番外編・生誕祭
あっという間に二ヶ月が過ぎ、ついに生誕祭の日がやって来てしまいました。
長いようで短かった…。
なんせ私は貴族や王族の教育なんてほぼ無いに等しい庶民ですし、何より魔術に至っては幼い頃の記憶を頼りにした……勘…ですから。
魔術の先生はその話を聞いて「はぁぁっ!?」と淑女らしからぬ返事をされていました。なんでも、魔術は繊細なものなので一歩間違えば術が跳ね返って死ぬ事もあるとか。
……それを早く言って下さいよ婚約者様。私ってばじゃんじゃん使いまくってたじゃないですか…。
「きちんと学んでいたのだと思っていた」なんて、馬鹿言ってんじゃないですよ!!こんな波乱万丈な私がどこで魔術の勉強出来るんですか!?そう言う所頭悪いですよね!!??
あー…まぁ、そんな感じで私の二ヶ月は『取り敢えず詰め込んどけ!』な日々でした。
もちろん家族との触れ合いも欠かしません。…と言うよりも欠かしたら泣き付かれそうです。特に父と兄に…。
アレクセイ様とは週に一度お逢いしています。その時は大体アル兄様と一緒なのですが、それでも私は逢える事が嬉しいので構いません。…本音を言えば毎日でも逢いたいのですがそんな訳にもいかず。
…少し寂しいです。
「お時間ですわ」
「さぁ、綺麗にして皆様を驚かせて差し上げましょう!」
「……(コクリ)」
私の身の回りのお世話をして下さっていたリリアンさん達がこちらに来て引き続き私の侍女をして下さっています。
三人はご自分から志願して下さったとの事。とても身に余る光栄です!!
今日はクシャナ王国の国色である紫を身に付けて生誕祭に挑みます。
薄い紫のシンプルなドレスは母が選んでくれました。私の実り薄い……いえ、すらりとした身体が目立たない仕様に母の愛を感じますね。
髪を半分だけ結い上げ、最後に顔を隠すベールを被って完成です。
いざ、出陣ですよ!!
私の出番は本日の主役である父がバルコニーに立ち、国民の皆さんへの挨拶の時に私を披露する時までありません。
その時に一体皆さんがどんな反応をされるのか…とても…不安です。
生誕祭のパレードをしていた父達がもうすぐ王宮へと到着するそうです。
私はソワソワと室内を歩き回っておりました。あぁ…緊張で吐きそうです。
もう何度目かの溜息を零した時、扉がノックされました。
も、もう出番ですかね!?
私は慌てて姿勢を正します。頑張れ!頑張れ私!!
しかし入って来られたのは伝令の方ではなくアレクセイ様でした。
私を見て目を細められると、ゆっくりと側までやって来られます。
「緊張しているようだな」
「は、はい……」
逢いたかった顔を見て思わず泣きそうになる私の様子を見て、アレクセイ様は優しく微笑まれました。
「大丈夫だ。お前ならやり遂げられる」
そう言ってベールを少し持ち上げると、私の瞳を覗き込まれました。
「綺麗だ……このまま攫ってしまいたいくらいに」
瞬間、私の顔に熱が集まります。き、綺麗って言わ……さ、攫うだなんてっ!!
「フレイア……」
「は…い…」
「愛しているよ」
ぬぁぁぁっ!!??駄目です!!その笑顔は犯罪です!!!それで愛してるだなんて言われたら鼻血モノです!!え?出てますか!?だ、大丈夫ですよね!?
私が一人アワアワしている様子を楽しそうに眺め、アレクセイ様は私の左腕に光る腕輪をひと撫でされます。
「俺も側にいる。だから大丈夫だ」
そうでした。
アレクセイ様が居て下さるのだから何も心配する事は無いのですよね。
私が少し落ち着いたのを見てアレクセイ様は少し考える素振りをされました。どうされたのでしょうか?
「これは……別に許されると思う。そうだな。最後までするのが駄目なのであって……」
何やらブツブツと呟かれていますが……大丈夫ですかね?
アレクセイ様?と言おうとした私の声は彼の中に吸い込まれて行きました。
あの東屋で口付けられた時と同じ、しかしそれ以上の熱を感じます。
「んっ……」
苦しくなって口を開けた私にさらに深く口付けられます。心臓が先程とは違う動悸を訴え、体の奥がざわつきます。
「ア…レク……んんっ」
「フレイア…」
囁く声もいつもとは違って擦れていて、何とも言えない色気を醸し出されています。
頭の芯が痺れたようになってアレクセイ様の事しか考えられなくなります。
もはや身体を支えて貰っていなければ立っていられなくなった時、チュッと音を立てて唇が離れました。
「アレ…ク、セイ…様…」
肩で息をしながら見上げると、とても満足そうな瞳が私を捉えました。
「落ち着いただろう?」
アレクセイ様はそう言ってもう一度軽くキスを落とすと、上機嫌で部屋を出て行かれました。
……落ち着けるかぁぁぁぁっ!!!
私の頭が通常に回転し出したのは、化粧や身繕いを直されバルコニーに向かっている時でした。