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100話 連鎖クエストと小悪党

「ソルジャー、大変だよ!」


「落ち着けよ、計算通りだから」


 肩をすくめて焦るライブラにランピーチは自身ではダンディだと思っているウケケな小悪党スマイルで、逃げる正勝を見送る。逃げるのは計算通り。ここで逃げないと反対に困るのだ。 


「落ち着けないよ。何枚入れてもこのスロット当たらないんだよ。チェリーすら揃わないんだから!」


 正勝が逃げたことは気にしていなかった模様。悔しげにコインを投じているが、ここまで負けるのはある意味強運な巫女である。もう、この子は一生ギャンブルをやらせない方が良いだろう。


「これからは君をポンコツ娘と呼んで良いかな? 君は俺のなんだっけ?」


「え、なんだって? 愛すべき恋人でしょ? あ、こんな騒ぎになって、もう使わないだろうから、コイン貰うね」


「難聴主人公にならないでくれるかな? まぁ、いいけどさ。クエストはクリアしたし」


 もはやダメダメな銀髪ツインテールだ。やはり銀髪キャラは駄目だと精神的に疲れてため息を吐くが目的は達成している。


『カジノのオーナーの悪行を暴けをクリアしました。経験値10000取得』


 このカジノ『ゴールドラッシュ』は、人身売買から盗賊の元締めとあらゆる悪行に絡んでいる武装家門の子弟槍田正勝がオーナーだ。そのオーナーの悪行を暴くクエストがゲームではあった。


 詐欺師アベージを倒した後にやろうと思って、双精霊の件ですっかり忘れていたが、ガイの話で思い出したのだ。


 本来は各地にて情報を集めて証拠を固めて、他の武装家門を味方につけて犯罪を暴く、極めて面倒くさいシティ・アドベンチャーなのだが、裏技があった。


 それが超能力『テレキネシス』を使ってのイカサマでのボロ儲けである。そうすると、正勝が怒り狂って現れるので、サクッと倒して終わることができるのだ。即ち力技だ。実に小悪党に相応しい強引さだった。


「ねぇ、ソルジャー。あいつ逃げちゃうよ?」


「わざと逃がしたんだ。あいつに逃げられると連鎖クエストが発生していくんだよ。経験値ボロ儲けの連鎖クエストは大好物なんだ」


 走り去る正勝を見送り、ニヤニヤと笑ってゆったりと歩き出す。


「奴を殺せ! かちこみだ、カチコミだぞ!」


 逃げながら正勝が叫ぶと、カジノに詰めていた他の警備員がサブマシンガンを手にして、どやどやとやって来て正勝との間の壁となる。


「おい、銃を向けるな!」

「こいつ、わたくしを誰だと思ってますの!」

「押すな、おい。俺も逃げるぞ!」

「金庫はどこですか?」


 大勢の警備員がサブマシンガンを向けてきて、他の客は騒然となり、ようやく逃げだす。精霊鎧を服の下に着込んでいるのだろう、スロット台を蹴り飛ばして壁とする男や、燃え盛る炎を放つ女性。逃げ出して店員たちを押しのける老人や、金庫はどこですかと、換金所の札束をカバンに詰める黒髪の少女。もうめちゃくちゃだ。


「う、撃て〜!」


「正勝の直属部下が倒されたのに勇敢なことだ。まぁ、表の警備員は生かしておいてやるよ、ここで死んじゃ給料に見合わないだろ?」


『量産型チンピーラA:レベル1』


 雑魚の象徴であるのか、悪意のある表記に口元を引き攣らせて、パチリと指を鳴らす。鉄板が浮いて、銃弾のすべてを受け止める。キンキンと金属音が響き、跳弾が部屋を跳ねて、ますます客も店員も恐怖で逃げ惑う。


 ランピーチの元へは一発も届かない。かなり鉄板の操作に慣れてきて、今は十枚くらいなら簡単に操れるので、バリケードにするくらい容易な事だ。


「骨折くらいは我慢してくれ。労災が下りることを期待しているよ」


『テレキネシス』


 改造した鉄板は一枚が百キロを超える。もはや凶器にしか見えないその鉄板を前に必死になって銃を撃つが、凹みすらできずに銃弾は跳ね返っていく。


「ほい」


「ギャァァァ!」

「お、重い……」

「動けねぇ、誰か助けてくれよ〜」


 思念を送り、鉄板をハエ叩きの板のように振り回して、ペシリペシリと叩き倒すのであった。そうして重石として警備員たちの上へと残していき、悠々とVIPルームを歩き去り、スタッフオンリーと書かれたドアを潜り抜けるのであった。


 残された客や店員は一気に制圧された警備員たちを見て、お互いに顔を見合わせる。壊れたスロット台、ひっくり返ったルーレット台、散らばっているコイン。先程の金持ちだけが遊ぶセレブなカジノのイメージは欠片もない。


「な、なんだったんだ? あの男は何者だ?」

「わ、わからん。だが、これは大変なことになるぞ」

「あぁ、なにせ槍田家に喧嘩を売ったんだ。大抗争になるぞ」

「しばらくはこのカジノには来ないほうが良いな」


 槍田家は武装家門だ。面子を潰されて報復をしないなどとあり得ない。喧嘩を売った者もそれは理解しているはず。ということは槍田家に負けず劣らずのバックボーンがあるに違いない。


 その先は容易に想像がつく。治安維持など無視した大抗争だ。どこの家門かは知らないが、廃虚街が増えるかもしれないと、戦争の恐怖とそれがもたらす金の流れに期待をし、複雑な表情となる。


 お互いに頷くと、そそくさと去っていき、店員たちは重石として置かれた鉄板を警備員の上から取り除こうとするのだった。


          ◇


「いーやー! 今度お風呂に一緒に入ってあげるから! マイクロビキニ着て入ってあげるから、もう少しスロットやらせて! あと少しで大当たりする予感がするの。たくさんリーチアクションも増えてきたんだよ」


 ジタバタと暴れる駄々っ子美少女。ランピーチが部屋を出ようとしても、スロット台から離れないので、首根っこを押さえて連れてきた。この子はもはやサポートキャラではないと思います。


「リーチアクションだけのスロット台は出る出る詐欺の台だ。諦めろよ」


 お風呂の誘惑には心が揺れるが、寒天のように固い意思のランピーチは、ライブラの首根っこを押さえて、ズリズリと引っ張りながら通路を進む。


「連鎖クエストなんだから、手伝えよ。今度ランピーチマンションでもカジノを開いてやるから。チンチロリンとかパチンコ台とか麻雀とかやってあげるから」


「スロットとかお洒落なのが良いの〜。セレブな私に相応しい煌びやかなカジノが良いの! シャンデリアの下でやるルーレットとかスロットとかハイアンドローとか! むさ苦しい男たちがやりそうなそんな場末のギャンブルは嫌〜」


 涙目となり手足をバタバタと振るライブラ。精神年齢は何歳かな?


「それは偏見だぞ。麻雀は女の子もやるんだぞ。まぁなんとなく言いたいことはわかるけど、━━」


「死ねっ、げふん」


 話の合間に通路の影からチンピラが飛び出してきたので蹴っ飛ばしておく。不意打ちなど、今更ランピーチに通用するわけがない。


 話しながらも、チンピラたちを倒しており、倒れ伏したチンピラたちの山で、通路は死屍累々の様子となっているが石でも蹴っ飛ばしたかのように平然と進む。


「ここの連鎖クエストはまだまだあるんだ」


『人身売買の証拠。牢獄を解放しよう!』


 二番目のクエストが燦然と輝いて見えます。


「人身売買って、中世でもないのにそんなことをしてるの?」


「え~と、たしか槍田家は継承者争いをしていて、アホな正勝は非合法な方法で稼いでるんだ。しかも……人身売買の売り先も問題だ」


「ありがちな実験体とか? マッドな魔法使いに売ってる?」


 ようやく暴れるのを止めて、ライブラが隣を歩きながらまともに返してくる。なかなか勘が良い。


「そうなんだよ。で、地下室にはマッドな魔法使いがいる実験室があるんだ」


 何も無い突き当りに到達し、ランピーチは壁の隅を触ると一部をカチリとずらす。すると、カードの読み取り機が姿を見せる。


「え〜。それってすごいネタバレじゃないのさ。惨いキメラとかいるんでしょ?」


「そうだよ。まぁ、テンプレだよな」


『サイコクラッキング』


 カード読み取り機をピピッと操作して、壁に隠されていた隠し扉を開く。その光景にライブラはジト目となり、口を尖らせる。


「これって本当はカードを探したり、隠し通路のヒントを集めないといけないんじゃないの?」


 シティアドベンチャーを崩壊させるランピーチにご不満なライブラだ。もう少し楽しんでも良いんじゃないのと頬を膨らませている。


 まぁ、気持ちはわかる。わかるけど仕方ないだろ。


 扉を開けるとエレベーターとなって、二人で乗り込みながら、ランピーチは狡猾そうににやりと笑い返す。


「知ってるか? 高レベルの魔法使いがいると、シティアドベンチャーって、すぐに崩壊しちゃうんだぜ?」


 のんびりとエレベーターが下降していくのを見ながら肩を竦める。特にハッキングスキル系統があると、鍵とか探す必要ないから、近未来型のゲームだと楽勝なんだよね。


 地下に到着し、ガションとエレベーターのドアが開いていき━━━。


「いまだっだだ」

「がはぁ」

「ゴフッ」


 銃を構えて待ち構えていた雑魚たちを鉄板であっさりと薙ぎ倒すのであった。


「さて………どこに行こうかな」


 倒れ伏した男を睥睨して、周りを確認する。3本の通路があり、どこがどこに繋がっているのか、見た目にはわからない。だがゲームでランピーチはこの通路がどこに繋がっているのか知っている。


「右が牢獄。正面が金庫、左が借金して人体実験されたキマイランピーチのいる実験室だな」


「………ゲームでは?」


「うん。ランピーチは借金塗れになってキマイラになってます」


 ライブラと顔を見合わせて、しばしの沈黙。気まずい時間。


「ここのランピーチが一番強かったな。倒すと電子キーを開けられるキーハッカーを貰えるんだ」


 ガオーと咆哮するキマイランピーチは魔法も多彩で攻撃力も高く、耐久度も高かったために苦戦した。下手すれば負けることも多かったのだ。世間ではラスボスよりも苦戦したと言われていた。


「まずは牢獄に行こうか。クリシュナを解放しないといけないしな。その後に実験室だ」


「はーい。そこで連鎖クエストが発生するんだ。たしかに大勢の運命が変わるだろうね」


「はーい。私は金庫に行きますね。私の懐の運命が変わると思います」


 美少女サポートキャラの良い返事を受けて、ランピーチは牢獄に向かう。


 ━━━恐らくはクリシュナは捕まっていると、未来を予想して経験値大量に稼げそうだと顔をニマニマさせながら。いや、哀れなる主人公を想い辛そうな顔をしながら。

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