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第31話 すれ違い

是非最後までお楽しみください!

 住み込み授業が始まって3ヶ月が経とうとしていた頃だった。


「また負けた……」


「はぁ……グラリスはいつになったらワイから1本取れるんじゃーー?」


 全く伸びない剣術の修行中である。


「それは僕が聞きたいくらいですよーー」


「もっと本気で取り組めなのじゃー!」


 ブレイブとの一件があってから、俺は魔術の成長速度は加速した。


 ブレイブに焚き付けられたからか、師匠との差を感じたからかは分からないが【風属性】は超級まで一応使えるようになり、【水属性】は上級、【火属性】は中級まで成長した。


 加えて岩や泥、師匠の使う砂などといった物も、実践で使えるかと言ったら多分無理だが、生み出す程度ならできるようになった。


 ここまで色んな魔法を使うのが大変だとは思っていなかったのだが、普通に考えてみて、この世界で一生をかけて一つの属性を極める所を俺は、数年で全てをマスターしようとしていた。


 恐らく魔力量はそこら辺の人よりはかなり多いだろう。

 師匠と比べたら劣っているが、時間が経てば師匠を超える魔力量を手に入れられるかもしれない。


 やっぱ今すぐには無理な話だわな。

 ゆっくり。そうゆっくりでいいんだ。


「ところで師匠。一つお話があるんですが」


「おう、なんじゃ?」


 家の前での修行中、吹き飛ばされたまま寝っ転がっていた身体を起こし、会話を始めた。


「一度実家に帰ってみてはダメですか?」


「理由はなんじゃ?」


「今の僕じゃすぐに成長できるとは思えません。モチベーションですよ。モチベーションアップ」


 この俺のセリフへの師匠のアンサーが、俺をおかしくしてしまった。


「……だめじゃ」


「え……? どうしてですか?」


「逆になんでそんな不純な理由でいけると思ったんじゃ?」


 不純……? それはないだろ。

 十分理由には事足りるだろ。


「今のままやっても無駄だから気持ちを改めようとしてるんじゃないですか」


「今、お前がしようとしてることはただの休憩じゃ。そんなに会いたいんだったら一本取ってからじゃ」


 俺は少しムカついてしまった。師匠の言い方に。


 俺はスキをついて後ろから木刀を脳天目掛けて振り下ろした。

 取った……!


 パンッ!!


「痛ててて……」


 俺はノールックで吹き飛ばされてしまった。


「まぁ、この調子だと一生取れないとお前んじゃけどな」


「……なんでそんな言い方するんですか」


「言い方も何も……お前さんなんのために今ここにいるか分かってないじゃろ。まぁワイもろくに成長もしないやつだとは思っとらんかったけどな」


「成長はしてますよ! 魔法だって最近は……」


「それは元に秘めてる魔力を放出できるようになっただけじゃ。成長とは言わん」


「師匠は分かってないよ! 僕だって色々大変なのに! 単属性の師匠が僕の大変さなんて分かるわけないだろうけどね!」


「あぁ分からん。そんなに分かって欲しいんじゃったら分かってくれるやつを師匠にすればよい。もうワイを師匠と呼ぶな」


 初めての喧嘩だった。会ってからこんなにギスギスしたことは無かった。


 でも、今の俺は止まれなかった。


「……分かった。もうしばらくは稽古つけてくれなくてもいいしクエストだって一人で行くよ」


「お前さんはまだ8歳。行けるクエストも限られておるしそんなんじゃお金もたまらんし成長もできんぞ?」


「なんとかする」


 こうして次の日から師匠との会話は無くなった。


 ──────


「本当にしょうもないクエストしかないな……」


 俺は一人で魔剣を持ち、掲示板を見ていた。


 クエストには年齢制限があり、基本討伐系のクエストは15歳以上かパーティーメンバーの人数が3人以上であることが条件だった。


「今日はこの迷子の犬探して自主練でもするか……」


 迷子犬探しの割には報酬が銀貨2枚と多かった。

 クエストは冒険者が基本受けるが、1人目の冒険者がそのクエストに失敗すると報酬が吊り上がることがある。


 おそらくこのクエストもその類いだろう。


「これ……お願いします」


「迷子犬の捜索ですね。参考資料としてこちらの毛があります。多少魔力を纏っているので是非お使いください」


 なんだ。簡単じゃないか。


「ありがとうございます」


 俺はセントラルを後にし、毛に付いた魔力を吸収した。


 ……こっちか。


 これは魔力探索。俺も最近までこれを修行していた。

 自分の魔剣を隠してもらい、魔力の引力を感じものを探す。


 これが意外と難しかったりするのだが、昔リューネがさらわれた時この感覚があった。


 そのおかげで意外と早く習得することが出来た。

 この力は人や物の捜索に長けている。


 一つ注意しなきゃ行けないのは、相手の魔力がこちらを反発していると捜索はできない。


 まぁ、ある程度の魔力量なら押し返せるが、俺で言えば師匠やアコイスさんと言った自分よりも多く魔力を持っている人や強い魔力を持っている人にはあまり有効ではない。


 逆に相手が望んでいればすぐに発見できる。


 ……この修行つけてくれてたのも師匠だったっけな。

 もう今更後に引けない。今は今のことだけ考えよう。


 ──────


「本当にありがとうございました」


「いえいえ。またなんかあったら探しますよ」


「わん!!! わん!!!」


「まぁぁん。愛しのケイピーちゅあん〜。おかえり♡」


「わ、わ、わ、わ、わん!!!!!」


 犬の感情も分かるようになってしまったのか?

 ……お疲れ様ですワンコさん。


「なぁそこの魔剣士! どうやってさっきの犬見つけたんだ!?」


 俺が帰ろうとしていると後ろから2人組の冒険者が近ずいてきた。


「えっと……」


 俺は適当に説明し帰ろうとした。

 ……だが、


「まじかよすっげぇな! 俺たちこの犬見つけられなくてあのおばさんにくっそ怒鳴られたんだよ!」


「本当に最悪だったよな! さっきの見た感じ逃げたのおばさんが悪そうなのに!」


「……はは、ははは!!!」


 俺は笑ってしまった。久しぶりに笑ってしまった。


「本当にそうだったよね。僕もそう思った」


「俺の名前はエップ。こいつはデウン。2人でパーティー組んでる剣士だよろしくな!」


「僕はグラリス。一応魔剣士やってるよ。2人ともいくつ?」


「俺たち最近11になったんだ。学校はいってねぇから2人で冒険者やってんだ」


 11!? 俺より年上……ん? この場合どっちだ?


「えっと……僕は8歳だよ。2人とも凄いね」


「え!?!? 8歳なのか!?!? その魔力量でか??? 俺たちなんてすごくねぇよ!! な!?」


「凄くなんかないし! グラリスめちゃくちゃ凄いよ!!」


 2人とも話し方似ててどっちがどっちか分からねぇ……

 でも、悪い人では無さそうだ。


「でさ、一つ提案があるんだけど……」


「僕にできることなら聞くけど……」


「俺たちのさ……パーティーに入ってくれよ!!」


 こうして俺は2人のパーティー、アップダウンのメンバーになった。

どうだったでしょうか!

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