閑話・アルフレッド3
妹探しは秘密裏に行った。
父が公言しないと言うことは、何か様々な思惑が隠されているのだろうと思ったのだ。
しかし父にはお見通しで、時折こう聞かれる事があった。
「宝物は見つかりそうかい?」
そんな時私は決まってこう答える。
「宝の地図が難解すぎて今の私には解けないのです」
すると父もこう答える。
「私の宝もなかなか見つからなくて困っているよ」
そうして何の進展もなく時だけが過ぎて行った。
レイの乳母だったアーニャはあの森の川で遺体で発見された。彼女は自身で命を絶っていたようだった。
あの身代わりの少女については何も分かっていない。恐らく何処かの墓場が荒らされたか、もしくは孤児を殺害したか…
どちらにせよあの少女が犠牲になった事に変わりは無い。私は彼女の墓に花を供えることを欠かしてはいない。
時折先客が来ている様子だが、恐らく父上と母上だろう。
そこにレイの好きだった花を決して見ないのは二人が娘の生存を確信している証拠だと言える。
運命が大きく動き出したのは、この国に来ていたリュークの一言。
「今度は僕の国に遊びに来なよ。君の捜し物が見つかるかもしれないよ?」
「何か情報でもあるのか!?」
「まだ確証は掴めてないけど、多分間違いないと思う。僕の国から君の国に流れがあるんだ」
人身売買。
それは卑劣極まりない行為だとして禁じられている。しかしそれは一向になくなりはしないのだ。
あの時も貴族の子女が誘拐される事件が多発しており、妹もその被害者だと言われていたのだ。
何か掴めるかもしれない…。
そんな思いで行ったウェルネス王国で私はある少女に出会った。
涙と鼻水でグチャグチャな顔は、何処となく妹を思い起こさせた。
話していてクルクルと動く表情も似ている気がする。
しかし外見は殆ど似ていない。
なのに感じる不思議な庇護欲。
これは一体何だろう。
彼女は記憶が無いと言った。
ならば可能性があるのでは!!そんな思いも手伝ってついつい構い過ぎてしまう。
とても優しく、控え目なところが好ましい。
状況を読んで我慢はするが、しっかりと己を持っているところが素晴らしいと思う。
彼女が妹であれば…。
失われた記憶に私の事が有りはしないのか!?
「記憶を知ってどうするの?何か変わる?」
変わる事?
そんなものはない。
私は彼女が好きだ。
妹だろうが妹で無かろうが変わらず兄で在りたいと思う。
それで良い。そう、思っていた。
『こちらは全て片付いたよ。君だけ仲間外れにしたお詫びを用意して待ってるね』
リュークから手紙があった。密偵からある程度は聞いていたが、最後におまけとばかりに書かれていた文字に目を剥いた。
『そうそう、ベルなんだけどね〜。実はあの後倒れていたんだけどやっと目が覚めたよ』
「元気にしてると言っていただろうがぁっ!!!」
私は勢い良く手紙を破り捨て、急いでウェルネス王国へ向かう。
久しぶりに会った彼女は元気そうだった。
しかしふと彼女の瞳を見た瞬間、身体中に衝撃が走った。
藍色の……瞳…。
まさか、まさかそんな…
言葉の出ない私に告げられた告白。
あぁ……神様…!!!
ありがとうございます!!
ありがとうございます!!!!
私は何度も神に感謝の言葉を述べ、国にいる両親に想いを馳せた。
父上……母上…やっと、やっと私達の宝物が見つかりました!!
…見つけた時には可愛くない婚約者付きだとは思わなかったけどな。