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幕間 -巨神の声-

"どこだ……"


 それは声無き声。

 世界に響かぬその声はその巨体の内にのみ反響する。

 眼下に広がる平原と、見覚えのある隣の山を巨体は見下ろす。


"どこだ……"


 隣の山には四つの魔法使いの気配。

 だが違う。

 この四つの魔法使いはどれも違う。

 懐かしい気配のするものの近くにいるが、どれも主とは違う気配だ。


"どこだ……どこにいる……"


 巨体は辺りを見回す。

 ……まるで人間のようではないか。

 私はこんな事が出来たのかと、巨体は自身が自然にとった行動に驚いた。


 驚きながらも巨体は近くにある人間の集落へと目をやる。

 ……ここにもいない。

 だが懐かしい匂いだ。主が纏う地の匂い。主が好きだと言っていた故郷の匂い。

 しかしそこには魔法使いの気配が二つ。

 どちらも主のものではない。


"どこだ……!"


 巨体は魔法使いの気配を辿る。

 ここから少し離れた所にも魔法使いの気配がある。

 強い気配もあるが、主には及ばない……。

 こちらも違う。


 ――いや。

 懐かしい気配が魔力に囲まれている。

 魔力に囲まれている、が。

 間違うはずがない。

 この私が間違うはずがない――!

 主はあそこにいる。あの場所にいる。

 見つけた。見つけた。


"ここは……"


 主の気配を確認した後、巨体は見回した時の風景に違和感を感じていた。

 あれから幾度月は巡った?

 私は眠っていた。眠る前と同じ場所のはずだが、見える風景はまるで違っていた。

 近くに見えるあの集落は懐かしい匂いはする、だがずいぶん変わってしまったものだ。

 しかしこれは成長というものだろう。

 以前よりもあの集落は大きくなっている。眠る前はもっと小さかったはずだ。


 変わりないのはこの隣の山だけだ。

 私のモデルとなった偉大な山。偉大だが名も無き山。

 人と獣を見守り続けるその姿に一切の変わりはない。

 その在り方には同じ大地として敬意を表する。


 ああ――そんな事よりも。


"行かなくては"


 ここには主がいない。

 何故いない?

 主と共にこの地に眠ったことを私は忘れない。

 ここにいないという事は、主は先に目覚めたのか?

 そうだ、私が目覚めたということはきっと主も長い眠りから目覚めたのだろう。

 先にこの変わった地を見て回っているに違いない。


 主の下へ行かなくては。

 どうやら主は何らかの魔法に囲まれているようだが、私には関係ない。

 私は主に生み出された魔法。

 主への道の妨げとなるものは悉く粉砕しよう。

 この巨躯はその為にあるのだから。


"行かなくては……行かなくては……!"


 主は私を創造した時に言った。


 共にいてくれ、と。


 ならば主は今も私を待っているはず。

 この先で待っているはず。


 行かなくては。

 主の下へ行かなくては。

 叶えなければ。

 主の願いを叶えなくては――!

読んでくださってありがとうございます。

ここで一区切りかつ一部ラストの前半が終了です。

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