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62話 遠征隊と小悪党

 ━━━皆が集まる少し前。


『ねぇ、ソルジャー。これからランピーチマンションの周囲も支配するんでしょ?』

 

 白と赤のコントラストがよく似合う巫女服をひらひらとひらめかせて、銀髪ツインテールの美少女ライブラが顔を近づけて、ニヨニヨと笑顔を向けてきた。


『ん? あぁ、そうなるなぁ。まぁ、任せておけば良いんじゃね? でも、支配じゃねーよ、地上街区の前まで治安維持とかをするってだけで。それもセイジ任せだろ?』


 チヒロとドライがおしゃべりをしているのを横目に、ランピーチは涼しい顔で周りを見渡すふりをしながら思念で会話をする。もう慣れたものであり、誰も様子が変なことに気づかない。


『それってさ、勿体なくない? お金は出してるんだから、ついでに所有権も手に入れようよ。ほら、経験値もたくさんあるんだしさ』


『あぁ〜、地域支配までやれということかぁ』


 ライブラの言葉は、『パウダーオブエレメント』というゲームの自由さを示している。このゲームは国を建国することもできるのだ。その方法は簡単で『拠点防衛術』を最高レベルまで上げて広大な土地を取得すれば良い。まぁ、戦争とかも起きるんだけど。『地域支配』はその前段階のレベルである。


『でも、つまんねーんだよ。拠点を大きくしていっても、防衛や侵略戦争はあるけど、たいしたクエストじゃねーし、生産力も結局最後はダンジョンに潜ったほうが遥かに儲かる。それ以上に、経験値がもったいない』


 気が進まない。ゲームを5周クリアするまでに国を建国したこともある。研究所なども作れるが、錬金や鍛冶などは自身の錬金や鍛冶のスキルレベル依存でそれもプレイヤーより低いレベルとなるし、自動でアイテムを作ってはくれるが、はっきり言ってポーションなども自分で作ったほうが早い。それなら、他のスキルに経験値を突っ込んだほうが役に立つ。


『それだと面白くないじゃん。色々とやってみようよ、だってここはソルジャーの言葉だとゲームの中で、現実準拠のシステムなんでしょ? とすると、なにか面白いこともあるかもよ?』


 気が進まないことに気づいて、うりうりと肩に自身の肩を当ててくるライブラ。美少女にそんな可愛らしい態度をとられればオーケーを出したいところだが……。


『ミラの大キャンペーン中。10000経験値を最初に支払えば、お役に立つミラが貴方のお側に! 以降は10000経験値を毎月4回払いでオーケー!』


 と、ログが目の前に光っているのだ。たしか元は45000経験値だったから、えらく支払いが多くなり、酷い利子の高いローン払いだが、それでもミラが仲間になるのはかなり興味がある。


『だーめ! きっと暴虐でゴリラみたいな女だと思うよ? きっと宣伝ではこんなかわいい娘とお知り合いになれますと言っておいて、契約したら全然違う子が来るパターンだと思うなぁ。ここは、私だけで我慢しておいた方が良いと思うなぁ』


 コアラのように腕に抱きつくライブラ。その顔はちょっと必死ぽい。


『ミラーダの酒場も契約するとついてくる。エロしか取り柄のない邪魔なサポートキャラも炊飯器に格納できるサービス付き!』


 そしてなんか追加サービスが現れた。なんというか悪意があるサービスである。


『ほらぁぁぁ! 性格もきっと悪いよ! 私みたいに尽くす系じゃないよ!』


『お前がゴリラといった途端に追加サービスが出てきたんだろ』


 スリスリと頬ずりをして涙目のライブラだが、自業自得ではなかろうか。


『でもでも、地域を支配すれば、その死亡フラグ? といったものも防ぎやすくなるんじゃない? 敵を誘い込んで戦うなら、建物よりも広い地域で戦闘した方が勝ち目は増えるでしょ?』


『あぁ、そうか。う~ん、たしかにそれは一理あるな。そうか、そういう考えもあるな』


 レベルが上がる毎に、ランピーチの死亡フラグも強力となるだろう。ランピーチ難易度はクリアさせる気のなさそうなかなりの難易度だ。


『……わかった。どちらにしても、まだまだ自身のレベルも上げたいしな。それじゃ、『拠点防衛術』のレベルを上げることとする』


『やたっ! ありがとうソルジャー! インパクトがあるように『遠征』で皆にお披露目しようね!』


『へいへい。ほら、離れろよ』


 むぎゅうと顔にへばりついて来るので、雑に振り払い、スキルを取得する。


『拠点防衛術をレベル5まで取得』


『取得しました』

『地域支配が可能となりました』

『レベル4にて『遠征』スキルを取得』

『遠征:拠点周辺の探索及び治安維持に兵を送れる』

『レベル4にて、歩兵支援重装甲指揮車『雪ウサギ』を入手しました』

『レベル5にて人工精霊を百匹まで召喚可能となりました』

『ラビットガンナーがハイラビットガンナーへと進化しました』

『ハタラカンチュアがハタラカンチュアⅡへと進化しました』

『追加召喚できる新たなるウサギを選んでください』


『百羽全てハイラビットガンナーだ』


 ぞろぞろとログが流れていくのを見ながら、選択は全て銃使いにする。迷いはない。9000経験値使用して、残りは16000だ。


『よし、これで準備はできたぞ?』


『うんうん、それじゃ、皆のド肝を抜いてやろうね! きっと驚くと思うよ!』


 満足気に巫女少女は空をふわりと浮いて、パチリと可愛らしいウィンクをするのであった。


         ◇


 そして、目の前に『遠征』ボタンを押下した途端に現れたのが歩兵支援重装甲指揮車『雪ウサギ』だ。


 純白の車体は汚れ一つなく、泥が跳ねても精霊障壁により弾いてしまう。フォルムは雪で作ったかのような雪ウサギそのまんまで可愛らしいが、その大きさは30メートル近い。背中にはバカでかい砲を背負っており、後部にはミサイルランチャーが備わっている。タイヤは八輪で小さな瓦礫程度なら踏み潰せる。


雪うさぎ

歩兵支援重装甲指揮車

全長28メートル、全高11メートル

スノーラビットカノン、ホーミングビーム機関砲、ビームミサイルランチャー、チャフミサイル、探索用ドローン多数


 可愛らしい見た目と違い、凶悪な装備を搭載する軍用車両である。


「あ、あの、ラン、これが支援(地下街区からの)……ですか?」


「あぁ、支援(宇宙図書館からの)だな。そこそこ役に立つんじゃないか?」


 突如として現れた雪うさぎを見て、皆がぽかんと口を開けて呆然としている中で、平然とした顔で肩を竦める。恐ろしいことに、ゲームシステムを使ったから、違和感は皆は覚えないよなと、あくまでもゲーム気分の小悪党である。


「そ、そこそこ役に立つ……ですか」


 スラム街のどこで、こんな凶悪な武装を使うというのだろうかと、チヒロはドン引きである。だが、セイジとクリタは納得していた。


(これは地下街区が邪魔をされたので、もっと戦力を送り込んできたのですね。あなたのせいですよ、クリタさん)


(お、俺だって、こんなに地下街区が本気を出すと知っていれば手を出すことなど考えなかった。見たこともない装甲車だぞ! こんな所に軍用車両を、しかも地下街区の武器を持ち出すなんて誰が想像できるか!)


 ジロリと睨むセイジに、冷や汗をかいて慌てて小声で返すクリタ。二人ともきっと桃源郷の発展を邪魔されたと考えた地下街区が追加の戦力を送ってきたのだと考えていた。真実はライブラが面白そうだと、拠点のレベルアップを仕掛けただけなのだが。


「これがあれば、これから先の治安維持も楽になるだろうが……」


 皆が驚きで声を発することもできない中で、ランピーチだけは不安顔だ。なぜなら━━━。


 ウィーンと雪ウサギの側面が開いていく。分厚いハッチがせり上がると、その中にはさらに扉があり二重装甲だ。その扉も開くと武装をしているウサギたちが、こんもりと白い毛皮の塊のように集まっていた。


 何をしているのかと思えば、たくさんの割り箸を一羽ずつ引き抜いている。そして、まるで伝説の剣でも手に入れたかのように、先っぽが赤い割り箸を翳して、一羽のウサギがぴょんぴょんと飛び跳ねて嬉しそうにはしゃぐ。


「うさが提督うさ! ヤッタァ、それじゃ、提督帽子はうさのね」


「仕方ないうさね」

「まぁ、誰でもいいんじゃないうさ?」

「誰がやっても同じだよぉ」

「なんか今のくじ、変だったような?」


 ウキウキと提督帽子を被って軍服に着替えるウサギ。どうやら提督を決めるくじをしていたらしい。なんとも不安になる光景である。


「あ、もう扉開いているうさ!」

「全然気づかなかったうさよ」

「かっこよく出る予定だったのに、見られてるうさよ」

「急げ急げうさ〜」


 皆の注目を集めて、ワタワタと慌てると、コロコロと転がるように雪うさぎから出てくると、ランピーチの前に並ぶ。ビシッと整列して、チロチロと前脚を舐めたり、毛繕いを始める練度の高さだ。


「雪うさぎ隊100羽、着任したうさ!」


 敬礼をして、スンスンと鼻を鳴らす提督ウサギ。つぶらな瞳で見てくるので、可愛いと女性たちが声を上げる。


「えっと、ご苦労さん。提督ウサギに命令だ。ここからは桃源郷周辺を探索して、モンスターや盗賊を退治すること。皆と協調して頑張ってくれ」


 敬礼されたので、思わず敬礼で返してしまう。だが、後ろに整列するうさぎたちを見ると、寒いうさと丸まったり、人参なぁい? と周囲の人におねだりしていたりと、なんとも不安な光景だ。


 そう、本来は人間に任せないといけないのに、そのレベルにある人間がランピーチマンションにはいないのである。


 なので、うさぎに任せるしかないが、ゲームと違って、このうさぎたちは自我が強く、自分勝手なのだ。つまみ食いやサボるのは当たり前、昼寝をしたり、畑を耕したりと、不安しかない。軍用人工精霊なのに、汎用に見える不思議。


ハイラビットガンナー 

ビームラビットバズーカ(攻撃力200)

ビームラビットマシンガン(攻撃力150)

ヒートナイフ、液化手榴弾、閃光弾


 でも、装備はランピーチを遥かに上回るし、モンスターレベルも5だ。ランピーチよりも強いし、このレベルの人間を雇う人脈はない。なので、諦めるしかないのであった。


「治安維持、モンスター退治了解うさ!」

 

 エヘンと咳払いをすると、提督ウサギはキランと赤い目を輝かせる。


「それじゃ、スノーラビットカノン発射準備! 一帯を更地にするうさ!」


 ぴしりと手を掲げて、いきなり砲を撃とうとする提督ウサギ。


「するな! 建物はできるだけ残して、モンスターを片付けるんだよ」


「そううさか……主砲がどれだけすごい威力なのか見たかっただけうさ」

 

 しょんぼりと顔をうつむけて頷く提督ウサギに、罪悪感がわくので可愛らしい生き物はずるい。


「わかったから、スノーラビットカノン発射用意うさ!」

 

 どうしても大砲が撃ちたい提督ウサギである。


「わかってねーだろ! おい、お前らこいつが暴走しないように監視しておけ!」


「はぁいうさ」

「ピコピコハンマー用意するうさ」

「この割り箸、全部色がついてないよ?」


 なんとも前途多難なランピーチたちであった。

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