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閑話・アルフレッド2

暴力表現があります。

「離宮からの報せです!!賊が侵入したとの事であります!!!」


その言葉を、私は父の執務室で父と共に耳にした。

「何だと!?状況は!?兵はどうした!!」

「はっ!!ただ今向かっているところであります!!」

「早馬を!!私が行く!!!」

「しかし陛下っ!!」

「僕も行きます!!」

父は一瞬迷ったようだったが、私が同行する事を許してくれた。






離宮は悲惨な有様だった。

そこかしこに兵や賊が倒れており、血の臭いが充満している。

私と父は騎士を伴い急いでフレイアの元へ向かう。そこもまた凄惨な状態だった。あちこちから賊が出てきてはそれを容赦無く斬り捨てる。隠れていた女官達が泣き付いて来るが、それどころではない。私達は彼女を救いに来たのだ!!



「フレイア!!!」

父が勢い良くその扉を開ける。

そこは私が半日前に出たまま、荒らされた様子は無かった。

しかし部屋中に立ち籠めるこの臭いは……


思わず立ち止まった私を置いて父が寝室へと走る。そうだ…こうしてはいられない。フレイアは……

「来るな!!アルフレッド!!!」

父の声を耳にした時には、私は寝室へ飛び込んだ後だった。




ーーむせ返る程の血の臭い。

部屋中に散らばる、赤。赤。赤…。

ベッドの上に横たわる、一際赤いーー


ヒュッ、と喉の奥で音がした。


嘘だ…

違う…これはフレイアではない!!

こんな…こんな事……


「ロキ…アルフレッドを別室へ」


父の命で近衛隊長が動いた。それで私は呪縛が解けたようにベッドへ走り寄った。

「アルフレッド!!」

父の制止の声を無視し、小さな亡骸に手を伸ばそうとして……ゆっくりと下ろした。


残虐の限りを尽くされたその身体は本人と特定するのは困難に思われた。それ程ボロボロにされていた。


私はがくりと床に膝をつき自身の拳で床を殴り続ける。

「僕のせいだ…!!」

「アル…」

「約束したんだ…守るって…なのにっ!!」

「アル…止めなさい」

「僕がっ!!側にっ!!!居たのにぃっ!!!」

「止めろと言っている!!」

父が私を抱き締めた。その大きな腕は小さく震えていた。

「止めろ……自分を責めるな…」

「父上……」

父はもう一度強く私を抱き締めると、スッと立ち上がった。その顔には統治者としての威厳が戻っていた。

「兵を配置し残盗を狩れ。周囲の森も徹底的に探して捕まえろ!出来るだけ殺すな。それからロキ!アーニャを探せ!!」

「御意!」


その会話を呆然と聞いていたが、不意に剥き出しの妹が気になった。このままでは余りにも可哀想だ。

側まで行って自身の上着を掛けてやる。

「……っぅっ!!」

溢れ出る涙をそのままにして、私はひたすら泣き続けたのだった。






葬儀はしめやかに行われた。

何故か身内だけの簡単な式典。

母は泣かなかった。父に支えられてしっかりと立つ姿は悲しくも美しかった。


棺の中には真っ白の布を掛けられた小さな亡骸。損傷が激し過ぎて顔を見る事も出来ない

ゆっくり側に寄って比較的綺麗だった右手を取る。

「レイ……約束を守れなくてごめんよ…」

その右手にキスをしようとした時だ。その違和感を感じたのは。

妹の手はこんなだっただろうか。

もっと華奢で…色ももう少し白かった…。

余りにまじまじと見つめる私を不審に思ってか、父が側に立った。

「どうしたのだ?」

「ち…父上……この子は……」


「言うな」


その一言で全てを悟った。

やはりこの子はレイではない。

妹は生きているのだ!!!

しかし公言してはいけない何かがあるのだ…。

(待っててフレイア!!必ず僕が見つけ出してあげるから!!)








この日から、私の妹探しが始まった。


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