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幕間 -入学前夜-

「魔法使いになりたい」


 湖のように広がる自然の花園。咲いている花は一つしかなく、夜に逆らうように白く輝いている。

 その中心に立つ一人の少年は改めてそう宣言した。

 それは小さな頃からの夢であり、育ての親であるシスターが持ってきてくれた本の中に登場する存在。

 魔法とは無縁の田舎村で過ごす彼にとっての憧れだった。


「どんな魔法使いになりたいんだい?」


 自然の花園はその存在が隠されているかのように森で囲まれている。

 白く輝く花園とは打って変わって、森は影で黒く染まっていた。

 そんな花園から見える一本の木の下でフードを被った女性が少年に問いかける。


「どんな……」


 彼は魔法使いを自分の育ての親であるシスターが持ってきてくれた本の中と、問いかけてきた彼女しか知らない。

 そう聞かれてしまうと、誰かを助ける魔法使いとしか答えることができない。


「それがわかるまでは君は魔法が使える子供のままだよ」

「まだ子供扱いかー……師匠の背は超えたんだけどなぁ」

「それは大きく育ってくれて何よりだけどね」


 師匠と呼ばれたフードの女は笑う。

 初めて会った時は自分の腰ほどしか無かったのにと、気付けば出会った時を思い出していた。

 感傷に浸りそうになるのはきっとこれから少年が旅立つからだろう。


「君はもっと知る必要がある。魔法使いを、人を。そうして日々を過ごしていけば憧れよりも大切な夢が隣にあったりする」

「師匠、もっとわかりやすく言ってくれ」


 少年はそんな彼女に気付く様子もなく、フードの女のほうへと歩く。

 そんな少年にフードの女性は手を伸ばした。


「さあ、小さな箱庭から出る時だ。アルム、君はもうただの田舎の少年じゃない。これから魔法使いの卵となる」


 その言葉の意味は少年にはわからない。

 でも、何か後戻りはできないような気がした。

 それでも少年はその手をとる。


「ようこそ、私の弟子。君のような出来損ないでも夢が見れるのだと、私は期待しているよ」


 手を引かれて少年は花園から森へ。

 師匠からの冷たい言葉はこれ以上無い祝福なのだと少年は理解した。

 彼女が来たのは十年前。

 憧れを捨てなくてもいいように、彼女は今まで自分に魔法を教授し続けてくれたのだから。

ここまでが一区切りとなります。

次からまた普通に本編です。

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