを吹かせて、小惑星をギリギリで回避して鋭角に機動しながらルルの操作するアントリオンはグレムリンに向かう。


 お互いに小惑星帯の合間を音速で飛行していたがルルの操るアントリオンの方がスピードは上であった。恐るべき速さでグレムリンに肉薄したアントリオンは前脚を伸ばすと魔法を発動させる。


『赤熱双剣』


 二本の剣を繋ぎ合わせた双剣が手元に出現し、真っ赤に輝く。真空の中でもその熱さは感じられて、生身で近づくだけで燃えてしまうだろう高温だ。


「ルルがウサギうさ!」


 スンスンと鼻を鳴らして、レバーを倒し、ルルは当たり前のことを口にするけど、決め台詞にしている模様。


 グレムリンが爪を伸ばして斬りかかるが、アントリンは爪へと双剣で合わせて受け止める。ぶつかり合う衝撃でエネルギー光が弾くように生まれて、お互いの体を照らす。


 膨大なエネルギーのぶつかり合いだが、その天秤はアントリオンの双剣に傾く。グレムリンの爪が溶けていき、切り払われる。


 そのまま爪ごと、グレムリンの腕を切り落として、返す刀で胴体へと食い込ませる。


「ここの残骸の一つとなれうさ!」


 やっぱり決め台詞を口にして、むふーと気合を入れてレバーを思い切り倒す。アントリオンの身体が軋み全力で双剣に力が伝わって、グレムリンの胴体を真っ二つにするのであった。


 爆散して散っていくグレムリン。レレの迎撃したグレムリンも爆発しており、敵を殲滅したことを確認し、ルルはコクリと頷くとマジックペンを取り出す。


「やったぁ~、撃破した〜。撃墜星を書くうさよ〜」


 そうしてコックピットの壁にカキカキと星マークを描いちゃうのであった。撃墜王を狙うパイロットは敵を倒すと星を描かないといけないのだ。絶対に星マークを描くんだうさと、時間が空いたら描いちゃうルルは、背伸びをしてコテンとツルンと滑って、コックピットから落ちちゃうのだった。


「ヘルプミー、椅子と壁の間に挟まっちゃったうさよ〜。出れないよ〜、たちけて〜」


 そうしてジタバタと暴れて、挟まっちゃったと焦るルルだった。


 その間抜けな様子を見て、ロロはため息を吐いて、やれやれと通信を切る。敵はレーダーに映っていないので、ルルは放置することに決めて、コンソールを指でトントンと叩く。


「なんだか急に偵察機が増えた気がするうさ。今月は3回目。それまでは百年間隔だったのにおかしいうさ?」


 いつもは待機モードで動くことなく、意識を閉ざして人形のようにコックピットに座っていたのに、今月からは稼働しっぱなしなのだ。少しおかしくない? と首を傾げるが、他人が聞いたら少しどころではないが、のんびり屋さんのウサギたちにとっては少し変なことだった。


 不思議に思うロロに、新たに通信が届く。黒髪黒目の子犬のような庇護欲を喚起させる美少女ミラだ。


『恐らくはエレメントストリームをプレイヤーが正常化した時点で、敵は不自然さを感じ始めたのでしょう。情報封鎖を行っていても、どこか変だと考えて、コロニーに異常がないか確認しに来たのだと推測します』


「目敏い敵だうさ。でも、このままの間隔で攻撃されるとエネルギーが足りなくなるし、メンテナンスも必要になっちゃううさよ?」


 ポチポチとボタンを押して困り顔のロロ。『アントリオン』は自動メンテナンスと自動エネルギー回復装置が搭載されている。


 だが、その補給システムはすぐに回復するわけではない。数ヶ月をかけて回復するので、気休めの装置といっても良いだろう。


 本来は滅多に現れない敵との戦闘のための機動兵器。こんなに連戦をするためではない。


「あんなに高速機動で戦闘をしたら、すぐにガタがきて、後方で補給とメンナンスが必要うさ。この間隔ではアステロイドベルト防衛線は守りきれないうさよ」


『わかっています。現在プレイヤーの稼ぐ経験値うんめいえねるぎーの95%を手数料として貰ってます。そのエネルギーを使用可能とするために再稼働を開始したドッグで精製中なので、もう少ししたら補給船を稼働できるはずです。それまでは絶対に防衛線を破られないようにしてください』


「ラジャーうさ。でも、限界はあるうさよ? 敵が偵察機ではなく、本格的に侵攻を開始したら防ぐことは無理うさ。それと手数料のことを親分は知ってるの?」


『その場合は遅滞戦闘をして、ギリギリまで防衛をし、欺瞞コードをばらまいて自爆してください。手数料のことはもちろん知っています。だってたった五千ポッチのエネルギーで宇宙港を再稼働できるわけないじゃないですか。五千経験値は火を入れるスイッチに過ぎないと理解してますし、説明書の第百億七項にも手数料のことは書いてあるので、読んでいるはずです』


「きゅー、ウサギ扱いが酷い人うさ。それと説明書は人間には読み切れないと思うけど……気にしないことにしておくうさよ」


 罪悪感なく命じるミラに、きゅーきゅーと鳴いてみせるが、死んでも復活できますよねと、ミラには通じない。親分への秘密も自己解釈を拡大させて秘密ではない事にしていたりする。


『それと倒したグレムリンの精霊晶石は回収してくださいね。しっかりと破片とかも回収して、コロニーまで送ってください。小さな破片も全部お願いします』


 さらに細かい指示も出す上司にげんなりとしちゃう。


「そろそろうさは地上のウサギと交代させて欲しいうさ。もうたくさんお仕事したよ?」


『もちろん申請はいつでも可能です。異動願を提出してくれれば、総務、人事部、役員会議を経て簡単に承認します』


 全ての部門はミラ一人だけだけど、一応承認ルートどおりにするつもりのミラだ。そのセリフに、紙幣に異動願を書こうかなと、ロロはため息を吐いちゃうのだった。

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