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暴力表現があります。
来る日も来る日も殴られ、蹴られる毎日。
お腹が空いても最低限の食事しか与えてもらえず過ごす。
「この役立たず!」
「お前なんか拾わなければ良かった!!」
「また吐いたの!?ホントに余計な手間ばかり掛けさせる子ね!!!」
毎日毎日罵倒される日々。
私はどうしてここに居るのかな…
どうしてあの人達は私を殴るの?
「お前が話せていたらこんな事にはならなかったんだよ!!ニセモノの役立たず!!」
話したら、殴らないでくれるのかな……
ー約束して下さいー
あぁ…そうだ。
私はアーニャと約束した。
いつも笑っていて時々怒りはしたけど、涙なんか見せなかったアーニャが泣いていたのだ。
約束……
守らないと…
私は、話しては、いけない。
そのうち、私を閉じ込めていた部屋に鍵が掛けられていない事が多くなった。
きっと弱りきった私は逃げ出す事など出来ないと思っていたのだろう。
ある晴れた日、私は力を振り絞って汚い小屋から飛び出した。
そこは何処かの街のようだった。
振り返って誰も追って来ない事を確認すると、足を引きずって歩き出した。
周囲の大人は私を見ると、皆顔をしかめて離れて行く。恐らく何日も同じ服で、何日も風呂に入れてないから大変な悪臭を放っているのだろう。
幼い私はそれが分からず、人を見つける度に近寄って行った。
「わっ!?何だ汚い奴だな!!」
「コッチ来ないでよ!!」
何人もの大人に罵られ、私は諦めて裏路地の隅に座り込んだ。
どうして私は皆に嫌われるの?
どうして誰も助けてくれないの?
私、話してないのにどうして殴られるの!?
アル兄さま……母様…父様…アーニャ…
みんな…みんな私の事なんか、要らないってなっちゃったの!?
ねぇ、どうして!?
悲壮・空腹・孤独……
言い知れぬ虚無感が私を襲い、私は自身を抱き締めた。
こんな恐ろしい事、夢だったら良いのに…。
夢だったら…
そう。…夢。
目を閉じて、起きたら全部が無かった事になってるの。
私は怖かった事、全部忘れて無かった事になってるの。
全部、無かった事に………
私に起こった事は私の事じゃないの。
私はレイじゃない。
私は私じゃないの。
私じゃない………
そうして目が覚めた時、私は私の事を忘れていたのだった。
ー話してはいけないー
その言葉通り、言葉を失って。