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アレクセイ様とのお話に、と指定されたのは以前にも訪れた事のある庭の東屋でした。
可憐な花々が咲き誇る姿を見渡せる特等席で私を待つ、広い背中。
「アレクセイ様」
呼び掛けるとゆっくりこちらを振り返られます。
「あぁ…来たか」
呼び掛けて、応えて貰う。なんだかそれだけで胸がドキドキしてしまいますよ。
「お待たせして申し訳ありません」
「いや……少し、この景色を見ていた…」
その瞳は、とても優しくて…哀しい……
『僕と、アレクとレーヨン…途中からアルも一緒だった』
リューク様の言葉が頭を過ぎります。
あぁ……そうですよね…。
私は自然とアレクセイ様の手を握り締めていました。
アレクセイ様は少し驚いた顔をされましたが、何も言わずにまた景色を眺めておられます。
どの位そうしていたでしょうか。アレクセイ様は私の手を引いてベンチに腰掛けられました。
「体調は?」
「もうすっかり元気になりました。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「いや、元気になったのなら良かった」
「アレクセイ様こそどうなのですか?」
「俺は翌日には戻っていた。本当にありがとう」
「『元気になったのなら良かった』ですよ」
二人で軽く笑い合い、それからまた風の音に耳を澄ませます。
とても穏やかで優しい時間。
「穏やかだな……とても。あんな事があったなんて信じられない位に」
アレクセイ様は優しく微笑むと私に向き直られました。
「お前が俺の隣に居る。…これが幸せなのだと今なら分かる」
そう言って床に跪くと、私の手に優しく自身を重ねられます。
「…俺と結婚して欲しい」
私は出せる筈の言葉も無くしてただ呆然と黄金色の瞳を見つめ返していました。
「お前がベルでもフレイアでも関係ない。俺は今、目の前にいるお前を愛している。ずっと俺の隣にいて欲しい」
私は今日、アレクセイ様に私の気持ちを伝えようと思っていました。
たくさん、言いたい事があったのです。
たくさん、聞いて頂こうと思っていたのです。
なのに今、私はただひたすらに頷くのが精一杯なのです。
言え!!言うのだ私!!私の気持ちをお伝えするのよ!!!
「…はいっ……!!」
やっと絞り出した声はただ一言だけでした。
ちゃんと言わなければと焦る私の頬に両手を当てて、アレクセイ様が嬉しそうに言われました。
「大丈夫だ。お前の気持ちは伝わっている」
その言葉で溢れ出した涙を拭いながらクスクス笑われます。
「お前は言わなくても分かる」
どうしてですか?言わなければちゃんと相手には伝わらないのですよ。
「その、瞳だ。お前のその瞳は口よりも雄弁に物事を語る」
そうして私の目元に優しく口付けられます。
驚いて涙が止まった私の反対の目尻にも。
「しかし時にはお前の口から聞きたいとは思うがな」
そして小さく開いたままの唇にも触れるだけのキスが落とされました。
「フレイア…愛している」
言って、もう一度。
今度は少し長く口付けられ、私は頭の中が痺れるような感覚を覚えていました。
「私も…愛して、います。アレクセイさ…んむぅっ」
最後の言葉はアレクセイ様の口の中に消えて行きました。強く抱き寄せられ、息も出来ないほど激しく口付けられます。
酸素を求めて開いた口の中にアレクセイ様の舌が入って来ます。混乱と羞恥に身を硬くする私の中を十分に堪能すると、少し残念そうに私を解放されました。
力が抜けてくたりとアレクセイ様に寄り掛かる私を膝に乗せ、真っ赤になっているであろう頬にキスをされます。
「残念だが続きはまたな。お邪魔虫が来た」
お邪魔……虫?そんな虫居ましたっけ??
回らない頭でぼんやりと考えていましたが、その正体はすぐに判明しました。