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47話 レベル制と小悪党

「それじゃ次の質問だ。ガイが知っている範囲で、俺以外の憑依者は二人以下か?」


「はい。だけんど、俺の仲間は指示を出す一人だけだべ。それじゃ同じ質問だぁ。ランピーチどんは憑依者の知り合いはおら以外におるかぁ?」


「いや、お前が初めてだ。俺以外にもゲームの世界に入り込んだ奴がいるなんてな」

 

 炎の色は変わらない。ランピーチは正直者だからだ。


 嘘ではなさそうだと、ランピーチはその表情を『看破』スキルから判断する。俳優レベルのよほど演技が上手い者でないと、スキルレベル1でも誤魔化せない。1レベルはしっかりと訓練した一人前だからだ。付け焼き刃の適当な演技ではランピーチには通じない。反対に演技をしているなと気づくので、嘘をついている時はわかりやすくなってしまう。


「さて、ガイ。俺の質問をオウムのように繰り返すんじゃなくて、そろそろオリジナリティ溢れる質問を聞かせてほしいんだが?」


 緊迫した空気の中で、ランピーチは挑発するように手を振る。


 ランピーチとガイが睨み合いを続け、相手のカードを探る重い空気。ガイ視点ではそうなる、まるで決闘前のガンマンのような西部映画のワンシーン。


 ランピーチ視点では、美少女巫女がランピーチに肩車されているので、ちょっと間抜けでもあったりする。巫女服から覗く生足がムギュッと首を挟み込んでるので、男としてはシリアスよりも大事であった。


 とはいえ、ガイはそんなことになっているとは夢にも思わない。


 ━━━そして、絶対に聞きたいことがあった。


「ランピーチどんのレベルは30以上だか?」

 

 そのセリフに、先程まではポーカーフェイスであったランピーチは眉毛をピクリと動かして、反応してしまう。


 なんだレベル30って? 神様になれるレベルだぞとランピーチは戸惑うが、ガイの様子を見るにふざけている様子はない。


(はぁ? そんなにレベルが高いわけが……待てよ、え? そういうことなのか?)


 どうしてかと困惑するが、すぐに一つの可能性に思い当たり、驚愕しそうになるが、なんとか面に出さないように、ランピーチはグッと我慢する。


 ここは絶対に気づかれてはいけないところだ。たぶんこれからの行動においてミスると致命的なことになる。


「……あぁ、俺はレベル30以上だ」


 炎は赤くなった。


 赤い炎に照らされて、ガイが少し頬を緩ませ緊張がとける。チッと舌打ちをして悔しそうな演技をするランピーチに、ニタリと笑みを浮かべてくる。


「駄目だべ、ランピーチどん。この炎は嘘を許さないといったべさ」


「……本当だったらしいな。それじゃ、こちらも同じ質問だ。ガイはレベル30以上相当の力を持っているか?」


「んにゃ。ショベルティラノをソロで余裕に倒すのはそれくらいだと思っただけだぁ。それじゃ、おらはもう一回同じ質問だぁ。ランピーチどんはレベル20相当の力を持っているか?」


 『嘘』だ。ガイは自身の力が30以上にあると確信している。会話から推測するに、ギミック無しでショベルティラノを余裕で倒せるレベルなのだろう。そうでなくてはソロでここに来た理由がない。


 俺が質問内容に『相当』と入れたことに気づいたガイはオウムのように真似をする。オリジナリティを出せと命じたにもかかわらず、今度は小刻みにレベルを絞ってきた。


 もちろん、ランピーチはレベル3だ。20レベルなど、そんな途方もないレベルではない。


「はい。そのとおりだ」


 だが、敢えて『はい』と答えてみる。


 やはり赤い炎へと変わる。


「ふはは、ランピーチどん。どうやらレベル差に気づいたようだべ」


「……くっ、ガイはレベルいくつだ?」


 悔しげな顔でランピーチは怯むように後退る。その行動は優位にあると考えていたのに、予想外に相手が強かったと、すぐにびびる小悪党そのものであった。


 その態度を見て、ますます優位性を感じて、ガイはゆったりとした口調となる。


「わかってるんだべ? とはいえ、油断はできねぇだ。最後の質問、『地球図書館アースライブラリ』にアクセスできてレベル上げができるか?」

 

「はい。魔物を倒してじゃんじゃんレベル上げができるぜ」


 やはり炎は赤くなり、最後の効果を失い消えていくのであった。


(ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。『地球図書館アースライブラリ』ってなんだ?)


 さらなる予想外の台詞になんとか耐えるランピーチ。気を紛らすために、ライブラの太腿をさわさわと触っても仕方ないだろう。


『ヒャアッ。なんかエッチな触り方! ちょっとぞわぞわするんだけど!』


『気にするな。俺は気にしない』


 うひゃーとくすぐったそうに身体をよじるけど男の肩に乗るんだから、それくらい覚悟してるよな。うんうん、落ち着いてきたぞ。だからライブラさん、ぽかぽか殴らないでくれるかな?


「炎が消えたが、俺も最後の質問だ。『地球図書館アースライブラリ』に接続できて、魔物を倒してレベルアップできるチート野郎を知っているか?」


「……あぁ、いるべ。こんなの嘘ついても仕方ねぇしな。なにせ主人公の一人だぁ、すぐに名前を聞くようになるだろうし、不自然な異常にしか思えねぇ成長だから、ここで嘘をついても、すぐにわかるだよ。まぁ、おらもランピーチどんと同じく魔物を倒すと成長しているけんど、それでもそいつの成長の早さには敵わないべ。それにしっかりと訓練した方が強くなるべさ」


 成長しねーよ。魔物を倒しても経験値1とか2だよ! まぁ、違和感はあった。


 だって、このゲームをやったことがあるなら使い回しの小悪党ランピーチの名前を知らないはずがないからだ。


(こ、こいつ、もしかしてβ版の仕様? だがβ版ストーリーは触り程度のはず。……わからないな、β版でクリアしたことがあるような口ぶりだ)


 『パウダーオブエレメント』は、発売される前のβ版にて、大幅にシステムを変更したとニュースでやっていた。ほとんど完成していたのに、これでは売れないと、仕様自体を変えて作り直したので、さらに1年発売までかかったという噂だった。


 そのβ版は、敵を倒してレベルアップしていく昔ながらの単純なRPGだったと噂されている。ランピーチは遊んだことはないが、実際にβ版はそうだったらしい。発売された時はスキル制で、複雑なストーリーと多様なクエストクリア方法など別ゲームになっていたと掲示板では騒がれていた。


 驚愕がランピーチの心を占めるが、なんとか不自然にならないように耐える。その驚愕の表情はしかし完全ではなく、だが、ガイはそれを見て勘違いしてくれた。


「驚くのはわかるべ。おらたちも主人公補正で物覚えは早いし、魔物を倒していくと強くなっていく実感はあるけんど、それは体感だぁ。けんど、そいつはログやステータスボードが表示されるんだと。数値で確認できるなんて、羨ましいこった。格上の魔物を倒さないと経験値は入らない仕様だけど、格上かどうかなんて、おらたちはわからないからなぁ」


「だな。数値に出るなんて羨ましい限りだ。俺なんて、範囲魔法を使えるようになったら、ようやくレベルが10になったかと体感してたのにな」


 ぺらぺらと重要情報を教えてくれるが、それはランピーチは既に知っているだろうとガイが大きな勘違いをしているからだ。そして、格上の魔物を倒さないと経験値が入らない仕様はランピーチにとっては、助かる仕様だった。


「おんなじだぁ。おらもレベルアップで使える魔法が増えたら、何レベルになったか判断してただよ」


 ウンウンと頷き、勘違いをしてくれるガイ。まさかのスキル制だとは思ってもいない様子。たとえば、レベル10で覚える魔法を使えるようになったら、レベル10になったと判断している様子。


(こりゃ、ドライに確認しないと駄目だな。いや、鍛えていたら魔法が使えるようになったってのは普通の話だから、憑依者でもなけりゃ、おかしいとも思わないか)


 高速で思考を回転させつつ、ランピーチはこの新たなる情報はどう転ぶかと考える。どうやらランピーチという存在は、彼らのやっていたゲームにはいなかったらしい。そこに光明があった。


 ランピーチの死亡フラグは歴然と存在している。だが、そのことを知られている場合、それを利用して殺される可能性が極めて高いのだ。ただでさえ、ランピーチ難易度なのに、悪意を持って介入されたら生き残れる気がしないので、ほっと安堵する。


「でだ、ランピーチどん。よかったら組まねぇか? あんたはおらが知らない攻略方法を知っている。で、おらは魔物を倒さなくても、訓練によりレベルアップできる方法を知っているべ。魔力の使い方とか、呼吸法とか、魔導学園の本格的な訓練方法で、とーっても有用な情報だぁ」


 ガイは今組んでる者と近い将来手を切ろうと考えていた。あの者はたしかに金をくれて、訓練方法を教えてくれた。だが、攻略方法の知識はガイの覚えている内容とほとんど同じで、しかも命の危険のある探索にいかせて、扱き使ってきたからだ。もはや、恩は返したと判断していた。


 そして、眼の前にいるランピーチという男は、ガイのまったく知らない攻略方法を持っているようだった。ショベルティラノをあのような方法で倒すなど聞いたことがない。


 ━━しかも聞いたことのない名前だ。そして、そいつに思い当たることがある。全ての主人公でトゥルーエンドとなり、なおかつ、ある行動をとると選べる隠し主人公。攻略サイトに記載はされなかったが、その存在は噂されていた。そいつがランピーチなのだと、ガイは思いついたのだ。


「ふむ……条件は?」


 ランピーチは気のあるふりを見せて、腕組みする。ガイは脈アリだとニヤリと笑い、考えていた内容を告げる。


「おらの配下になるだよ。ドライもそちらにいるんだべ? 二人まとめて部下になるだ。そうすればゲームに無い訓練方法とかを教えるべ。で、ランピーチどんは、おらに攻略方法を教えてくれて、金稼ぎをするんだぁ。良い話だべ? 隠し主人公どんよ?」


 両手を広げて、鷹揚に笑顔を向けるガイ。勘違いをしているなと、ランピーチはその言動に気づくが、敢えて素知らぬふりをして、ニヤリと笑い返すと、手をひらひらと振る。


「駄目だな。俺がトップで、あんたが配下。それなら良いぜ?」


「……まぁ、お互いに強いと思っているから、そうなるだな。だが、おらは隠し主人公のステータスを知らないのに、ランピーチどんはおらのステータスを知ってるべ? 不利じゃないかんの」


 探るような目つきのガイ。ランピーチはスゥと息を吸うと覚悟を決める。


「……わかった。それじゃ俺のジョブは『召喚士』だ。隠し主人公らしくピーキーな使い勝手の悪いステータスだ」


 パチリと指を鳴らすと、ライブラに合図をする。  


『えっへん、人工精霊ライブラだよ! 『召喚士』のソルジャーの召喚獣さ!』


 以心伝心、ランピーチの意思を正確に理解して、嘘をぺらぺらと言えるライブラである。


 これは賭けだ。たしか失われたβ版はレベル制で、ジョブ制だったはず。そのことに賭けて、架空のジョブで存在しそうな嘘を付くランピーチたち。


 透き通るような銀髪をツインテールにまとめて、ルビーのような紅い瞳に、小さな唇に可愛らしい小顔。魅力的で蠱惑的な小柄でも胸は大きく、腰はくびれて、小袖のように短い裾の巫女服を着て、ライブラはふわりとランピーチの肩上に浮いている。


 その幻想的な美少女を見て、ぽかんと口を開けて呆然とするガイ。そして耐えかねるように、肩をぷるぷると震わせる。


「な!? 『召喚士』かぁ……。聞いたことのないジョブだぁ……。し、しかも、そ、そんな可愛らしい人工精霊を……。ずるいべ! 活躍するのは夜ってかぁ! おらの精霊も可愛いけど、人じゃないだぁ!」


『えへへ、もっと貢いでくれると夜モードも解禁されるのさ』


「おい、二人で俺の社会的地位を下げないでくれる?」


 恨めしいと、妬みにまみれて睨んでくるガイの昏い心に、ガソリンをばっしゃばっしゃと降り注ぐ小悪魔である。エヘヘとくねくねと身体をよじり赤面するのでたちが悪い。ランピーチの抗議はまったく聞き入れてくれない模様。


「いいべ、それなら、決闘だぁ。おらの力を思い知らしてやるだよ! 死んだらごめんなぁ」


 半分演技、半分本気でガイは昏い炎を瞳に宿して構えを取る。美少女人工精霊など男の夢を叶えやがってと妬む心と、ランピーチの実力がどの程度なのか調べるつもりでもある。


(なんか死亡フラグを立ててしまった感じがする……まぁ、良いか。今のガイのβ版のレベルが、スキル制のレベル5とどの程度同じなのか調べることもできるし。なにせ、ライブラはレベル5だと解析したからな)


 ランピーチもガイに対抗して身構えると、不敵に笑う。


 お互いの思惑を胸に隠して、ランピーチは二人目の主人公とのバトルを開始するのだった。

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