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暴力表現があります。

「この娘は殺すなと言っただろうが!!」


そこに立っていたのは、宰相補佐のレーヨン様でした。


「レーヨン…」

隊長様の悲痛な声を無視し、レーヨン様は冷めた目でルシアン様を見下ろします。

「契約違反だ。この娘は生かして利用すると言ったはずだ」

「それはこちらの台詞だ!!この女とアレクセイを殺せると言うから協力したんだ!!」

「お前の復讐などどうでも良い。私はこの女を殺すなと言ったはずだ」

そう言って右手を上げた途端、ルシアン様がくたりと動かなくなってしまいました。


「何故…お前が……それにその瞳…」

レーヨン様の瞳は金色に輝いており、まるで猫のような瞳孔をされていました。これは一体…。

レーヨン様は馬鹿にしたように隊長様を見て、それからニッコリ笑います。

「他者の魔力を吸い取るとこうなるらしいな。お前と同じ色だと思うと虫唾が走るが…この際我慢するさ」

「禁忌を犯したのか!?一体何故……」

「私が首謀者だからだろう?何を当然の事を言っているんだ。主従共々救いようがないな」

「まさか……リュークをどうした!?」


「リューク様はここにいるわ」


その声に私は目を見張りました。何故お嬢様がここに…。

「ふふっ、やっと私達は一つになれるの。長かったわ……皆邪魔ばかり。あら?お前…何故生きているの?」

お嬢様は私を射殺さんばかりに睨み付けられます。一体…どうして…

「リューク!!」

隊長様の声にハッとしてお嬢様の背後に目をやると、そこには背中から血を流し血の気の無いリューク様が虚ろな目をしたバームさんに抱えられていました。

『リューク様!!??』

まさか……まさか、死んで…!?

「リュークは気絶しているだけだ。この女が譲る力の対価に欲しいと言うのでな」

「レーヨン!!お前は何が目的でこんな事をしたんだ!!!」

隊長様は棘が刺さるのも構わずに暴れられます。周囲に鉄の匂いが充満して来ました。

『隊長様!!動いてはいけません!!』

「答えろレーヨン!!」

隊長様の身体に深々と棘が刺さります。

「目的?そんなもの力が欲しいからに決まっているだろうが。…力を持つお前らには到底分からんだろうがな」


「ぐぁぁぁぁぁ!!!」


お前は昔から目障りだったな、と言った瞬間に隊長様が苦しみ出されました。

『隊長様!!!』

「苦しいか?クククッ…」

今や穏やかで優しいレーヨン様の面影は無く、隊長様を見つめる瞳は狂気に満ちていました。

『やめて下さい!!レーヨン様!!!』

何故こんな事を……

隊長様!!

私は動かない身体を叱咤してズルズルと這う様に隊長様の元へ向かいます。

『隊長様ぁ!!』



「鬱陶しいわね!!」

背中を踏み付けられ、ヒールが突き刺さります。

『あぁっ!!』

「いつまでも目障りな女!!マスター!!もう殺しても良いでしょう!?」

「駄目だ。その女は使い道がある」

「こんな女に使い道などある筈がありません!!」

「それは私が決める事。…この女は私が王位に就く為に必要な力を持っている」

「王に…?でもリューク様は…」

レーヨン様は恍惚の表情で自身の手を握り締めます。

「私は力を手に入れた。とても素晴らしい力だ!!これさえあれば何でも出来る!!クククッ……しかしまだ足りん!!まだ力が欲しい!!!その女を取り込み初めて完璧な私になるのだ!!」

レーヨン様は冷たい瞳でお嬢様を見やります。

「…お前もルシアンも用済みだ」

「マスター!?」

「この娘が居ればお前らなど必要ない」

「そんなっ!!私は今までマスターの手足となって動いていました!!それなのに!!」

「目的の男は手に入れただろう?その為に様々な男を受け入れ媚を売ったようだがな。まぁ、私には関係のない事…」

「新しい国で王になるのはリューク様でしょう!?そしてその妻は私!!そうしてくれると言っていたのに!!」

「そんなもの約束した覚えはない。王は私。そしてその伴侶にその娘を添える」

「……っ!!!また……この女ばかりが得をするのねっ!!!…許せない!!!」

お嬢様はヒステリックに叫んで足に力を込めました。

『いやっ!!痛いっ!!!』

「う…ベ、ル…」

隊長様はもがきながらも私の元へと這って来ようとされます。

その度に舞う血飛沫……

このままでは死んでしまう!!!

『止めて!!来ないで!!!』


「ククククッ…なかなか面白い余興だな。…そうだ、お前…あの男を殺せ」

「何故ですか?」

「アレクセイが死ねばこの女の苦しむ顔が見られるぞ?」

「それなら喜んで!!」

お嬢様は弾んだ声で言うと、私から離れて隊長様の元へ向かわれます。

『いやぁぁ!!!止めてっ!!!!』

「ふふふっ、その顔…堪らないわ」

うっとりと呟くと、取り出した短剣を足に突き立てました。

「う…ぐぅ…っ!!」

『隊長様っ!!隊長様ぁっ!!!もう止めて!!お願いっ……殺すなら私にして…』

涙を流して懇願する私を嬉しそうに見ると、お嬢様は更に何箇所も短剣を突き立てるのです。

「もっと……もっとよ!!」

取り憑かれたように髪を振り乱して叫ぶ姿は、まるでこの世の者とは思えない狂気に溢れています。

『止めて止めて止めてぇっ!!!』





「………」




ついに隊長様がぐったりと動かなくなりました。



そんな……

そんな…

嫌。

嫌だ……

こんなの…嘘、だ……





「やだ、ドレスが汚れちゃったじゃない」

そう言って胸元からハンカチを取り出し、ニヤリと笑って私を見る、女。



「なかなか悲惨な最期だったぞ、アレクセイ」

拍手をする、男。








許さない。







許せる筈がない。







こんなの……







「許さない!!」

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