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「そうか…相手も本気だね。今動けるのは?」
「魔力の強い者は抗っているかもしれんが…それも数人だろう」
「確認出来る?」
「先程から行っているが相手の魔術が邪魔をしていて無理だな。…どうも複数の魔力が練り込まれているようだ」
「バーム達はどうなってるの?」
「全く感知出来ん。しかしリリアンは眠らされ、アリアは操られていた」
それを聞いてリューク様が舌打ちされます。こんなに苛立ちを見せられるリューク様は初めてです……。
「もう少し経ってからかと思ったんだけど…相手はどうも気が短いらしいね。……術を跳ね返せそう?」
「難しい。無理に返せば術をかけられた者の命が危ない」
「禁忌の術を使ったのか………本当に腹が立つ連中だ」
リューク様は疲れた様に眉間を解されました。その様子からも緊張感が伝わり息を飲みます。
リューク様はそんな私を気遣ってか、いつもの笑みを浮かべると大袈裟に天を仰がれます。
「でも僕は操れなかったみたいだね。流石の相手もこの僕の優秀さに完敗したのかな?」
「優秀な奴が眠らされるのか?」
「完璧な男は女性に人気がないんだよ?そんな事も知らないからアレクはダメなんだ」
「別に機嫌取りに興味は無い」
「ほら!その言い方も良くないよ?その顔でそんな言い方されたら女性は恐がるって教えてあげたでしょ?」
「今は関係ないだろうが!」
二人のいつものようなやり取りに私の肩の力が少し抜けました。
自然と微笑む私に優しい瞳を向けてからリューク様が仰いました。
「ところで、どうしてベルは大丈夫だったの?アレクは怪我までしてるのに」
リューク様は突然話を振られて挙動不審になる私を見ながら続けられます。
「僕はこう見えて魔力だけならそこそこ強いんだ。ただ全く使えないけどね。今回はそのお陰でこうして起きていられる。でも……ベルはどうして?」
どうしてと言われても、私には何が何だかサッパリ分かりませんよ。私も気が付いたらリアルホラーな世界に突入していたのですから。
私は首を傾げながらも、ある事を思い付きます。そうですよ!!隊長様に貰った腕輪ですよ!!!
ね?そうですよね?隊長様?
自信満々に見上げる私の顔を見て、隊長様が可哀想な子を見る目で小さく溜息を吐かれました。…え?…何故ですか??
「それはお前の位置を知るための発信機の様な物だ。最初にそう言っただろう?」
そんな事も覚えてないのか、と言いたげな瞳を避け、床を見つめながら記憶を掘り起こします。
あれは…
確か……
初めての舞踏会の後でした。
隊長様が抜けない腕輪を下さって…
それで…
“これでいつでもお前に会える”
あ…そうでしたよ。
それしか言われていませんでしたね…。
でもそれで機能を察しろなんて無茶ですよ。
私はてっきりこの腕輪から何か光線のようなモノが出たり、身を守る盾のような役割を果たしてくれるのだと…。
え〜…。
ビーム、出ないのですか……。
人知れず残念がる私を無視し、お二人は話を進めて行きます。
「アリアに追いかけられていたが…」
「それなら余計にベル自身にも術をかけて連れ去る方が効率が良いと思うけど」
「追い詰めていたぶって…恐怖に歪む顔を見るのが趣味なんじゃないか?そんな奴も居るだろう」
『そうなのですか!?』
隊長様の言葉に驚きを隠せない私は思わず隊長様の袖口を掴みます。まさかそんな人が居るなんて!!!
「安心しろ。俺はお前の泣き顔は好きだが痛め付けるのは趣味じゃない」
ニヤリと笑う隊長様からパッと離れます。
『泣き顔が好きだなんて安心出来ませんよ!?』
「そうかそうか、そんなに嬉しいか」
『そんな事は一言も言ってません!!』
「本当に、そうなのかな?」
私が必死の攻防を繰り広げる中、その呟きは誰の耳にも入らなかったのでした。