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49話 偽主人公の小悪党

 偽主人公となることにランピーチは決めた。なんと小悪党にふさわしい行動だろうか。バレて、主人公に痛い目に遭うまでが流れというか小悪党の運命である。


 だが、それっぽい行動をとり、ランピーチは偽主人公をすることを決意した。不退転の決意である。なぜなら死亡フラグありまくりの小悪党よりかは、他の憑依者に対して有利に動く可能性があるからだ。


 予想通りにガイは、レベルアップをしたランピーチに対して、警戒心を露わにして、緊張した表情となっている。


『体術レベル5、超能力レベル3を取得しました。特技を選んでください』


 『宇宙図書館スペースライブラリ』の応答に、迷うことなくランピーチは選択する。


『空気投げ、ラッシュ、そしてエンチャントサイキックだ』


 特技を選択し終わると、脳にダイレクトに知識が経験とともに流れ込んてくる。その知識はランピーチと心身と融合し、生まれた時から保有していたかのように自然な記憶へと変換された。


 ランピーチの構えは変わらないが、その佇まいは大きく変わった。人類で最高クラスの格闘家へとたった一瞬で変貌したのだ。ちなみにレベル6からは人外になるので、人類最高クラスはレベル5で間違いない。


『体術レベル5を確認。ボーナスとして全ステータスが以降は倍となります』


 ━━そして、レベル5に到達したボーナスが入る。


 体術系統の特定のスキルをレベル5にすると倍になるのだ。経験値がクエストのみでしかほとんど入らないゲーム仕様、体術はレベル5になるとボーナスが隠しイベントとして隠されているのである。


ランピーチ・コーザ

経験値:8000

HP:72

CP:76

体力:36

筋力:36

器用度:52

敏捷:36

精神:32

超力:38


固有スキル:小悪党レベル10、宇宙人レベル2、超越者レベル2

スキル

体術レベル5、銃術レベル3

超能力レベル3

気配察知レベル2、集中レベル1、看破レベル1

身体強化レベル1

錬金術レベル1、解体レベル1

拠点防衛学レベル3、機械操作レベル2


装備

DG5アサルトライフル:攻撃力21

モノタリウルスの革鎧:防御力9

時空の指輪


 一気に自分の戦闘力が跳ね上がるのを感じる。細胞の一つ一つが強化されて、低レベルの精霊鎧程度であれば負けない力をランピーチは手に入れた。


「ま、まさか人工精霊と精霊融合できるだか!? はぁ? ランピーチどんの固有スキルは……あらゆる人工精霊と融合できるワイルドの力かぁ!」


「察しが良いな。人工精霊は自然精霊よりは性能は劣るが……多様な力を使えるからな」


 精霊融合ができるとは一言も言わない小悪党は、ガイを見下すように誉めてやる。さすがは小悪党、詐欺師の能力はスキルがなくとも一流だ。

 

「そ、そんなんチート……いや、隠し主人公あるあるだなぁ。おらたちの自然精霊は特化してつえーが、万能に切り替えられる方が便利だべ!」


 そしてガイは見事に騙された。ランピーチの雰囲気が大幅に変わったことも原因にあるし、隠し主人公というからには、そのような変わったスキル持ちもいるだろうと考えたからだ。


(ランピーチどんは人工精霊と精霊融合できるだか………自然精霊よりも弱い? んにゃ、終盤に手に入る人工精霊はどいつもこいつも恐ろしく強かっただぁ。そいつ等とも精霊融合できる……ハハッ、当たりを引いたかもしれねぇべ) 


「だが、これで遠慮なく攻撃できるだな。精霊融合したんなら、一度死んでも復活できるべさ」


「あぁ、そのとおりだ。遠慮して攻撃してこいよ、ガイ」


「それじゃ、遠慮なく全力で攻撃させてもらうべさーっ!」


 ガイはふんぬと力み、全身に魔力を巡らせて、最大の力を引き出す。その魔力は幻視化されて、ガイの身体を覆うかのようだ。


『遠慮してって、言わなかったっけ?』


『どーすんのさ! あの人、致死性の攻撃を仕掛けてくるつもりだよ』


『分かってる! だが、これも偽主人公を演じるためだ。たとえ、偽主人公を演じて死ぬフラグが立っていても━━━叩き折る!』


 ライブラが慌ててペシペシと頭を叩いてくるが、ランピーチは焦ってはいてもやめるつもりは毛頭ない。ランピーチの情報が漏れても一目置かれる必要がある。


「うおりゃぁーっ!」


 ガイが全力で大刀を振り下ろしてくる。先程よりもさらに速い。


「わかりやすいけどな」


『空気投げ』


 半身をずらして、ランピーチは敢えて前に踏み込む。大刀の脇をすれ違い、ガイの腕にそっと手を触れるとくるりと回す。


「ぬおっ!」


 たったそれだけで、ガイは空を舞い、地面へと投げ飛ばされた。金属の殘骸から成る地面に叩きつけられて、重装甲のガイはガンガンと音を立てて転がる。


『空気投げ:格下の敵をカウンターで投げ飛ばせる。ただし中型以下の人型タイプに限る』

 

 ランピーチは、慌てて立ち上がるガイを前に手をひらひらと振る。


『格下ねぇ。レベル制は体術とかないもんな。体術では格下だらけだろ』


『うーんと、ソルジャーが何を言いたいのか段々とわかってきたけど、そうだね。身体能力は凄いけど、ガイの体術は見習いレベル。達人の空気投げを防げはしないよ』


 ランピーチの推測にライブラも同意する。美少女巫女は爛々と瞳を輝かせて、憑依者の情報に興味がありそうだが、スルーするランピーチ。


「なんつー体術だべ。だけんど、衝撃すらも緩和するのが精霊障壁だべよ。おらは傷一つついてねーべさ」


 立ち上がると、再び大刀を構えて、不敵に笑う。


「わかってるさ。だから、次の攻撃は少し工夫させてもらうとしよう」


 ガイさんや、それは破られるフラグだよなぁと呆れてしまい、苦笑してしまうが、次の攻撃を開始する。


『エンチャントサイキック』


 ランピーチの体の周りが数ミリ程度、よく目を凝らさないとわからない程度に空間が揺らめく。世界の理を超えた力がランピーチに宿り、ガイはそれを見て一瞬躊躇するが、再び大刀を振るってきた。


『空気投げ』


 ━━━そして、再び先ほどと同じ様に宙を舞い、地面に叩きつけられて……。


「ガハッ、な、なんだ、なんで、衝撃が!?」


 転ばされても、さっきまでは衝撃すら感じなかったのに、ガイは今度は衝撃で背中に痛みが走り、肺から空気が抜けて苦しみを感じてしまった。


「面白いだろ、ガイ? おめぇじゃ俺には敵わねぇ」


『アハハハ』

 

 クールに決めるランピーチ、そして、それを茶化すライブラである。この美少女めと、胸をはたきたいが我慢。あくまでもクールなランピーチに徹しなければならない。


『エンチャントサイキック:万能属性付与。敵の防御力20%無効』


 超能力の強み。いかなる敵にもダメージが入るのである。物理魔法無効の敵でも確実にダメージが入り、その力はガイとは相性最悪だった。


「……くっ。元格闘家とは近接戦はできねぇべさ。なら━━━魔法勝負だぁ!」


『大地弾』


 ガイが手をかざすと、砲弾のようにバレーボール大の岩の弾丸が撃ち出されて━━既にランピーチは鋭い踏み込みでガイの懐に入りんでいた。


「遅い。隙だらけだ」


『発勁』


 ぽそりと呟くと、ガイの分厚い装甲に手を押し当てて、気を流し込む。ただ添えただけにも見える僅か数センチの隙間から放たれた掌底。


 だが、ガイの身体はビクンと震えて、よろよろと押し下がると膝をつき、吐き気を耐えるように口元を押さえるのだった。


「が、ガハッ、なぜ……『金剛体』は大幅にダメージを減衰させるのに………まさかこれで、ダメージを減衰してるだべか?」


 身体中がバラバラになったかのように、苦痛にあえぐガイ。フッと笑って返す余裕のランピーチ。


「これでも手加減してるんだがね?」


 嘘である。防御力70%無効効果となっているからである。だが、ランピーチは傲慢なる態度で余裕の演技をしていた。きっと助演賞を取れるレベルの小悪党だ。


 内心はドキドキである。なにせ精霊融合なんかしていない。死んだら終わり、怪我をしてもおかしいと思われるから、完封しなくてはならない縛りだらけの決闘だ。


「く、レベルはおらの方が高いはず………なら、全体魔法だべ!」


『大地林槍』


 ガイが手のひらを地面に添えると、まるで水面に手をつけたかのように波紋が広がり始める。その前兆がなにを巻き起こすかを知っているので、波立つ地面に見て、ランピーチは素早く念じる。


『テレキネシス』


 何枚もの鉄板が地面から浮くと、ランピーチの前に階段のように停止する。トトトと鉄板を踏み台にして、ランピーチ素早く軽やかなる動きで空へと登っていった。


 そのすぐ後に地面が盛り上がると、岩の槍が針山のように飛び出してきた。ランピーチを襲おうと、岩の槍は高速で追いかけるが、テレキネシスを使い、鉄板を踏み台に空中を縦横無尽に駆けてゆくランピーチには追いつけない。


 時間にして僅か数秒。岩の槍は林のように林立して、効果時間を失いサラサラと砂へと変わっていった。


「ぜ、全体魔法だぁ! か、躱せるわけがねぇのに躱しただとぉっ!」


「なら、全体魔法ってのが嘘なんだよ」


 あまりにも信じられない光景に、目を剥き絶叫するガイ。わなわなと身体を震わせて、ランピーチの恐るべき神業のような体術に恐れを持つ。当然だろう、こんな躱し方をする敵はゲームではいなかったし、現実でも防がれたことはあっても躱されたことはなかったのだ。


「な。ぐ、なら最強だぁ!」


『彗星落とし』


 魔力を振り絞り、ガイは空へと両手をかざす。5メートルほどの岩塊が空中に突如として生まれると、ランピーチへと隕石のように落下する。ゴウッと風の壁を破壊して、なにもかも破壊するべく落ちてくる岩塊。ガイ必殺の現時点での最高魔法。


『格納』


 だが、ランピーチが軽く手を振ると岩塊は手品のようにかき消えた。


「はぁ?」


 唖然とするガイへと、薄笑いを見せるランピーチ。


「返すぜ」


 体をひねり、手のひらをガイに向けると、消えたはずの岩塊が姿を現す。


「はぁ?」


 一言しか口にできることができずにいるガイに威力を失うことなく、岩塊が落ちてきて、その体を押し潰す。


「ぐ、ぐほっ、な、反射!?」


 ガイの重装鎧が半壊し、兜が砕けて、恐怖に満ちた歪んだ顔が現れる。


「これでも死なないのは、さすがはガイ。だが━━」


『これでチェックメイトさ!』


 ランピーチの最後の言葉を奪い、フンスと鼻息荒く、ビシリと指を突きつけるライブラ。


『刹那』

『ラッシュ』


 ランピーチが時を止め、多段攻撃が繰り出される。左ジャブ、右フックからのハイキック。相手の体勢が崩れたところを右ストレート、最後に空中を回転しながらの踵落とし。


 特技が発動し、時の流れが再開すると、過程はなくなり、結果だけが残る。


 即ち、ボコボコにされたガイが崩れ落ちていた。もはやダメージは精霊融合の許容値を超えて、身体に走る激痛は耐えられない。


「こ、こんなことが……」


 手も足も出なかったガイの身体がかき消えていく。そうして再び粒子が集まり、元の姿に戻ってきた。


「俺の勝ちだ、ガイ。これからは俺をボスと呼ぶように」


「……そうだべな。おら、ようやく頼りになりそうな人を見つけただよ。ランピーチどんの勝ちだぁ」


 元の姿に戻ったガイが疲れたように四肢を伸ばして倒れ込み、苦笑とともに頷く。


 どうやら偽主人公は上手くいったらしいと、ガイの手を取り起こすのであった。

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