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37話 夢の島の小悪党

『ベッドバッタ接近中!』


「あいよ、お前さん!」


 砂利代わりの錆びたネジ、小枝のような鉄パイプ、雑草のように広がり障害となる針金と、機械の世界の地面を時には飛び越えて、時には蹴り飛ばし、ランピーチは銃撃を続ける。


 ベッドにバッタのような鉄の脚を生やしたモンスターだ。恐怖を齎すためだろう、ベッドにはご丁寧に白骨が拘束具で拘束されており、ベッドバッタに捕まった人間の最後を教えてくれる。


 だが歴戦のゲーマーのランピーチは今更そのようなオブジェクトで恐怖したりしない。銃口を揺らすことなく狙い撃ち、数発の銃弾が命中していき、鉄屑へと変えていく。


『あそこに掃除ツリー!』


「ダジャレだらけの敵だこと」


 掃除機のノズルを蔓として操る金属の柱が根っこをタコの足のように動かして迫ってきていた。吸引力はというと、蔓が動き地面に転がる鉄屑を吸い込むと、グシャグシャと丸められて吸い込まれていた。


「あー、めんどくせー!」


 が、銃の射程距離に入る前に、その金属の幹が砕かれて倒れていった。


『あそこに電子レン人!』


 電子レンジに手足が生えたモンスターがドタバタと足音荒く走ってきて、扉に銃弾がめり込み破壊する。


『ジャマーフラワーもいるよ、ほら、あそこ!』


 スクラップの陰に隠れるよう小さなパラボラアンテナのような花を咲かせる植物がピピピと電子音を鳴らす。音波が辺りへと広がって、身体を通り過ぎるとログが表示された。


『ランピーチは魔法を封印された』


 これこそ、夢の島精霊区が探索者に敬遠される原因である。魔法が使えなくなり、モンスターとの戦闘が厳しくなるからだ。


『さらにそこにケーブルスネーク!』


「それは見えていた!」


 スクラップの影から蛇のようなケーブルが、獲物を見つけたと飛び出してきて襲いかかってくる。牙のようなプラグに電撃を纏わせるケーブルスネークへと、ランピーチは手をかざす。


『テレキネシス』


 残骸から鉄の破片が念力にて浮くと、回転しながら砲弾のようにケーブルスネークへと飛んでいき、その身体を切断した。


 テレキネシスは飛ばせるオブジェクトさえあれば強力なのだ。


「ふははは、魔法は封印されても俺のは超能力だから問題ない! それこそがこの地に来た理由の一つ!」


『おぉ、たしかに『魔法』は封印されて『超能力』は封印されてない! やるじゃんソルジャー!』


「もっと褒めても良いぞ。ふははは!」


 高笑いをするランピーチ。調子に乗って、続く戦闘にハイとなっていたりする。


『そんなソルジャーにプレゼント。あそこからストーブンの群れが出てきてます』


 ライブラがピシリと指差す先には、蟻塚のような穴だらけのスクラップの塚があり、ストーブンの群れがぞろぞろと這い出てきていた。その数は……数えたくない数だ。


「な、なんでさっきから、こんなにひっきりなしに敵が集まってくるんだ!? どうしてなんだ?」


 虫の群れは生理的にゾワゾワとして気持ち悪い。ランピーチは蜂の群れをテレビでみたことがあるが気持ち悪いとしか思わなかったのだ。


 嫌悪の表情で気持ち悪さに顔を歪めながらも、その身体は銃術スキルのとおりに動き、向かってくるストーブンへと、オートへと切り替えると連射する。


 タタタと銃声が辺りに響き渡り、銃弾の嵐がストーブンたちを倒していくが、数が多いために倒しきれず舌打ちする。

 

 銃弾の嵐から漏れたストーブンたちの身体がさらに赤熱すると飛行速度がアップして突進してきた。


『ヒートアタック』


 赤熱したストーブンたちが飛んでくる。


「ふんぬぅー!」


 情けない叫びとは別に『体術』スキルは回避行動を取る。半歩ずれると最初のストーブンを躱し、銃口を突きつけ引き金を引く。

 

 ストーブンが破壊され残骸が転がる中で、横にステップを踏みながら、他のストーブンたちの突進を躱す。躱されたストーブンが地面に激突しスクラップの地面が熱でドロリと溶けていく。


「うぉぉうぉぉ! なんとユー威力!」


『ユーとYouをかけたんだね、あははと、一応笑ってあげる演技をしてあげる!』


 オヤジギャグがバレたランピーチは多少恥ずかしく思いながら、残りのストーブンたちを落ち着いた動きで撃ち倒す。


「ふぅ〜、スキルの活用に慣れてきて、感情を表に出すことができるようになってきたな」


 スキル頼りのランピーチは息を吐きながら、額の汗を拭う。


『うぉぉって悲鳴をあげるようになれる必要ある? あ、また敵の気配! 今度はトーストンと円盤コンロだよ! それに洗濯鬼!』


 呆れた表情のライブラがまた指差す。またもや残骸からトースターのモンスターと、コンロのモンスターが這い出してきていた。そして洗濯機に角を生やすモンスター。


「ええっ? なんだよ、ここのスクラップはモンスターの巣かよ!? ライブラ、お前黄金の爪持ってるだろ!」


『私の綺麗な爪は黄金と例えても良いと思うけど、そんな力はないよ』


「こんなことありえねーだろ、ぬぐぅぅ、不運だからか? ランピーチ難易度だからか? 範囲系の特技覚えておけば良かったぁ!」


 後悔先に立たず、現実でのスキル構成はもっと考えないといけないと、敵がスキルを発動しようと赤いオーラに包まれているのを見て、横っ飛びする。


『トーストブーメラン』


 赤熱した鉄製のトーストがトースターから飛び出して向かってくる。


『ファイア』


 コンロはくるくると回転しながら火炎放射を噴き出す。


『ウォーター』


 高圧の水が洗濯鬼から発射される。


 鉄のトーストが地面に溝を作り、火炎放射が地面を炎で嘗める。ウォータージェットは放置された車両を貫いた。雑魚っぽい名前と違い、その攻撃力は凶悪だ。


 エネルギーマガジンを入れ替えて、腰だめ撃ちでランピーチは残弾を気にせずに敵を倒していく。もはや弾丸を節約するのはなしだ。数発受ければ死ぬ可能性は極めて高い。


『しょうがないなぁ、私が手伝ってあげるよ。ウルトライブラでこーい!』


 迫るモンスターの群れの前に立ちはだかり、ライブラがドカーンと叫ぶ。その声に釣られて、モンスターはライブラに群がり消えていった。こうやってみると健気なサポートに見える不思議。


「意外とライブラって役に立つよなぁ。でも、本当になんでこいつら集まってくるんだ? これじゃ、先に進めねーよ」


 タタタと銃撃をしながら、首をひねる。


 タタタと辺りに響く銃声を上げながら。


 その銃声に反応して続々とモンスターたちが集まってくるが、ランピーチはまったく自身の行動に気づかなかった。ゲームでは辺りに響き渡る轟音を発生させて最大魔法で敵を吹き飛ばしてもエンカント率は変わらないのであるからして。


 なので、静寂の広がる機械の世界にて、ランピーチは辺りのモンスターを殲滅し終わるまで、ほとんど前進することができずに探索は終わったのであった………。


         ◇


『かっこよく倒せたのは最初だけだったね、ソルジャー』


 ケラケラと楽しそうに笑うライブラ。モンスターに群がられても平気の顔である。こいつの心臓は金剛石でできているのかと疑うレベルだ。


「あぁ……疲れた。なんというか……マガジンが空になったぞ? まさかたった半日で使い果たすことになるとは思わなかったよ。それに一番金になる精霊石の採掘場までも進めなかったからなぁ」


『『夢の島精霊区』で、狩りをしてくる。ドヤァと得意げだったもんね』


「常にオレをからかうことに命賭けてない?」


 原因不明のランピーチ難易度で敵の猛攻を防いだランピーチはぐったりとして帰還した。亜空間ポーチの中身もほとんど満タンだ。


「あー、疲労はステータスに表示されないからなぁ、」


 疲れた身体を引きずり、ランピーチは現実とゲームとの違いに苦々しく思う。ヒットポイントは満タンなのに、もう体が疲れて動きが鈍い。


(これは最初の探索で知ってよかったな。疲労があると動けない。当たり前の話だけど、これ精霊区の奥で気づくことになったらやばかったかも)


 それだけでも、儲け物だとため息を吐いてランピーチマンションに戻るのであった。


 ずいぶんと綺麗になった受付ロビーにて、ウロウロとしていたチヒロが気づき小走りに近づいてくる。チヒロは本当にランピーチが帰って来るか不安だったので、ずっと受付ロビーで待っていたのである。


「おかえりなさい、ラン。稼ぐことはできましたか?」


「あぁ、売れればそこそこの稼ぎだ。っと、ドライは戻ってきたか?」


「はい。6階の倉庫に冬熊を持ってきました」


 冬熊を倒して来いとは言ったし、死ぬ可能性はほとんどないが、主人公補正があったらどうしようと少し不安に思ったのだが、無事と聞いて胸を撫で下ろす。


「俺も獲物をたくさん持って来たからな。ちょうど良いか」


「え? えっとどこに獲物が? 外ですか?」


 ランピーチが歩き出すと慌てて後ろに続くチヒロだが首を傾げて不思議そうにする。リュックサックも持たずに武器も持っていないので、先程から本当に探索に行ったのかと疑問だったのだ。


「あぁ、アイテムボックスに仕舞ってあるから」


「え! アイテムボックス……ですか? えぇとどこで、いえ、それはすごいですね!」


 チヒロだって、アイテムボックスの存在は知っている。それが一般人には手に入らないということも。


(きっとあのお方という人に貰ったのね。アイテムボックスをスラム街の人間にポンと渡すなんて、どれだけの財力を持っているのかしら)


 適当に手を振るランピーチを追いかけながら、戦慄するチヒロ。その強大なバックボーンに畏れを抱く。


 ランピーチとしては、亜空間ポーチはまずいが、アイテムボックスなら問題ないだろうとの浅い考えからだ。現実を知らないとと考えながらも、そのリソースは戦闘のみに費やしているのであった。


「あ、ピーチお兄ちゃんおかえりなさい。冬熊狩ってきた。でも、解体ができない。どうする? ギルドに持って行く?」


 6階の大広間に到着すると、氷の毛皮を持つ巨大な熊の死体を前に、ドライが得意げに胸を張る。普通の探索者だと苦戦するモンスターだが、ドライは楽勝だった模様。


「それは俺が解体しよう。こっちも手を加えなければならないしな」


 亜空間ポーチに手をいれると、戦果を取り出す。全ての素材を全て。


「は? えぇ! こんなに狩ったのですか?」


「………おぉ〜、ピーチお兄ちゃん凄い!」


 様々な電気製品が雪崩のごとく亜空間ポーチから出てきて、チヒロたちは口を開けて、呆然とするのであった。

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