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第30話 勇敢な少年

是非最後までお楽しみください!

「パーナー! もうやめて!」


 いじめっ子の前で両手を広げ叫んでいたのはブレイブだった。


 その叫びに反応しパーナーの尻尾はピタリと止まる。


 怯えるいじめっ子に対しブレイブは恐れることなくそこに立っている。


 グルルルル……


 パーナーはその叫びが届いたのか、はたまた疲れたのか分からないがみるみるうちに縮んで行き、元の小さな犬に戻って行った。


 縮んだパーナーの意識はなくパタンっと横になり倒れてしまった。


 彼はもう臆病者では無い。

 彼をいじめる3人の命の危機を救ったのは紛れもないいじめられっ子だ。


 なぜ助けたのか。そんなこと分からない。

 彼がこの状況で飛び出したのは彼自身が勇敢で優しい心を持っているからだ。


 さっきの彼に正解も不正解も無い。

 でも、確実に言えることは。

 彼の行動は限りなく大正解だ。


「……パーナー!」


 ブレイブは咄嗟に駆け寄り抱き寄せた。


「ごめんねパーナー……パーナー!」


 次は泣きながら叫ぶ。名前を呼ぶその声はもう昔の少年ではなかった。


 遠くには吹き飛ばされた師匠が倒れている。

 今すぐ行かなきゃ……


 クソっ! まだ身体が動かない。

 あーもう!! ほんとに情けねぇ……


 その時だった。


「い、今のうちに……あ、あの、ば、バカ犬……や、やっちまうぞ!」


 いじめっ子のリーダーがそう言い放った。

 まだ懲りないのかあいつは。両隣のヤツらも引いてるぞ。


 ……いや、待てよ。やばいやばいやばい!!!


 俺は動けない。目の前にはサッカーボール程の火の玉が出来上がっている。


 あんなの飛ばしたらパーナーだけじゃなくてブレイブすら丸焦げだぞ!


 命の恩人に何してんだよ!!

 てか動け! 俺! おい!!!!


「……し、しね!」


 いじめっ子のリーダーが火の玉を飛ばそうとしたその時だった。


「や め ろ」


 ビクン!!!


 ブレイブがそう言い放った。いつもより低く太い声で。


 な、何だこの感じ。身体が動かねぇ。

 魔力が足りないんじゃない。

 動けないんじゃなくて動かねぇ。


 ブレイブの声を聞いた瞬間火の玉もふわっと消え、全員がその場で固まった。


 ブレイブの方を見ると、とてつもない魔力が溢れ出し宙に舞う魔力にも干渉しているように見えた。


 これはなんだ。この覇気は。

 無属性魔法か? いやこんなこと俺に出来そうにない。


 そもそも属性魔法以外を放出するなんて考えたこともないしまず無理だ。


 ドサッ……


 その時ブレイブはパーナーを抱えながら倒れてしまった。

 それと同時に俺にかかった覇気はスーッと引いて行き、動けるようになった。


 やっぱりブレイブの力か……

 どんな力なんだ? 分からないことだらけだけど……今はそんな考えてる暇は無い。


 やっと歩けるようになった。みんなを安全なところに移動させないと。


 俺がブレイブとパーナーの場所に駆けつけた時にはもういじめっ子はいなくなっていた。


 ……よし。脈はある。

 師匠も気絶する前に常中治癒魔法を使っていたっぽく、傷もある程度は癒えていた。


 てかあの状況で常中治癒魔法って……やっぱすごいなこの人は。


 俺はまだ普通の治癒魔法しか使えない。しかも下級のだ。


 常中は常に回復状態でいられる治癒魔法だ。

 傷口が追加で攻撃されて開いてしまったら意味は無いらしいが今回みたいな状況だと命も救えるすごい魔法だ。


 ……俺も早く使えるようにならないとな。


 修行を始めてから魔術もろくに伸びてないし剣術もだ。

 魔術に関しては階級アップしたのは1つもない。

 剣術も前に言ったように伸びしろしかない。


 はぁ……今そんなこと考えても仕方ないか。


 俺は自分に少し治癒魔法をかけたあと、両肩にブレイブとパーナーと師匠を担ぎ、崖を後にした。


 ──────


「今回は本当に……本当にありがとうございました」


「いえいえ。僕も彼に助けられましたから」


 ブレイブをお母さんの元に送り届け2度目の挨拶をしていた。


 師匠はもうすっかり目を覚まし、外でパーナーの様子を見ていてくれているが、ブレイブはまだ眠っていた。


「えっと……それは……」


「彼はとっても勇敢な少年です。起きたらこう伝えといてください。君はすごい魔剣士になれる、と」


 俺はそう言ってブレイブの家を去った。

 パーナーに治癒魔法をかけてくれていた師匠に声をかけ、その場を後にする。


「……ワイ本当はちゃんと強いんじゃぞ……?」


「分かってますよ師匠。それよりパーナーが異常だっただけです」


 異常だ。本当に異常だった。

 でも俺は知っている。師匠が俺たちみんなが危なくならないように庇いながら戦っていたこと。


 必ず師匠の後ろに俺たちがいるようにしていたこと。


 吹き飛ばないように大きな魔法は使わなかったこと。


 だからこそ俺は師匠との差にまた気付かされてしまったんだ。


 あとはブレイブのあの魔力。とてつもないものを感じた。

 俺よりもすごいものを持っている。


 この気付きが俺と師匠との間に何かを産んでしまったのであった。


「グラリス。明日からまた修行再開じゃな」


「はい! 師匠!」

どうだったでしょうか!

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次回新章突入です!

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