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81話 飛来矢と小悪党

「なんだか弱かったね~。ちょっと不完全燃焼だよ。岩だけに燃えなかったよ」


 召喚者が命を落としたことにより、ストーンスネークが砂へと変わり、トパーズが粉々に壊れて、灯花はトントンと足踏みをして戦闘の火照りを消す。


「俺が強すぎたんだ。それに精霊使いは良い魔宝石を使わなければ弱い。宝箱が足を生やしているようなもんだ」


 謙遜という言葉を知らないランピーチである。どうということもないと、死んだアベージを横目に平然とした顔で手を振ると、手についた血を落とす。


『『飛来矢』奪還クエストをクリア。経験値15000を取得』

『ボスであるアベージを倒した。経験値3000を取得』


 どうやら上手くクエストはクリアしたようだ。広間には死体が死屍累々と転がって地獄絵図だが、ランピーチ的には上手くクリアできた。


『あ~っ! 敵のレベルを調べる前に終わっちゃった! 私が唯一活躍できるところだったのに!』


『言ってて哀しくならないかい、サポート巫女さんや』


 うわーんと泣く銀髪巫女をスルーしつつ、床に頭がめり込んでもはや動かないアベージの横へと座り、アイテムボックスに手を突っ込んだままのちぎれた腕に手をつける。


「中身を全部排出」


 偽りの命令を受けて、アイテムボックスから小さな皮袋が出てくる。


『どうやら最下級アイテムボックスみたいだね。十キロくらいしか仕舞えないやつみたい』


『魔宝石が盗まれないようにするにはこの程度で充分だったんだろ』


 小袋を開くと、色とりどりの宝石の光がランピーチを照らす。全て魔宝石なのだろう。


「おー、結構あるね、おじさん。でも、これだけの宝石の持ってるのに、なんで詐欺師なんかしてたのかな?」


 横合いから覗き込む灯花が不思議そうな顔になるが、その理由をランピーチはゲームで知っている。


「これは全て後ろ盾からの支援なのさ。支援という名の高利貸しだけどな。この魔宝石も全て借金だ」


 こいつの後ろ盾は詐欺師集団や盗賊団を支援している。金を出して自分は手を汚さない小狡い奴だ。


「うはぁ〜、それじゃ横取りする私たちは危険じゃないの? こーゆーのって、善悪関係なくそーゆー奴は宝石とかを横取りした人を襲いかかってくるよ?」


 悪人というのは、たとえ相手が善人であり、正当な理由から悪人を倒しても関係無いものだ。特に高利貸しには理屈は通らない。


 即ち━━。


「そのとおりだ。面白そうだろ? ワクワクするよな、襲撃イベントって」


 プレイヤーにとってはおいしいイベントでしかない。


「むむむ、おじさんは変わってるね。普通は恐れるものじゃない?」


 灯花もニヤニヤと笑っているので同類だと思う。


「小悪党だからなぁ。それにそいつらも片付ける予定だしっと、おっと、あったぞ。持ってると思ってたんだ」


 宝石の詰まった小袋の中に一つの鍵を見つけてニヤリと笑う。これが欲しかったのだ。古めかしい銀の鍵だ。


「あれぇ? この鍵、うちの金の鍵にそっくりじゃないかな?」


「だろ? これが本命だ。この鍵を使うと、『弓の墓場』に行けるんだよ。たぶん本家からアベージが盗んだやつだ」


 チャリンと銀の鍵を鳴らして亜空間ポーチにしまっておく。


「『弓の墓場』?」


「ポータルが開くんだけど、なにもないところなんだよ。なんで、こんな鍵があるのかと言われていたが………」


(ゲームではもう一つの鍵があるんだろうと言われてたんだが、やはりもう一つ鍵はあったというわけだな)


 ゲームでは解明されなかったクエストが待ち構えてワクワクする小悪党である。とはいえ、今は目の前のクエストのエピソードを終える必要がある。


「親分、クエストクリアおめでとううさ。『飛来矢』を持ってきたよぉ」


 ナイスタイミングと、ミミがひょっこりと現れて、武道着を抱えて、とてちてと歩いてきた。


「サンキューな、ミミ。で、他のアイテムは?」


「この武道着以外は棚もなにもなかったよぉ。ミミが眠りながらお掃除したみたい? えらい? えらい? ミミ偉いかなぁ」


「お花畑のウサギは可愛いなぁ、こいつめ」


「きゅー」

  

 スンスンと鼻を鳴らして、無邪気なミミのふさふさ毛皮を撫でてあげると、気持ちよさそうに目をつむり早くも寝そうなミミ。ふかふかもふもふで最高の手触りだ。ペットを飼って一番嬉しいところが、ペットを撫でるところだ。二番目が甘えられるところだと思うランピーチである。


『でもアイテムは回収できなさそうだねソルジャー。だけど安心して。敏腕弁護士のこのライブラちゃんが裁判で取り返すから。その意見、異議アリ! なんとなくその意見は変だと思います!』


 ピシと手を挙げるライブラさん。頼りになりそうで泣けてくる。アホかわいいの意味を知るランピーチです。


『期待しないで待ってるよ』


 盗人の弁護士さんをするつもりだろうかと、ジト目になりつつも『飛来矢』だけは残っていたので安堵する。さすがに手を出すことはしなかったようだ。


「よかったぁ。それが盗まれたらおじいちゃんに怒られていたよ。………? 離してくれないおじさん?」

 

 ランピーチの持つ『飛来矢』を受け取ろうとする灯花だが、なぜかランピーチは手渡さない。


「うん、ええとだな……」


 ランピーチが躊躇う理由は簡単だ。なぜならば、『飛来矢』奪還クエストは終わっているのだ。経験値も入手できている。


 どういう意味かというとだ。


『素直に『飛来矢』を灯花に渡す』

『こんな良いものを返せるか。殺してでも奪い取る!』


 と、二つの選択肢があるのだ。もちろんゲームをしていたときのランピーチは善良プレイをしていたので、『飛来矢』は良い性能だなぁと感動したことだけ覚えてます。どちらを選択したかは忘れました。


 なにせ遠距離攻撃無効はかなりのレア性能だ。ランピーチが装備すれば無双できる可能性が高い。


「……まぁ、そうはいっても返すんだけどな。仲間のために頑張る俺って良い人だよ」


「おじさんがこの作戦をするためにって、『飛来矢』を渡したんだよ!?」


「そういえばそうだった」


 クエストを無理やり起こした小悪党です。自演で報酬を求める小悪党がここにいた。


(でも、なんで灯花は詐欺に引っかからなかったんだ? 本来なら引っかかるだろ。この娘の性格からいってもおかしくない)


 首を傾げるランピーチだが、灯花の興味はミミに移動していて、抱っこをして満面の笑顔で頭をなでていた。


(俺のせいだろうなぁ。一緒にいたから詐欺よりも宇宙人に興味が向いていたからか)


 死体が転がる中でも気にせずにウサギを愛でる鉄の心臓を持つ灯花を見て、肩をすくめて皮肉げに笑う。


「さて、このビルの掃除は小間使い一号に任せるか」


 スマホを取り出して、周りを見渡す。ヘッドショットを繰り返したために、精霊鎧のほとんどは無傷に近い。


「もしもしチヒロか? クリタに買い取りを依頼してくれ。場所はだな━━━」


 こうして、北部地区の目立たないデビュー戦は終わったのだった。目撃者がいないので、目立たないという表現はあっていると思います。


          ◇


 ホテルに戻り、ベッドに寝っ転がり息を吐く。窓の外は薄暗くすでに夜だ。地下ではあるが、外の時間と合わせてあるらしい。ふかふかの布団に身体が癒やされて、眠気が襲ってくる。枕横にはミミが丸まって既に寝てます。


「結構疲れたなぁ。無傷でも体力は使うのな」


『人を殺してきたからね。精神がお疲れなんだよ』


「人? 人なんかいたっけ? 俺の目には雑魚Aとか、ゲームキャラにしか見えなかったけど?」

 

 フワァとあくびをしながら、ランピーチは疲れたなぁと平然と答える。その様子をライブラは額をつけて、まじまじと見つめて思う。


『嘘はついてないね。ソルジャーは本当に神の精神を持っているんだね』


『ゲーマー精神と呼んでくれ。どうしても敵として現れるとドット絵の敵にしか感じねーんだよ』


 ランピーチは精神を現実逃避というか、ゲーム世界にその精神は生きている。この世界にいまいちリアリティを感じない理由でもある。まぁ、銃を前に恐れを知らず突撃して死んでいく様子をみればそう思うのも無理はないかもしれない。


 クエストだからと、この人は敵を何千人殺しても気にしないだろうなぁと苦笑しつつも、その精神に非難はしない。


(『宇宙図書館スペースライブラリ』の求めるもの。これからのことを考えると、ソルジャーの精神構造は助かるから問題はないんだけどさ)


「それよりも回収しないといけないアイテム群があるから、行動しないとな」


『宇宙人のレベルを5まで取得』


『取得しました。『宇宙商店』、『預かり所』、『アイテム解析』を取得。『アイテム解析』はサポートキャラであるライブラに帰属します』


 経験値1500を使用して、宇宙人レベルを5に上げる。


『ついでに超越者をレベル5にする』


『取得しました。『超越体』を取得』


 きっちりとした経験値にしたい細かい事を気にするランピーチは500を使い『超越者』も上げておく。


『預かり所:コロニーの預かり所』

『宇宙商店:コロニーの商店』

『超越体:全ての攻撃ダメージを20%減衰する』


『『宇宙人』、『超越者』のレベル5を達成しました。融合技『神霊融合』を取得しました』


『神霊融合:サポートキャラと一時的に融合する』


「あれ? なんだ『神霊融合』って? ゲームでは無かったぞ?」


 予想と違うスキルが手に入り面食らう。対してライブラはふんふんと鼻息荒く、ペチペチとランピーチの頭を叩く。


『むふふふふふふ。遂にキター! 私も知らなかったけど、神霊体となれるみたい! これで、私もサポートキャラとして大活躍間違いなし!』


(本当は他の意味もあるんだけど、それは秘密で良いよね!)


『『精霊融合』みたいなもんか。後で確かめてみるか……』

   

 オリジナルキャラは『精霊融合』がなくて残念だったが、隠しスキルがあったのかと、ニヤニヤと笑ってしまう。強くなれそうで期待大だ。


「よし、それじゃ回収されたアイテムがきちんと『預かり所』にあるか確認するとするか」


『預かり所にあるのは間違いないの? ウサギが盗んだんじゃ?』


「遠征で手に入れたアイテムは『預かり所』にあるんだよ。だから、預かり所にあるはず。あってほしいなぁ」


 ベッドか降りると、『預かり所』スキルを選択する。ボタンを押下するとランピーチたちの体を光が包み込み、かき消える。


 そして次の瞬間には、宇宙空間が外に見える受付ロビーに移動していた。壁はガラス張りで、外は星空が瞬き、眼下には青き惑星が存在している。


「あぁ、ようやくこれたんですね。いつまでもレベルを上げないので、後は私に任せるんだとばかり思ってました。これらは私へのプレゼントだと思うことにしてました」


 床にアイテムを広げて一つずつ確認していた黒髪の少女が移動してきたランピーチへと微笑むのであった。

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