番外編・生誕祭2
「皆、私の為に集まってくれて感謝する。余は果報者だ」
割れんばかりの拍手と喝采を受け、父が堂々と国民の皆さんに語りかけます。
「私はこれからもこの国の為に力を尽くし、皆に慕われる王である事を誓う」
隣に控える母やアル兄様も笑顔でその様子を眺めています。
あぁ……もうすぐ、です。
「今日は皆に話があるのだ。亡くなったとしていた第一王女フレイアだが、実はフレイアは亡くなってはおらん」
途端に周囲が静まり返り、徐々にざわめきが大きくなります。
「病が余りにも重かった故に静かな場所で療養させていた。皆を偽っていた事、この場を借りてお詫びする」
そして父は私を振り返ります。
「紹介する。我が娘、フレイアだ」
私は腕輪を一つ撫でてから深呼吸し、教えられた通りに歩き出します。
大丈夫。落ち着いて…。
無事に父の隣まで辿り着くと、家族の温かい視線を感じました。
そう。私は一人じゃない……。
どよめく皆さんを見下ろして、私は大きく息を吸い込みます。
「クシャナ王国第一王女、フレイアと申します。皆様にはわたくしからもこの場を借りてお詫び致し」
「嘘だ!!王女様は亡くなられたんだ!!」
「王は騙されている!!」
「フレイア様を語るなんて酷いわ!!」
一斉に響く罵声や悲鳴。
私は後ろへ下がりかけました。
恐い……どうしよう……。
ふと、その背中に当てられた、温かい手。
見上げると父が私を見つめ、一つ頷きました。
左腕にある腕輪が優しい温もりを発します。
『頑張れ。お前なら出来る』
そう、言われた気がしました。
…そうだ。私は逃げちゃいけない。
私は背筋を伸ばすと声を張り上げました。
「皆様が疑心を抱かれる事は当然だと思っております。しかしわたくしは正真正銘フレイア・アデル・クシャナ・イライアスなのです。本日その事を皆様に納得して頂く為に、わたくしはその証拠をお見せします」
一つ深呼吸をしてから空を仰ぎます。
どうか……私に力を貸して…。
私は目を閉じて優しく頬を撫でる風を感じました。
そしてゆっくりと歌い出します。
懐かしい、あの旋律を。
ーー「おおきいおばぁたま、そのうたはなぁに?」
「これは精霊に捧げる歓びの歌よ」
「???」
「レイも大きくなったら歌ってごらん。きっと精霊達が遊びに来てくれるから」ーー
そう教えてくれたのは私の曽祖母でした。
幼かった私には分からなかったけど、今なら分かります。
この歌は奇跡を起こす。
歌の最後に私は願いを込めて言葉を紡ぎます。
「我は願うー皆の心に平穏をー」
怒り狂っていた皆さんが息を飲まれたのが分かります。
「我は願うー皆が幸せであれとー」
皆さんの顔に徐々に笑顔が浮かびます。
「我は皆を慈しみ、愛します」
両手を広げて言い終えると、広間に優しい風が吹き荒れ何処からか一斉に花弁が舞い散りました。
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、耳が割れんばかりの歓声が沸き起こりました。
ポカンとする私の耳に皆さんの声が届きます。
「フレイア様!!」
「癒しの姫君!!」
「生きておられたのね!!」
「奇跡の姫!!」
どの顔も笑顔で満ちており、私に手を振って下さいます。
私……私は……
「手を振って応えてあげなさい」
父が嬉しそうに言い、私は皆さんに手を振ります。
すると更に広がる歓声。
「これで君は『フレイア・アデル・クシャナ・イライアス』だ。……お帰り、フレイア」