番外編・生誕祭3
私はその後どのように部屋へ戻ったか覚えていません。
ただ一つ覚えているのは、母の嬉しそうな泣き顔。
呆然としたまま部屋へ戻り、晩餐会までの短い休憩の間にアル兄様が会いに来てくれました。
「素晴らしかったよ。さすが私の妹だ」
アル兄様の顔はとても嬉しそうに輝いています。それを見て私の中にじわじわと実感が湧いてきました。
「私…きちんと出来ていましたか?」
「勿論だとも!想像以上だ!!これで誰もレイに疑いをかける奴は居ない」
「では…」
アル兄様は力強く頷いてから私をギュッと抱き締めてくれました。
「私の愛しいフレイア……本当に良く帰って来てくれた…」
温かな身体を抱き締め返し、私は何度も頷きます。
「君のお陰で母上も元気になられた……あんなに輝いている母上を見るのは久し振りだよ」
それに…と私の涙を拭いながら微笑みます。
「父上や私も、本当に心から幸せを感じている。やはりフレイアが居ないと駄目なんだ」
「私も……お父様にお母様……それから絶対アル兄様が居なければ駄目です」
アル兄様は嬉しそうに笑いながら再び私を抱き締めました。
「あぁ。そうだな!!」
そして何故か遠くを見つめて低く呟きました。
「…アレクセイめ……」
「え?」
「あ、いや……何でも無いんだ」
アル兄様は誤魔化すように笑うと、時間だからと言って部屋を出て行かれました。
アレクセイ様が何だったのでしょう?
…そう言えば何処にいらっしゃるのでしょうか?…式典が終われば逢いに来て下さると思ったのに…。
晩餐会は驚く程の人でひしめき合っていました。こんなに沢山の人…初めて見ます。
緊張と不安に襲われながらも、笑顔を貼り付け王族の席に座る私の元へ、代わる代わる何人もの方が挨拶に来られました。
その中には私に対して敵意や疑心のような感情を持たれている方もいましたが、多くの方は好意的に接して下さいました。
ダンスについては全くもって上達しなかった為、私は『身体が弱い為』踊らないと言う事にして頂いています。
これについては本当に良かったです。
なんせ先生に「私の実力では太刀打ち出来ません」と言わせた腕前ですからね!!私、すごい!!!…あれ?何ですかね?思い出したら目から汗が……。
そんなこんなで晩餐会も無事に終わり、私はクタクタになりながら部屋へと戻りました。
あぁ……このままベッドにダイブしたい…。
そんな私の気持ちをマルッと無視し、リリアンさん達がお風呂に入れて下さいました。
曰く「このまま寝られたら後で後悔されますよ?」との事です。
後悔って何に対してですかね?
ドレスにシワが出来るとか?
…それは困りますよね。だって高そうですから。
私は納得してお風呂で丹精込めて磨き上げられ(もっと手早く入って寝たかったのですが…)ようやくベッドに入れた時には睡魔に襲われフラフラになっていました。
「それでは、お休みなさいませ」
それに返事をする気力もないまま、私は本能に従って眠りに落ちていきました。
疲れた時程眠りが浅くなるとは本当ですね。
私はふと目が覚めました。
私は睡眠に関してはプロなのですが、やはり常になく神経が高ぶっているのでしょう。
外を見るとまだ薄暗く、夜が明けていないのが分かります。
…まだ寝られますよね…もう少しだけ……
自分に言い聞かせて寝返りを打った時、私の眠気はブッ飛びました。
だって……
そこには……
「すまん。起こしたか」
薄暗い中でも分かる黄金色の瞳。
まさか…でもそんな…
「…アレもががっ!!??」
「しっ。気付かれるだろうが」
アレクセイ様は私の口を素早く塞ぎ耳をそばだてます。そして何処か虚ろな瞳で呟かれました。
「こんな時間にここに居る事がバレたら殺される…」
私は驚きに目を見張りながらも静かにしますから!と目で訴えました。アレクセイ様が殺されては困ります!!
「どうされたのですか?」
ようやく手を離され、私は身体を起こして尋ねました。
「今人前で逢うのはマズイからな…しかしお前の顔を見たくてこんな時間に来てしまった」
顔を見たいと言われて喜びながらも、私は不思議に思いました。どうして人前で逢えないのでしょう?
「王女として認められかけたお前に他国の婚約者が居ます、などとは言えんだろう?」
「でも私は…っ!!」
「安心しろ。俺はお前を離す気はない」
言ってふわりと抱き締められます。
その瞬間、身体の力がスッと抜けました。……やはり私は緊張していたようです。
もしかしてアレクセイ様は精神を安定させる何かを醸し出されているのかもしれませんね。商売したら儲かるかも知れませんよ?
この腕に触れると安らぎますよ〜って。あ、でもそうしたら他の女性に触られると言う事に……それは嫌ですね。やっぱり却下です。
「ふっ…何か馬鹿な事を考えているな?」
私の顔を覗き込んでアレクセイ様が笑われます。馬鹿な事とは何ですか。婚約者の貞操の危機と言うものを心配しているのですよ。
そしてまた私の頭の中を読みましたね?
読心術反対です!!
「よしよし。分かったから……今日は良く頑張ったな」
アレクセイ様は子供にするように頭を撫でられます。私は子供じゃありません!…が、とても気持ち良いので受け入れます。もっと撫でて欲しいですが……うぅ…目が閉じてしまいます……。
「…しばらく逢えんから顔だけ見るつもりだったんだ…」
私はその言葉にパチリと目を開けると、アレクセイ様に詰め寄ります。
「逢えないって!!……何故?」
「俺はあちらで仕事があるからな」
アレクセイ様はどこでも魔術で飛べるじゃないですか!!それならばお仕事が終わってからでも……
「魔術での移動は可能だが、私的物の中に入るには許可を取らねばならないんだ」
「そう…なんですか?」
「でないと不法侵入しまくれるだろうが……基本的に人の土地には加護結界が張られているからな。無理に入ろうとすると魔術が跳ね返されて、良くて大怪我だ」
何と……そんな事があったのですね!!
「しかし公爵家で私を助けに来て下さった時はどうなのですか?」
「あれは国王陛下の許可を得ていたからな。俺が王宮内を自在に移動出来るのは全て陛下のお陰だ」
成る程……そんな仕組みがあったのですね。
では、やはりしばらく逢えないのですね……。
「だが、必ず逢いに行く」
そう言って項垂れる私を抱き締めて下さいます。
「お前も落ち着いたらこちらに会いに来てくれ」
「はい。必ず」
そうして私の額に軽くキスを落とし、アレクセイ様は身体を離されました。
途端にふわふわとした眠気に襲われます。
ま…だ……寝たく、ありません…。
必死に瞼をこじ開けて耐える私の頭を撫でると、アレクセイ様は小さく呟かれました。
「お休みフレイア。良い夢を………やはりお前は良い匂いがするな」
沈む意識の中で、私は強く三人の女神様にお礼を言ったのでした。
ここまでが生誕祭編でした。
私は基本的に夜勤のノリで書くので今回も誤字脱字が激しくあるかもしれません……。
お気に入り登録が沢山あって泣きそうですT^T
本当にありがとうございます!!