汐莉の流血
「おっはよーございまぁす!」
汐莉だ。
「お前、その顔…!」
汐莉の顔を見て、俺は驚愕した。
「朝っぱらからうるさいわね」
「えへへ」
いたって普通なジュリア。
「えへへじゃねぇ!何普通に会話してんだ!…何があったんだよ?」
汐莉は、額からだらだらと血を流していた。よく見るとびしょ濡れだ。
「えー?ちょっと自転車とバイクと車とバスにぶつかっただけだよー?」
とぼけた答えを返す汐莉。
「だけって…、お前は馬鹿か!!」
「よく言われるー」
見ているだけでこちらが顔をしかめたくなるほど痛々しい。
「あー、あー!こっちくんな!お前その顔ホラーなんだよ!」
「あなた悪魔のくせに流血が怖いの?」
「こっ…、怖くねぇし!お前、なんで濡れてる?しかもなんで、そんなことがあったのに死んでないんだよ!」
ニコニコして髪が張り付いた額から血を流す少女。
茶色がかった髪から、水滴が一定のリズムを刻んで落ちる。
「なんか、海にいたんだけど、自転車と自動車が私目掛けて飛んできたから避けたの。ちょっとぶつかって吹き飛ばされたけどね。したら、巨大バスがきて…」
「まてまてまて、あり得ないだろその展開!どう考えても…」
「魔族ね。…手当てをするわ、いらっしゃい」
俺の言葉をジュリアが引き継ぐ。
おとなしくジュリアに傷を見せる汐莉。
「うん、みんなスッゴい形相で向かってくるから、びっくりしちゃったー。ああ、バスが来て、これは死ぬなって思ったら…。海から手がニューって出てきて助けてくれたの。」
こうした二人は、似ていないが仲の良い姉妹と言ってもおかしくはない。
…言っている内容はあり得ないことだが。
「水の手、ね…。あなた、魔力が見えるんだったかしら」
「うん」
「あなたに魔力はあるの?」
「全然。ほんと、びっくりするくらい空っぽなの。」
「………」
ふと思案するジュリア。
「あなたは、魔族に護られてるのかもしれない。」
「え?」
(どういうことだ?)