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あの事件から私が目覚めるまでに、何と一ヶ月も経っていたそうです。
ナンテコッタイ!!ですよ。
私はアレクセイ様達と話した後、また二日程眠っていたそうです。(リューク様が「アレクが医師を殺しそうで恐かった」と仰っていました)
その後は全くの健康体となり、私はピンピンしております。
筋力の低下とかありそうですけど、そんなものは全くありません。どちらかと言えば普段以上に元気なのです。
これも魔力が戻ったからでしょうか?
魔力と言えば、大変な変化があったのです!
な、なんと!!
目覚めた時私の薄紫だった瞳の色が藍色に変わっていたのです!!
それがどうしたと言うなかれ。
実は魔力保持者は瞳に力の大きさが現れるらしく、力が強大な程その色味は濃くなるのだそうです。
アレクセイ様やマティルダ様はとても強い力を持っていると言う事ですね。
もちろん私が寝ている間に全ての処理は終わっていました。なんせ一ヶ月ですもんね…。
彼らの動機についてですが、
主犯レーヨンは「王位簒奪を企てていた」
ルシアンは「アレクセイを殺したかった」
キャサリンは「リューク様を私の物に」
セイラムは「私利私欲の為」そして「ベル・アドリアーノを殺す為」
らしいです。
レーヨンは幼い頃から自分はリューク様の影で、日の当たる場所に出たかったのだと語ったそうです。彼はルシアンを引き込み、魔力の高かったキャサリンの力を取り込んであの暴挙に出たと言うのが事の真相でした。
彼を信じていたお二人の心境を思うと胸が苦しくなります…。
リューク様は努めて明るくされていますが、恐らく一番傷付いていらっしゃる事と思います。
私が彼らに下した裁きとは、“彼らの一切の魔力を滅し、以後二度と力を得られないようにする”と言うものです。
彼らは今、とても不安定な存在になっているのだと耳にしました。
魔力は生命の源。多かれ少なかれ人の中に流れているものなので、全てが無くなるとあやふやな輪郭しか残らないそうなのです。
少し自分の判断が厳し過ぎるかもしれないと言われるかもしれませんが、彼らがした事は大勢の命を危ぶむ大罪です。幸い皆さん無事でしたが、一歩間違うと廃人になっていたかもしれないのです。
ですのでこれは間違った裁きではありません。
「フレイア様、お顔の色が優れませんわ。大丈夫ですか?」
アリアさんがお茶を出しながら心配そうに仰いました。
「大丈夫です。少し考え事をしていただけです」
微笑んで言うとアリアさんは無理なさらないで下さいませ、と言って離れて行かれました。
アリアさんはあれからすぐに元気になられ、また私の側に居て下さいます。
なんと彼女は最初の舞踏会辺りからレーヨン達に操られていたらしく、どんどん記憶が曖昧になる自身に恐怖を覚えながら過ごされていたとか。…気付けなくてごめんなさい。本当に、苦しい思いをさせてしまいました。
いつかの夜に見た殴られていた女性はアリアさんだったのですね…。
曖昧な記憶が増える中、誰かを傷付けてしまう事があればと恐ろしく感じてご自分の意思で部屋に閉じ篭っていたと語って下さいました。
あの夜の事は全く覚えていないと言われていました。…その方が良いと思います。
何があったか聞かれましたが私もあまり覚えていないと伝えています。なんせリアルホラーでしたから、意図せずその加害者になってしまったアリアさんが知る必要はないと思うのですよ。
あ、そうでした。
実はお城の皆さんの中にはあの日意識が残っていた方が何人かいらっしゃったそうで…。
突然吹き荒れた風と、自身の術が解けた感覚から「誰がやったんだ!?」って話になったらしく。
事件後、瞳の色が変わってしまった私を「癒し姫の再来」だとか言っているらしいです。
もちろん噂で留まってはいるのですが、やはり影で噂されるのは居心地は良くないですよね。まぁ、以前から悪く言われていた事に比べるとマシですかね。
あ、そう言えば嫌がらせがピタリと収まりました!!
中には「操られていたんですぅ」と豪語した方も居たそうですが(私に殴りかかって来た女性らしいです)、どうも皆さんから恐がられているような気もしますね。
私、そんな小さな事では仕返ししたりしませんよ?
え?大きな事ならですか?そうですね…大切な人達を傷付けられるような事になればもちろん何倍にもして返してやりますとも!!
これは忘れてはいけませんね。
アドリアーノ公爵家ですが、奥様はあまりの事に体調を崩され療養中だそうです。
そして、なんと!!
あのアルト様が公爵位を継いで御当主となられたのです!
もちろんアルト様はまだ幼いので、なんと後見人にリューク様がついて下さり、領地管理は執事さんが中心となりアルト様を支えて下さっているとの事。
きっと素晴らしい領主様になられる事でしょう。
私のこれからの事ですが……
…まだ未定です。
宙ぶらりんのぶらんぶらん状態ですよ。
なんせ祖国の私は死んだ事になっていて、今はベルとして生きているのです。
しかし私の力が目覚めた事で“ただのベル”としては生きて行けなくなってしまいました。
後悔はしていません。だってあの時私が何の力も持っていなければアレクセイ様達は亡くなっていたかもしれません。そんなのは絶対に嫌です!
リューク様はアルフレッド様にこちらへ戻る様にと連絡をしたと仰っていました。
アルフレッド様……
私のお兄様。
会いたい。
でも会うのが恐い。
アルフレッド様は私の事を「妹の様だ」と仰って下さっていましたが、もしアルフレッド様の描く“本物の”妹像と違っていたら……
あぁ、ダメダメ。弱気はいけません!!
私は何時でも何処でも「幸せ」を見つけられる、そんな女性になるのです!!
レッツ前向き!!
そうですよ!もし拒絶されたとしても私は私ですからね!!他人を演じる事は出来ませんので、アルフレッド様には諦めて頂きましょう!!
「フレイア様、そろそろお時間です」
リリアンさんに促され私は部屋を出る支度をします。
実は、これからアレクセイ様とお話をする約束がありまして…。
あぁ……緊張し過ぎて胃がよじれそうです。
でも、女は度胸!!果物屋のポーラさんが言っていました。
「いざという時程男は頼りにならないものなのさ。その点女は度胸がある。なんせ男共を産むのも女なんだからね!!」
はいっ!!そうですね!!!私、頑張ります!!
自分の言葉で、しっかりと気持ちをお伝えして来ますよ!!