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幕間 -お出掛け先-

時系列が一部と二部の間となっています。

本編に関わるような伏線などは全く用意していない箸休め回です。

「お願いします……お願いします……どうか、どうか許してくださいまし……」

「諦めるんだなミスティちゃん……こいつはあんたの口に入りたがってるんだぜ?」

「へっへっへっへ……」


 とある店の片隅に、チンピラのよう台詞を吐きながら少女に絡む二人がいた。

 その意地の悪い二人に挟まれて座っているのはミスティ・トランス・カエシウスという名の少女だ。

 この国マナリルの北方を支配する大貴族の次女であり、ベラルタ魔法学院に通う優秀な魔法使いの卵である。

 そんな彼女は自分を挟んでくる二人から顔を背けて精一杯の抵抗をしていた。

 抵抗はしているものの、得意の魔法でこの場を切り抜けようとはしていない。

 一体何故か?


「往生際が悪いな、お嬢ちゃん?」

「へっへっへ……えっと……へっへっへ……」


 それもそのはず。

 その意地の悪い二人は同じくベラルタ魔法学院に通うミスティの友人達。

 ミスティの右で串に刺さっているとある食べ物を眼前に差し出しているのがエルミラ。

 ミスティの退路を断つように座ってよくわからない笑いを続けているのがベネッタである。


「……僕達は何を見せられてるんだろうね」

「楽しそうだとは思う」

「まぁ、それは確かに……」


 正面にはそんな茶番を見せられているアルムとルクス。

 アルムはそんな光景を見ながら皿に並べられた串を一本をとって刺さっている料理を口に入れた。

 【原初の巨神(ベルグリシ)】の侵攻によってベラルタ魔法学院は一月の休学となった。

 その間を利用して遊びに行こうとミスティの家で行われえたお出かけ先プレゼン対決によって決まった場所にアルム達は来ていた。

 結論から言うと、そのお出かけ先プレゼン対決に勝利したのはベネッタだった。

 ここは王都にひっそりと構えつつも、近年コアな人気を獲得しているカエル料理店である。

 刺繍の施された垂れ幕で仕切られた席に暖色系の照明が異国の雰囲気を醸し出す洒落た内装だ。

 昼時から外れている時間でも二十ほどある席には結構な数の客が入っていて、その人気が窺える。


「食べます、食べますからせめて足は……足はおやめくださいまし……」


 必死に抵抗するミスティ。

 エルミラに差し出されている串には揚げられたカエルの足があった。

 想像したまんまの形で出されたそれからミスティは必死に目をそらしている。

 せめて他の部位をと。


「足はやめてくださいだあ!? 残念だったなあ……! 足しかないんだよぉ!」

「へっへっへー!」

「あんたそれ以外何かないの?」

「えー……だってわかんないよー……」


 オススメをと注文して出てきたのはカエル足の串焼き。

 足と言っても通常のサイズではない。

 この店が仕入れるのは三十センチあるガザスの食用ガエルである。

 その為、足だけでも結構なボリュームだ。

 そして、この店のオススメメニューはカエル足の串焼きな為、あるのは足だけだ。

 他の部位を選択する事はできない。


「予想はしてたけど、アルムは平気なんだね」

「大きさに驚きはしたが、まぁ、調理されてるし特には……口に入れてしまえばうまいしな」


 そう言いながらアルムは指で口から骨を引っ張り出し、自分用の小皿に置く。

 その自然な所作は本当は食べ慣れているのではと錯覚するほどだ。


「でもミスティ殿の気持ちもわかるよ。流石に形が抵抗ある……」


 ルクスもまだ一口も食べていない。

 普段の食事とはかけはなれたその形状は躊躇わせるには充分なほど足としての形を残している。

 出された串はご丁寧に五本。

 しっかり人数分が用意されていた。


「意外に骨が細いから気を付けろ」

「……忠告ありがとう」


 食べきった友人からのありがたい忠告にルクスは苦笑いを浮かべる。

 そういう問題じゃないけど、とは言えなかった。


「そもそもこれどこの料理なんだ?」

「ガザスの料理らしいよ」

「あぁ、マナリルの友好国だったか……?」

「そうそう」

「よし、合ってた」


 自信無さげに言うアルムにルクスは頷く。

 ちらっと聞いた事のある知識を覚えていたのが嬉しかったのか、アルムは少し誇らしげである。


「いけません!」


 突然、意を決したように顔をそらしていたミスティが正面を向く。

 眼前にはエルミラから突き出されているカエルの足。

 小さく、ひっ、と声を上げたのをアルムは聞き逃さなかった。


「こ、このように拒んでいてはお店の方、ひいてはこの料理を好むこのお店のお客さんに失礼です……一度お店に入ったのですから出された料理はしっかりと味わわなければ貴族の恥!」


 言いながらミスティはエルミラから串をとる。

 ぷるぷると小刻みに震える小さな手は生まれたての小鹿のようだ。


「あ、アルム……その、どのようなお味でしたか……?」


 串をとったものの、覚悟が決まらないのか、ミスティは普段より弱々しい声でアルムのほうを見る。


「え? ああ……何か少し弾力のある魚みたいな感じだったな。骨が細いからかボリュームもあって美味しかった」

「あ、ありがとうございます……」


 アルムから感想を聞いたミスティは礼を言って串を徐々に口元へと近付ける。


「これはお魚……これはお魚……」

「何か暗示かけ始めた」

「必死だなミスティ……」


 目を閉じ、祈るようにそれを続けた後、


「お」


 再び目を開けると、小動物のような小さな口でミスティは串焼きへとかぶりつく。


「おー……!」


 これには見ていた四人も小さく拍手。

 四人が見ている中、もくもくとミスティは咀嚼する。

 そしてそれを飲み込むと、


「……あら」


 今まで怯えていた姿はどこへやら。

 大変満足そうに串一本をしっかり食べきったのであった。

読んでくださってありがとうございます。

今回は箸休め回で一区切りです。

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