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9話 採取する小悪党

 木の杖10エレ、木の銃3丁、これも10エレ。合わせてもう40エレも稼げたランピーチである。大儲けと言って良いだろう。この世界は魔物の体内に換金用の魔石はないのだ。


「これ、追い剥ぎと全然変わらんな。おっとゴブリンシャーマンの羽飾りも貰っていくか」


 ゴブリンシャーマンの羽飾り1エレ。どう見てもゴミであるが、いそいそと回収する嬉しそうなランピーチである。どこからどう見ても小悪党が追い剥ぎをしている光景であった。


『そんなゴミを集めてどうするのさ! 男ならどーんと大金を稼ごうよ! 阿蘇精霊地区にレッツゴーだよ、レッツゴー!』


「断る」


 不機嫌ご不満なライブラが頬をふぐみたいに膨らませて、ピシピシと額をつついて来るので、邪魔だなぁとシッシッと追い払う。ライブラの口車に乗って危険を冒すつもりは欠片もない。


「そういや、ライブラは実体が倒されてもすぐに復活するのな」


『そりゃ、私の本体は『宇宙図書館スペースライブラリ』だからね。この可愛らしい身体は不死にして不滅なんだよね。うっふ~ん』

  

 身体をそらして、得意げにその蠱惑的な体を見せつけてくるライブラ。まぁ、ヘルプ機能が消えたら困るしなとゲーム理論だなとランピーチは気にせずに歩く。

 

『あれれ? そこは照れるとか、好き放題にできるとか下衆な笑みを見せるところじゃないの?』


 胸を見せつけるように面白そうな顔のライブラにランピーチは冷笑で返す。


「ここが廃墟街じゃなくて、寒くなければな。今はそれどころじゃないだろ。……そろそろ見つかっても良いはずなんだけど……。お、感知したぞ」


 ザクザクと雪を踏みしめながら歩くと、ようやく前方の壊れて枠組みしかない廃ビルの角に感知が引っ掛かった。そこは瓦礫が積み重なり、その上に雪が積もっている。


『あ、なにかあるよ。価値のあるなにかがあるよ! 拡張表示するね!』


 そしてライブラが飛び跳ねて、髪を引っ張ってくるので、とてもウザい。だが、ライブラの力により感知された箇所が光り始める。わかりやすい強調表示だ。


 採取アイテムが隠れているのだ。雪をかき分けて感知した場所を探すと、小さな白い花があった。よく見ると氷の花弁で、今にも壊れそうだった。


『氷の花を手に入れたよ!』


『チュートリアル:初めての採取をクリアしました。経験値5000取得』


 採取おめでとうと、ライブラが無邪気な可愛らしい笑みで言うと、空中で四肢を広げてパンパカパーンと口ずさみお祝いをしてくれる。その愛らしさに小さく笑みを浮かべてしまい、手を伸ばし頭を撫でようとするが、ライブラの頭を透過して空を切った。


『駄目駄目、お触り禁止、私の身体に触るにはもっと好感度とレベルを高めて、最高級レストランの料理を食べさせる余裕の金持ちになってくださーい』


「そっちからは触れるのにかよ。それに条件が厳しすぎる。今や平均年収ならば良いと結婚条件が下がってるんだぜ?」


『やだなぁ、私は最高の女性だから、これは全然高望みじゃないんだよ!』


 飄々と返してくるライブラは本当にそう考えており、実際にそのとおりなのだろうと、ランピーチは肩をすくめるにとどめる。


『それより、氷の花はその場で食べて氷抵抗を上げるだけだよ? 持ち帰ることはできないんだよ?』


 『氷の花』は氷抵抗+10%のアイテム。廃墟街でも積雪モードなら採取できるお手軽な花だ。だが溶けてしまうため、持ち帰ることはできない。


「そんなことはわかってる。だが、もう一つあるだろ? そのために廃墟街を彷徨いていたんだ」


 ゲームで冬に使われていた金策手段だ。まぁ、その頃には金を簡単に手に入れることができるようになっていることが多くて、あまり使われなかったが。


『錬金術レベル1を取得、銃術レベル2まで取得』


『取得しました。銃技を二つ選んでください』


『早撃ち、銃習熟を取得だ』


『取得しました』


 ポンポンと軽くスキルを取得していく。新たなる知識が脳内にインストールされ、クラリと一瞬身体がふらつく。


『錬金術:ポーションを作れる。レベルアップ毎に超力+2』

『銃術:銃術を取得する。レベルアップ毎に器用度+2』

『早撃ち:先制攻撃確率大幅アップ』

『銃習熟:銃の威力50%アップ』


 手に入れたスキルと特技を見て、ホッと安堵する。銃の特技はパッシブの効果アップ。特に早撃ちは戦闘開始時に構えるのが大幅に早くなるし、銃習熟も攻撃力がアップするので外せない。地味に使える特技なのだ。 

 

 これで一応はバタバタ戦闘とならないだろう。


「まぁ。それはそれとして、今回はポーション作りだ」


『なるほど、氷の花のレベルは1。ポーション素材にするつもりなんだね?』


 氷の花を摘み取ると、ランピーチはゲーム通りの力を使えれば良いんだけどと、内心でビビリながらもステータスボードから錬金術の一覧を開きポーションを選択する。


「そのとおり。それじゃ、『ポーション作成』」

 

『錬金術:ポーション作成』


 氷の花が錬金術の力により、サラサラと砂のように崩れていく。崩れた花はランピーチの手元で一瞬閃光を放つと、手のひらいっぱいの飴玉へと変わった。その数は1ダースある。


『氷の飴玉12個:氷の抵抗力+10%、効果は6時間』


「ふふん、どうよどうよ? これぞ、真の錬金術。使えない氷の花を金に変える術だ。これバラ売りできるんだよ」


 ピンと氷の飴玉を弾くと、ニヤリと嗤う。その様子は良い稼ぎになるぜと怪しいシノギを見つけた小悪党のごとし。


「しかも1個千エレでな。ほら、安くても季節アイテムって、その季節しか手に入らないから、普通の抵抗ポーションよりも高いんだ」


『おぉ、ポーションなのに飴玉なのは酷く疑問だけどね』


「それは俺も同感だな」


 そうして、二人で楽しそうに笑いあい━━。数時間後、かなりの飴玉を作ることに成功したのである。


          ◇


 かなりの氷の飴玉を手に入れたランピーチは、廃墟街を引き返し、スラム街を抜けると目的の場所に辿り着く。スラム街との境目が存在するかのごとく、聳え立つビルや家屋、店舗は綺麗なものだ。


 エルダージュと呼ばれる街の『地上街区』である。そこかしこに警備の人間が武装して立っており、この街区の治安を守っており、強盗どころか、スリすらも簡単に射殺される容赦のない場所である。地上街区の裕福な区域にスラム街の汚く貧乏な者が近づくと、殺されても文句はいえないほどに厳しかった。


 だからこそスラム街と隣接しているにもかかわらず、その苛烈な処罰により、治安が保たれていると言えよう。


 そのような治安の良い場所なので、ランピーチは角を曲がるごとに、警備員に睨まれていた。こいつは犯罪を起こしそうだ、そんな感情が瞳に乗っかり、それでも地上街区でも外側の地域であり、荒くれ者の集まりである探索者がいるのは変な話ではないので、追い払おうとはしていなかった。


「『小悪党』スキルのデメリットだな。だけど『お人好し』スキルで詐欺師に纏わりつかれるよりはマシか」


 探索が終わり疲れきっているランピーチはため息をはきながら、のたのたと肩を落として歩く。周りの視線は厳しく、対面からやって来る一般人の中にはランピーチを見て、あからさまに嫌そうな怯えた顔で避けていく者もいる。


 肩でもぶつかったら、慰謝料請求されそうとでも思っていそうである。


『小悪党スキルの効果ははっきりと現れてますね、やったね、ランピーチ! 夜だと警備員に射殺されちゃうかも!』


「黙れ」


 不可視モードになり、ランピーチ以外には見ることができないライブラが可笑しそうにクスクスと笑い、ふわりふわりと宙を舞う。


 ランピーチはその天女が舞うような可愛らしい様子を見て、眼福だと思い気を紛らせながら道を進む。眼福だねと目尻を緩ませて歩いているので、ますます怪しさを見せるが、ランピーチはそのことに気づいていなかった。


 地上街区は、以前の世界とあまり見かけは変わらない。コンビニは流通に限界があるため存在しないが、個人商店は数多くある。惣菜屋や弁当屋、レストランに酒場や雑貨屋と建っており、街灯もあるので違和感を感じさせなかった。


 ただ一つ。『魔道具店』や『銃器店』が存在し、ガシャンガシャンと西洋鎧を着ていたり、狙撃銃やガトリングガンを持つ者が練り歩き、装甲車や軍用のバギーが道路を走る姿に違和感があった。


 違和感というか恐れしかない。世紀末ディストピアここに極まれりだ。夢だと考えていた時には楽しめる余裕があったが、今は街なかでも物騒だなぁとランピーチは怯んでいた。


「さっさと飴玉を換金して帰ろう。ここはまだ俺が歩くには難易度が高いよ」


『なんでスラム街の方が安心するのかな? 私にはここの方が安全に見えるんだけど?』


「スラム街の住人はレベル0がほとんどだろう? 対してここは本物の探索者が住む場所だからな。レベルも高い奴らがうじゃうじゃいる。危険度はこちらの方が高い。警備員はレベル2が最高。戦闘になると本物の探索者には敵わないんだ」


『むむむ………なんか変だけど、そのとおりかも? 今のランピーチならたぶんスラム街の敵には負けないもんね』


 なるほど〜と、腕を組んでランピーチの言葉にライブラは納得する。


 内心では警備員狩りも良い金策だったんだよと思っていたが内緒にしておく。警備員はそこそこ良い装備をしているので、片端から殺し回収した装備を売る外道な方法だ。ゲームではよくある金策とも言う。街へと支払う赦免料金よりも稼げてしまうのであったが、この世界で可能かどうか試す気はない。


 暫く歩いて、目的の店を探す。同じような店はたくさんあるが、その中でもランピーチはある店を探していた。


 キョロキョロと周りを見渡して、空き巣でもできそうな店を物色しているのだろうかと、ますます警備員の顔が怖くなる中で、ようやく目的の店を見つけて立ち止まる。


「さて、ここだ、ここ。ここにしよう」


『なんなのですか? 雑貨屋はたくさんありましたが、ここはなにか特別なお店?』


「まぁな。現実でも上手くいくかはわからないけどな」


(ゲーム知識を今こそ使うべき。くくく、クリア経験のある俺なら金策なんか楽勝だ)


 ライブラの質問にランピーチは薄く笑うとドアに手を掛ける。


『クリタ雑貨屋』


 そう書いてあるお店へと入るのであった。

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