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番外編・オリビア

沢山の方々に読んで頂けてとても嬉しいです。本当にありがとうございます!!

番外編もよろしくお願いします(*^_^*)


私はとある辺境伯の娘として産まれた。母は幼い頃に死別しており、家族は父と兄が二人。厳しい父には幼い頃から怒られていた記憶しかない。


魔力値が高くかったが使用する事が出来ない有り触れた娘、それが私だ。

特出すべきは父に言われて幼い頃から習っていた護身術が少々護身術レベルを超えていると言う事位か。


そんな私に縁談話が来たのは13歳の時。相手は男爵家の嫡男で30歳の男性だった。

貴族の世界でこれ位の年の差なんて当たり前。むしろまだ良い方だとすぐに婚約が決まったが、相手の男性は途轍もなく女癖の悪い方だった。


初めての顔合わせの日、それは起こった。

「私には貴方の子供が居るのよ!!」と数人の女性が徒党を組んで相手方の家に押し寄せて来たのだ。

これには私の父も激怒し、婚約は破棄。


そして紆余曲折を経て再び婚約が成立しかけたのが14歳の時。今度は公爵家の嫡男で20歳。

父もこの方なら、と吟味の末に決めたらしいが、相手は「好きな人がいるんだ!」と言って恋人と家を飛び出し私の婚約はなかった事となった。


これで完璧に私の名誉とやらが傷付いてしまったようで、困った末に父は私を王宮へ行儀見習いと言う名の厄介払いをする事にした様だ。



「私も行くわ!!」


そう言ったのは一つ歳上である従姉妹のリリアンだった。

何故?と問うと怒ったように言ったのだ。

「私がそうしたいからよ!!」






「貴女って可哀想ね」

王宮の侍女達が言う。

それに私はこう答えた。

「言われたから、従ったまで」



別に私自身は何とも思っていない。父に言われたから婚約もしたし、破棄も了承した。そこに私の意思は必要ない。その事に何の疑問も感じる事もない。





特に何の変化も無く三年が過ぎたある日、私はある女性の侍女兼護衛に抜擢された。

今までも他の方の侍女を勤めた事はあったが、その全ての方々は私達侍女の事など道具としか思っていなかった。

きっとまた同じなのだろうと、そう思っていた。

しかしそれもまた仕方のない事。

私は命じられた事をこなすだけ。

そう教えられてきた。




ベル様は変わっていた。


どれだけ特別な待遇を受けようと、どれだけ豪華なドレスを召されようといつも申し訳なさそうな表情をされている。

そればかりか常に私達に感謝の気持ちを伝え、気遣って下さる。



それはベル様の出自も関係しているのかもしれない。元は公爵家の使用人のような事をされていたらしい。

しかし人は大概にして与えられた地位にあぐらをかくもの。それが例え分不相応なものだとしても、“慣れ”てしまう生き物なのだから。


『ありがとうございます』

『私は大丈夫なので休んで下さいね』

『大丈夫ですか?』


柔らかく細められる瞳には私達への気遣いが溢れているのが分かる。

それはどれだけ時が経とうと変わらない。




ある日の事。

嫉妬に狂った令嬢がベル様に殴りかかるという暴挙に出た。

私はすぐさまベル様を庇い令嬢を取り押さえた。何の訓練も受けていない女性をいなすなど簡単な事。

当然ベル様に怪我は無かった。

勿論私にも。

ベル様の護衛は私の仕事の一つ。彼女を守るのは当然の事だ。

しかしベル様は私の手を取るとその瞳に涙を浮かべて問うたのだ。

『大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?』

私は思わず彼女を見つめ返した。私はただ、仕事をしただけなのに。

ベル様は私の状態を確認し、大事ない事を知るとホッとした表情を見せた後悲しそうに言った。

『怪我をするような事はしないで下さい…何かあったらと思うと……』


何故そのような事を言われるのかは分からない。私は言われた通り彼女を守ったのだから。しかしベル様は私が怪我をするのは嫌だと言う。

その瞳に嘘は見られなかった。

何故かそれを見ていると言い様のない気持ちとなった。






その翌日。

少し薄着で窓辺に座るベル様に上着を手渡す。すると少し驚いた顔をして、それから無邪気に笑われた。

『オリビアさんは凄いですね!!ちょうど寒くなってきたなって思ってたのでびっくりしました』

丁寧に書かれた文字を見て、顔を上げると薄紫の瞳が嬉しそうに輝いていた。

『ありがとうございます!!』



「喜んで頂けて嬉しい…です…」



言葉にした瞬間、私の中でストンと納得がいった。




そうか…

私はベル様が喜ぶと嬉しいのか…。

そして悲しい顔を見るのが嫌なのだ。




ならば次は何をして喜ばせてあげようか。

花など飾ったらまた笑ってくれるだろうか。

派手な物より可憐な物の方が好むかも知れない。



「楽しそうね」

リリアンが嬉しそうに言った。

「あなたのそんな顔、初めて見たわ」

私の顔?…何か変だろうか。

「変じゃないの。とても素敵よ?自分の意思で動いてくれる事が嬉しいわ」

私の意思?…私は……

「その花…誰かに言われた訳では無いのでしょう?」


私は手元を見る。

確かにこれは私が自分で庭師に頼んで切ってもらったのだ。「華美でないものを」と言い添えて。


「オリビアの人生はオリビアのもの。誰かが作れるものじゃないわ。私はそれをあなたに知って欲しかった……自分で選び、進んでくれる事を望んでいたの」

そう言ってリリアンは笑った。彼女は目付きがキツイが、笑うととても愛らしい。

「良く……分からない」

「それでも良いの。あなたが誰かに何かをしたいって思う気持ちが大切なのよ」

リリアンはそれだけ言うと部屋を出て行った。



誰かに何かをする……

自分で選び、進む…



それは今まで考えもしない事だった。自分は作られた道を歩んで行くべきだと思っていた。それは間違いだったのか……




人の気配がして振り返ると、ベル様が起きて来られていた。

『わぁ〜!!!』

声なき歓声を上げて私の元へ走り寄る。

『これ、オリビアさんが!?』

「はい…」

『すっごく可愛いです!!ありがとうございます!!』

ベル様はそう言って無邪気に微笑んだ。あぁ…喜んでもらえたようだ。

…次は何をしようか。

美味しいお菓子などはどうだろう。




思わず口元が綻んでしまい、恥ずかしくて顔を背けた先にリリアンがいた。


彼女はとても嬉しそうに微笑んでいた。




自分で選び、進むと言う意味はまだ分からないが、誰かの為に何かをしてあげたいと思う気持ちは理解出来たと思う。




私はこれから少しずつ変わっていくのかもしれない…

そんな予感を感じながら、小さな花を見る女性を眺めていたのだった。

オリビアとリリアンがフレイアに感謝している理由を載せてみました。

本編では書けなかったので。

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