前へ次へ   更新
36/86

36話 狩りをする小悪党

 錆びた鉄が地面となり、山を築く乾いた世界。それが『夢の島精霊区』だ。夢の島と言っても以前の世界のようにゴミの島ではない。いや、ゴミの島ではあるが、そのゴミは全て機械系統、スクラップが主である。


『夢の島精霊区』


 ライブラが精霊区の名前を書いた仮想のクリップボードを掲げて、くねくねと身体を揺らしてランピーチの目の前を歩いている。レースクィーンのつもりだろうか、実にうざい。そして悔しいが巫女コスプレ美少女は可愛らしい。


「なんのつもりだよ」


『新しい精霊区に入ったら、ソルジャーに告げないとね。それが私の役目だからさ。私はソルジャーのクィーンだし!』


「サポート役を女王呼びはおかしくね?」


 ウィンクをする可愛らしいサポート役に、たしかにゲームの仕様だなと、そういうところが、現実世界っぽくないなぁとランピーチは胡乱げになりながら肩を竦める。諦めたともいう。


『夢の島精霊区のモンスターは物理に強い耐性と高い防御力を持つ機械系。そして、土地の特性としては魔法を妨害するステレオフラワーがいるところ。意味がわかる?』


「あぁ、魔法をメインに戦わないといけないのに、ステレオフラワーがいるおかげで、魔法は使いにくい。この土地は稼ぎにくいってことだろ?」


『ピンポーン。銃弾だって効きにくいよ? なにしろ敵は金属の塊だからさ。どうするの?』


「もちろんわかってる。それでもここに来たのはそれだけの理由があるんだよ」

 

 ゲーム攻略でもお勧めしない地区だと記載されていた。物理は効かないし、魔法は使えない。稼ぎにくい場所であり、イベントか必要な素材を手に入れる時以外はここにはこない。


「まぁ、試して見るから、少し後ろで見てろよ」


 びっしりと敷き詰められた金属の破片を踏みながら、先程の経験値を使う。


『気配察知レベル2を取得』


『取得しました』


 予想外の経験値を気配察知スキルのレベル上げに使う。周囲の様子がレベル1の時の倍以上にわかるようになり、ぼんやりとしていた敵の様子の気配も少しはっきりとしてきた。


 周囲を確認しながら歩く。雪は降っておらず、気温も初夏のように暑い。精霊区の中はそれぞれ気候が違う。マグマが広がる世界、極寒の荒れ地、鬱蒼と植物が繁茂するジャングル、そして金属の世界である夢の島。


 スクラップの山をザクザクと金属片の音を立てながら登り、気配察知に反応を感じて、目を細める。


「お、いたいた。あれだな」


 気配察知に引っかかったモンスターが壊れた車両や捨てられた電気製品の陰で休んでいた。何匹か蝿のように翅を生やす虫のようなモンスターが屯している。


 精霊粉エレメントパウダーによる暴走は、炎や水などに意思を持たせたエネルギータイプのモンスター、悪魔や動物の形を模したモンスター、壊れた機械と融合した機械系のモンスターと種類は様々だ。


 そのうち、機械系のモンスターがこの夢の島精霊区のメインモンスターとなる。


 よいせと壊れたバスの中に入り、銃口を窓から突き出し狙撃体勢をとる。


「DG5式アサルトライフルは中距離、遠距離両方で使える便利な武器だ。エネルギーパックマガジンなら、弾丸が尽きることもないしな」


 エネルギーパックマガジンなら、一つで百発はある。もはやしばらくは弾丸に困ることもない。不思議ゲームシステムで、マガジンに籠められているエネルギーが銃弾へと変化して発射される。マガジンは軽く、攻撃力は普通の銃弾よりも高い。


『DG5式アサルトライフル:攻撃力21』


 以前の銃のなんと4倍の攻撃力だ。買った値段はG1突撃銃の10倍なのに泣けてくる攻撃力であるが、ゲームで言うとDG5式は銅の銃と呼ばれていることを知っているので仕方ない。序盤では最強の武器なのだ。


 チャキリと銃を構えて、目を細めゆっくりと息を吐くとピタリと止める。


「では狩りを始めるとするか」


『ピアッサー』


 ボソリと呟き引き金を引くと、銃口から半透明の水晶のような銃弾が放たれる。銃弾を赤いオーラを包み、空気を切り裂き、赤い軌跡を残していく。


 モンスターへと飛んでいき、その金属の身体に正確に命中した。ガシンと音がして、めり込んだ銃弾により、金属片を撒き散らし、モンスターは地面を転がっていき、バチリと放電を放ち動きを止めた。


 硬い金属の胴体は防御力を50%無効化する『ピアッサー』により、装甲では銃弾を受け止めきれずに、内部に入り込みその精密機械の塊をめちゃくちゃに破壊したのだ。


「よし、やったか?」


『うん、経験値1を取得したよ!』


 フラグを立てるセリフだが、さすがにランピーチ難易度でも雑魚は倒せた模様。そして経験値の報告は悲しくなるのでいりません。


 倒したモンスターのそばに屯していたモンスターたちが敵の出現に敏感に反応する。翅を細かに振動させると空へと飛び立つ。


 その数は5匹。


『ピピピ、敵の解析終了!』


『ストーブン:レベル1』


 ライブラが敵を指差し、ふんすと鼻を鳴らして告げる。


 細長い身体は赤く熱を持ち、蝿のような翅を震わせて、ランピーチを正確に把握している動きでまっすぐに向かってきていた。


「まぁ、ストーブの付喪神みたいなモンスターなだけだけども」


 ぶっちゃけストーブのモンスターなのだ。ランピーチは苦笑しながら、飛んでくるモンスターを狙い撃つ。


『ピアッサー』


 再びの銃技。防御力を無効化する技により、あっさりと敵を撃墜する。


「ストーブンは飛行系。飛行系はヒットポイント少ないんだよな。撃墜すると落下ダメージも入るから簡単に倒せるんだ」


『銃術』


 にやりと笑い、引き金を引き続ける。空を飛行するストーブンたちを、その一流の腕の冴えを見せて、正確に撃ち落としていく。


 ストーブンたちは銃撃を躱そうと、鋭角に空中を飛ぶが、ランピーチの前では遅すぎる。敵の動きを見切り、予測射撃を行っていくと、敵はまるで銃弾にぶつかりにいくように、機動して倒されていった。


 地面を転がっていき、残骸へと変わっていくストーブンたち。近づかれるまえに倒し終わり、構えを解く。


「よしよし、5発で終わり。察知できるギリギリの距離ならストーブンの攻撃を受ける前に倒せるな」


『ストーブンは遠距離攻撃を持っていないもんね。銃撃戦の前には敵はいないかぁ』


 なんだかつまらなそうに口を尖らせるサポートキャラにジト目をしつつ、ランピーチは倒したストーブンへと近づく。翅はバラバラに散らばっており、胴体も破損して赤く熱していた胴体も停止して冷えている。


 そっと近づき、もう動かないか足でつつき停止していることに安堵する。いきなり動き出す機械とかあるあるだったので、警戒していた小悪党である。


「これが金になるんだけど……そういや、自分で解体しないといけないのか? これを? 必要な素材を取得するのは無理じゃね?」


 ゲームだとこいつは金になる。しかし、ゲームでは触るだけで素材に変わったけど、触っても素材に変わらない。


「翅と脚が生えているストーブを分解………。工具も持っていないし、知識もないんだけど? これ戦闘機を綺麗に解体しろということと同義だよこれ?」


 虫みたいなストーブである。これを解体するのは高度な知識が必要だよねと、低度な知識しか持たないランピーチは悩む。こういうときだけ現実準拠なのは困るなぁと嘆息する。


『解体スキルを取得すれば良いんじゃない?』


「ん? 『解体』スキルはレアドロップ率がアップするだけだろ。しかもその確率は低いし」


『そんなことあるわけ無いでしょ? レアドロップを取得するためには解体ができないといけないんだから』


「ふむ? ……そうか、もしかして、あぁ、そういうことか。『解体』を取得」


『取得しました』


『解体:レベル%のレアドロップ率アップ』


 解体はゲームでは、レアドロップ率のアップだけ。ゲームでは不要のスキルだった。大切な経験値を使用するくらいなら、多くの敵を倒してレアドロップを狙えば良かったからだ。


 だが、ライブラの言葉でピンときた。


「そうか、現実となると説明書きには裏があるのか。たしかにそもそも解体ができないと、レアドロップは取得できないしな」


『解体』


 ストーブンに手をかざすと、死骸が緑色に光り、その残骸が粒子に変わり、いくつかの部品へと姿を変える。


「やっぱり解体できるのか……すごいな、このスキル。他のスキルも同じ様な隠された能力を持つ物があるか調べる必要があるか………」


 複雑な回路やケーブル、それに融合している虫のような翅や脚。分解するのは不可能にも思える残骸。


『電気ストーブ:小破』

『オイル』

『精霊石(小)』


 それが見事に素材へと変化した。ゲームどおりに。


「おぉ、これこれ。これが金になるんだよ。通常はモンスターは一匹100エレにもならないけど、こいつらは高く売れるアイテムをドロップをするんだけど……これ、ドロップ?」


 ドロップには見えないなぁと首を傾げるランピーチだが、まぁ良いかと流すことにする。


 ゲームあるある。売れる武器とかを高確率で落とすモンスターを狙って倒し、大金を稼ぐ金策だ。


「電気ストーブは五千エレで売れるからな。これで二万五千エレ。半日もあれば、このドロップだけで五十万エレはいくだろ」


『なぁるほど。夢の島の機械系モンスターはたしかに売れるね』


 ランピーチが電気ストーブへと残骸を変えていくのを見て、納得するライブラ。


『あ、あそこ、他のモンスター発見!』


 せっせと亜空間ポーチにストーブを仕舞うランピーチを他所にライブラがスクラップの山を指差す。


「げっ、ああいう出現の仕方だと気配察知できないのか!」


 スクラップの山が崩れると、新たなるモンスターたちが現れる。カラカラと鉄の残骸が落ちていき、ブルリと体を揺する。隠れていたというより寝ていたようだ。


『トーストン:レベル1』


 プヒプヒと鳴き声をあげつつ現れたのは豚で胴体がトースターとなっているモンスターだ。なんか可愛らしい。


『あれは鉄のパンを背中から撃ってくるモンスター、トーストンだプヒ!』


「ここの敵は可愛らしいのが多いんだよなぁ」


 トテトテと短い足を動かして走ってくるトーストン。プヒプヒと鳴いて近づき、ライブラも楽しそうにプヒプヒと鳴く。

 

「まぁ、銃の相手じゃないけどな」


『ピアッサー』


 ゲームにおいても見たことのあるモンスターだ。ランピーチは薄笑いを浮かべて銃を構えるのだった。


         ◇


「で、こいつ食べられると思う?」


 トーストンの群れを倒して、嬉しいよりも困惑するランピーチ。


『トースター:小破』

『オイル』

『豚肉1キロ』


『さぁ………たぶん食べられるんじゃない?』


 夢の島で落とすアイテムにしてはなぁと躊躇い、お互いに顔を見合わせる。


「ハタラカンチュアにまずは食べさせてみよう」


『お腹空かせてたしね』


「そして次はうさぎ、そしてライブラと試せばいいよな」


『その次はソルジャーだね』


「あっはっは、1年後くらいに食べることにするぜ」


 この豚肉は捨てられそうであった……。

 前へ次へ 目次  更新