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85話 円卓の騎士と小悪党

「さぁ、円卓の騎士たちよ、王の号令を受けなさい」


『聖剣技発動』


 村正がワンドを振ると、円卓の騎士の雰囲気が変化する。剣に魔力を込め始めて、身体全体を使いランピーチへと剣を向けてくる。


『ソルジャー、どうやら敵は命令によって特技も使えるようだよ!』


『見ればわかるから。もう少しマシなサポートをくれない?』


 どう見てもこれから必殺技を使うぞといった感じです。子供が見てもわかるだろう。


『私にそんなことを期待しないで! 解析と仁王立ちだけしか持っていないんだからさ! 早く神霊ゆーごーをして、活躍させてよ。ソルジャーのことを旦那様って呼ぶからさ』


『謹んで御遠慮申しあげます』


 ランピーチの頭をペチペチ叩いて、プンプンと開き直るライブラにため息を吐きながら、ランピーチは神の視点で敵の様子を確認する。どうやら一回の指示で全員を動かせるらしく、円卓の騎士全員の剣に魔力が集まっていた。


聖光撃ホーリースラッシュ


 聖なる光が剣に宿り、邪悪を倒さんと攻撃を繰り出してくる。頭、腕、足と、三体の騎士が牽制を含めた一撃を放ち、後ろから追撃の振り下ろしをさらなる三体の騎士が用意していた。


「これは躱せないな」


 冷静に敵の攻撃を見定めて、回避は不可能だとランピーチは悟る。息のあった高速の連携攻撃は逃げ場を完全に塞いでいる。万が一回避されてもカバーできるように残りの6体が様子を見ながら剣を構えており、なるほど、この手練れならば格上も倒せるだろうと思わせる高い練度だった。


 それでもランピーチは焦ることもなく、涼しい顔で冷静に超能力を発動させる。


『サイキックボディ』

『サイキックブレード』


 自らのステータスを跳ね上げて、ゆらりと腕を揺らして不敵に笑う。


「地上街区の精霊鎧とは格が違うことを教えてやろう」


『剣聖』


 精霊鎧に備わっている固有スキル『剣聖』を発動させる。泡のように白金の粒子が剣聖の衣からチラチラと吹き出て、ランピーチの腕へと剣聖の力が宿る。


『剣聖:近接戦闘ダメージ100%アップ。回避率20%アップ』


「回避できなければ、太刀打ちするだけだ」


『精霊の篭手顕現』

 

 神秘の光が形となって篭手へと変わり、その膨大な力が吹き荒れていく。


「ヒュッ!」


 呼気を吐き、右足を軽く地面につけてずらす。高速での摺り足にて、ランピーチの身体がぶれて残像を生み出し、その手が振られ一瞬の輝跡が三体の円卓の騎士の身体を奔っていった。


『一閃』


 剣を突き出した体勢で鎧が輪切りとなって、バラバラとなってランピーチの横を残骸となり通り過ぎてゆく。その光景を気にもせずに、両手を広げて、さらに回転する。


『二閃』

  

 追撃の体勢をとっていた次の三体もその体が切り裂かれて、剣を振るうことなく倒れる。


 残りの6体へと冷笑を浮かべて、ターゲットとしてトンと一歩踏み出すだけで、間合いを詰めていく。


 ランピーチが眼前に迫り、腕を振り上げたことを見てとった円卓の騎士は剣を横にして受け止めようとして━━その体が縦に切られていた。剣は虚しく横に掲げられて、分断された円卓の騎士は地面に落ちる。


 仲間が倒されても、恐怖の心を知らない円卓の騎士たちはダッシュをして剣を繰り出してくる。


 ランピーチは最初の剣の横腹を軽く叩き弾くと、ずらすようにそのまま円卓の騎士の横を通り過ぎてゆく。


 腹から輪切りにされて落ちてゆく騎士を気にもせずに、次の騎士の兜に突きを入れて粉砕する。強く踏み込み残像を生み出すと、剣を袈裟斬りに攻めてくる2体の騎士の同時攻撃を両手で弾き飛ばし、返す刀で反対に袈裟斬りにて倒すのであった。


 残りの二体が間合いを詰めることをやめて、剣を前にして防御をしようとする。


「賢明な判断だが、遅すぎる」


 僅かに腰をかがめて、ランピーチは二体の円卓の騎士の間を縫うように駆けて、銀閃をその場に残す。


 ガシャンと音を立てて、細かく斬られた鉄の残骸が地面に転がっていき、ランピーチはにやりと笑い、村正へと顔を向けて、手をひらひらと振る。


「お代わりといこうじゃないか。復活できるのだろう? さぁ、復活させるが良いさ」


 青ざめた顔の村正へとからかうように告げて、余裕の笑みで堂々たる態度をとるランピーチであった。


          ◇


「し、信じられない……。圧倒的すぎる………。貴方は何者です? 円卓の騎士の鎧はアダマンタイト製。しかも私の補助魔法での強化もされているのです。オリハルコン製の剣でもかすり傷程度しか作れないはずなのに……」


 眼前の光景が村正は信じられなかった。現実離れしており、脳が理解を拒んでいた。


「そのオリハルコンの剣は本物だったか? きっと1%しかオリハルコンが含まれていないのに、オリハルコン製と名乗っていたんでは?」


「くっ、馬鹿にしないでもらおう。円卓の騎士たちよ、復活せよ!」


『アーサー王の加護』


 村正は悔しげに呻きながら、円卓の騎士を復活させる。地面に落ちた残骸を焰が覆い、元の姿へと戻ると、円卓の騎士は恐怖を見せず怯むことなく立ち上がり、ミチビキと名乗る男へと攻撃を再開した。


 円卓の騎士は、超一流の剣士だ。アダマンタイト製の無敵とも言って良い硬い防御力を持つ全身鎧、死を恐れることなく戦えるので、自身が傷つくことを恐れる必要がないため、生命あるものよりも一歩踏み込んだ戦法。


 そして、かつて存在したと言われている円卓の騎士の英雄レベルの聖剣術に、聖剣カリバーンの魔鉄すらもバターのように切り裂く鋭き刃。12体がまるで一体であるかのような連携の高さ。


 星9の探索者を倒せると言ったのはブラフではない。本当に勝てる力を持っているのだ。


「勝てるはず。勝てるはずなのに、どういうことだ!?」


 食いしばる唇から血を流し、村正は戦況を眺めて慄いていた。


聖光撃ホーリースラッシュ


 音速の速さと、魔力を断ち切り、精霊障壁を無効化する聖剣技がミチビキに対して振るわれる。何条もの光の帯が剣を振るった後に残り、幻想的な光景を作る。本来ならば、光の帯が乱舞して敵は鮮血を撒き散らし死んでいた。死ぬはずだった。


 たった一つの魔技だが、その一つだけで敵を圧倒する『聖光撃ホーリースラッシュ』。その強力無比な技の前に敵は沈むはずであったのに━━━。


 ミチビキの身体を剣は通り過ぎてゆく。斬ったのではない。ゆらりと揺れるとミチビキの身体は今や残像が幾人にも生み出されて、剣の一撃は透過していた。決して円卓の騎士の攻撃は命中することはなく、残像を斬るだけで、対してミチビキの振るう拳は銀閃となって、円卓の騎士たちを切り裂いていた。


 円卓の騎士が剣を振り下ろすが、ミチビキは半身をずらして回避すると同時に下からの掬い上げで切り裂き、突きを繰り出せば、腕が伸び切るその前に間合いを詰められて、拳を叩き込まれ砕かれる。複数での囲んでからの同時とも言える横薙ぎはさらなる速さで回転し、そよ風を吹かせて幾重にも輪切りにされて倒されていく。


 そのたびに再生を行い、息もつかせぬ飽和攻撃にて倒そうとするが、そもそも残像ばかりで本体がどこにあるのかさっぱりわからなく、こちらが構える前に、光の如き拳撃で倒されており、魔力を目に集めて動体視力を人外のレベルまで上げてもなお、ようやく視認できるレベルであった。


(なぜだ? どこから現れたのだ、この男は。私の夢。真理を追い求めて数十年。ようやく手掛かりが目の前にあるのに!)


 村正という男は嘗て天才と呼ばれた魔法使いであった。この世界では旅など自殺するようなものであるのに、危険を顧みず若い頃に世界各地を旅して修行と叡智を求めていた。


 自身の強さに満足し、最強レベルであると感じた頃に、なぜこの世界が滅亡したのかを調査することとした。


 『精霊粉エレメントパウダー』を地球全体に撒いたから人類の文明は崩壊した。全ての歴史は判を押したかのように同じ説明であり、誰も疑問に思わないが、村正と数人の魔法使いたちは不自然さを感じていた。


 公害だって予兆があり、被害が大きくなったら対処する。いわんや、今とは比べ物にならないレベルの科学技術を持つ旧世界の人類は何もせずに手をこまねいていたのだろうか? 


 各エリアに存在する地下街区の者たちは、旧人類の叡智を継承する人類と名乗っているが、村正が苦労をしてようやく面談しても、同じ答えだった。


 地下街区の他の人間と話をしたかったが、外交担当としか話せなく、埒が明かなかった。地下街区には決して地上街区の者たちは入れない。それはどのエリアでも変わらないルールだった。侵入しようとする者は必ず殺されて、さしもの村正も地下街区に侵入する試みは取れなかった。


 だが、その真実を得ることができる方法が他にあるのが判明した。それは各エリアの有力者が持つ『鍵』と『祭壇』である。転移のスペシャリストである村正はいくつかの『祭壇』を確認して、いくつかの共通のエリアに通じている転移魔法陣だと気づいた。


 どうやらかつては重要施設に繋がっていたテレポートポータルらしいと、長い研究を経て解析し、どのような重要施設てあったのかを知りたくなった。そこに真実があると思われたからだ。


 どれか一つのポータルで良いのだ。共有のエリアに飛べるポータルなのだから。だが駄目だった。鍵が紛失している。祭壇が破壊されている。権力者が秘匿しており、入れない。などなど……。


 一介の魔法使いにすぎない村正では、求めるポータルを手に入れるのは不可能だった。


 ━━━たった一つを除けば。


 それが、この鶴木屋の祭壇と鍵だ。鍵が不完全なことはすぐにわかった。だが、いつかはもう片方の鍵を手にした者が現れると信じて、妻と結婚したこともあり、ここで待ち受けることにしたのだ。きっと同じような魔法使いが現れると信じて。


(だが、ここまでの強さを持つ者だとは思わなかった! 若い頃よりも魔法の腕は上がっており、敵はいないと考えていましたが慢心でした!)

 

 衣をはためかせて、舞うように腕を振るい、残像が幾人にも残るミチビキを前に、円卓の騎士はまったく対応できていない。それどころか、ミチビキの方が戦闘に慣れてきて、円卓の騎士を倒すスピードが上がっている。このままではカリバーンの魔力が尽きてしまう。


「二十年待ったのです! ここで諦められるかぁ〜っ!」


 絶叫しながら、指にはめたアイテムボックスの効果を持つ指輪を発動させる。素早く手を突っ込み、村正は一本の剣を取り出した。


 膨大な魔力が溜め込まれて、剣自体が放電して、今にも爆発しそうだ。剣の名前はエクスカリバー。魔力を溜め込むことができて、放出することにより、爆発的な攻撃力を放てる聖剣だ。


「切り札を切ります。アーサー王の剣を見よ」


 剣を構えて、円卓の騎士たちと戦っているミチビキへと、向き直り━━━。


「アーサー王と名乗るんだ。きっとエクスカリバーを持っていると思ったよ」


 背後からの冷え冷えとした声にギクリと身体を強張らせる。


「くっ、謀られましたか……貴方は地下街区の方ですね?」


 ほんの僅かな時間、アイテムボックスに目を逸らしただけであったのに、円卓の騎士たちは倒されており、視認できない速さで、村正の背後にミチビキは回り込んでいた。エクスカリバーを取り出すまで時間稼ぎをしていたのは明らかであった。


 最初からこの男は村正を相手になどしていなかった。天と地ほどの力の差があることを痛感する。


「どうだろう。想像に任せるよ」


「……これまで地下街区の方には5人会いました。だから、貴方は私が出会った地下街区の人間の中で二人目です」


 謎めいた言葉を告げて振り返ろうとする。様々なエリアで外交担当と名乗る5人と出合った。だが、実際に出会ったのは━━。

 

 ここまでの強さを持つ人間は地下街区の者でしかありえない。時間稼ぎをしつつ、なぜ今更動き始めたのか、そして、この祭壇の真実はなんなのかを問おうとして━━━。


 首筋に強い衝撃を受けて、村正の意識は闇へとおちるのであった。

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