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番外編・両親との再会3

久し振りに訪れた母の部屋は、幼い頃そのままでした。

「懐かしい……」

思わず零した言葉に微笑みながら、机の上の小箱を示します。

「これは…?」

開いてみると、そこには色褪せた紙や小さな花冠が入っていました。

「あなたが私にくれた物よ。…私の宝物」

愛おしそうにそれを撫で、私を抱き締めます。

「この日が来るのを待っていたの。私は信じていた……あなたをこの腕に抱ける…事…をっ…」

囁く声は涙に掠れていました。私も母を抱き締め返します。

「お母様……」


思う存分抱きしめ合い、涙を流した後は二人で沢山のお喋りをしました。

母は私の手を握り、私の話を聞いてくれます。

「そうだわ!!あなたに見せたいものがあるの!!」

少女の様に顔を輝かせ、私の手を引き部屋を出ます。一体何でしょう?


「ここよ!」

連れて来られたのは私が使っていた懐かしい部屋の前。母がウキウキと私の背中を押して入るように促します。


「ふわぁ……!!!」


私の口から感嘆の声が漏れました。

そこは私が使っていた部屋なのですが、内装が全く変わっていたのです。

私が住んでいた頃には少女用の装飾品が置いてあったのですが、お気に入りだった机や鏡などはそのままに、他は年頃の女性が住まう部屋へと変貌を遂げていたのです。

「気に入ってくれると良いのだけど…」

自信なさ気に呟く母を振り返り、私は満面の笑みで答えました。

「とっても素敵!!」

母はホッとした表情で私を見て、それから嬉しそうに部屋の中を案内してくれました。


『あなたに会える事を信じていました』


その言葉通り、母は私が生きていると信じて部屋を整えてくれていたのでしょう。

私はとても幸せな気持ちで母の言葉を聞いていました。






母は私に次々とドレスを着せては脱がし、脱がしては着せてを繰り返しました。

その際「想像ではもっと実っていたのだけど…」とか「思ったよりも背が高くなったのね」などブツブツ呟いていました。何が実っていないのかは聞きません。絶対に。



ようやく私のドレスが決まり、晩餐の席で男性陣を待っていたのですが………来ません。

不思議に思っていると、男性が申し訳なさそうな表情で現れました。

「陛下及び殿下、アレクセイ様は……その…酔っ払われているためこちらには来られないとの事です」

それを聞いて目を剥いたのは私だけ。母はクスクスと笑いながら「やっぱりね」と呟いていました。やっぱりって、分かってたのですか?

「『大事な娘の婿が来たら酒で潰してやる!』ってあなたが産まれた時に言っていたのよ。多分アルフレッドも巻き添えにして三人で潰し合っちゃったのね」

産まれた時から決めていたのですか!?お酒に酔わす事を!?

お父様って一体……。

「さ、あんな人達は放っておいて私達はご飯を食べましょう。明日からはやらなきゃいけない事が沢山あるんだから」

そう言って母はお上品にモリモリと食事を始めたのでした。











翌日。すっかり二日酔いの父とは対照的に、アレクセイ様とアル兄様は涼しい顔で朝食の席に着かれていました。

「クソッ……何でお前達は平気なのだ…」

「あらあら。年には勝てないって事かしら?」

母が楽しそうに笑って言います。

「とにかく気が済んで良かったわ。これからが大変なんですから」

「昨日も仰ってましたけど…何があるのですか?」

「あなたは幼い頃に亡くなった……と言うのは嘘で、実は療養していたと言う事にするの」

「そんな事が可能なのですか!?」

アル兄様が身を乗り出して聞かれます。

「そんな大声を出すな………まぁ色々と騒ぎ立てる輩もいるだろうな」

父の言葉に頷きなから母が続けます。

「でもあなたには周囲を納得させるだけの力がある」

そうでしょう?と笑いかけられ、私は首を傾げました。私には力なんて……

「そうか!!癒しの力だな!!」

「アル…頼むから声を抑えてくれ……」

「その通りよ。癒しの力は王家血筋に伝わる王族の証……。不本意だろうけどそれを盾に周りを納得させるの。…難しいかもしれないけど、あなたなら出来るわ」

「それならばフレイアの力は間違いないな!!」

「うぅ…アルフレッド…」

「しかし妃殿下…どのようにその力を示すのですか?」

「お母様と呼んで頂戴アレク。それは私に考えがあるの。もうすぐ陛下の生誕祭があるのだけど、そこでフレイアのお披露目をするのよ」

「民衆から味方につけるのですね!!!」

「うぅぅ……」

呻く父を無視して話は進みます。

私にそんな大役が務まるのでしょうか……。

「お前なら大丈夫だ」

柔らかく微笑まれるアレクセイ様。

「私達も手助けする」

力強く頷くアル兄様。

「必ず成功するわ」

私を信じて言い切る母。

「私も付いているからね」

温かく見守ってくれる父。



私は一人じゃない。皆が支えてくれている。

ならば私も全力を尽くさねばなりませんね!

「頑張ります!!!」

「ぐうぅ…レイ……」

父の涙声に皆が笑い合う。

そんな風に幸せな時間は過ぎて行きました。

読んで頂いてありがとうございます!

リクエストでも頂いた再会編でした。

これから生誕祭編を書く予定です。

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