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いよいよその時がやって来ました。
私の長年の謎だった、失われた記憶。それが解き明かされようとしています。
私の部屋には隊長様、リューク様、アルフレッド様、リリアンさん、オリビアさんが居ます。
そしてもう一人。この方が私の記憶を蘇らせて下さる方らしいのですが、その…何と言うか……見た目がとても魔女みたいなお婆さんです。
名前をマティルダ様と仰るこの方は、とても有名な魔術師様で、隊長様のお師匠様でもあるらしいのです。
「アンタがベルだね?」
見た目に似合わず綺麗な声で…おっと、失礼ですね。私をご覧になります。その瞳は隊長様と同じ黄金色でとても美しいです。
『はい。どうぞよろしくお願いします』
「よろしい。ではこれを飲んで気を楽にしな」
そう言って渡されたのは良い匂いのするハーブティー。私はそれを飲んで深呼吸しました。
「今からアンタに暗示をかけるよ。嫌な事も思い出すだろうがそれは全て過去の事。何も心配する事はないからね」
「目を閉じて…私の声だけ聞いて深呼吸だ。…そう…ゆっくり……そうだ……私の声を聞いて……」
言葉の合間に紡がれる不思議な旋律は、聞いていると…とても……眠たく、なって……来ます………
『目を開けて…』
言われて目を開けると、そこは何もない真っ暗闇。
ここは…どこ?
『そこはアンタの昔住んでた孤児院だよ』
あぁ、そうだ。ここは孤児院。早く起きないとシスター・フィーに怒られる。
『ドアを開けて…』
支度をしてドアを開けると、再び何もない暗闇。
シスター・フィー!?どこにいるの!?
恐いよ!!助けて!!
『落ち着いて周りを見てごらん』
周り?周りに何があるの?
『さぁ、ゆっくり見回すんだ……』
徐々に景色が移り変わる。
きたない小さな部屋。
いつもここは薄暗くて、昼なのか夜なのか分からないの。
お腹空いた……喉渇いた……
あぁ…もうすぐあの二人が帰って来るよ。
また私はたたかれる。
『誰に殴られるんだい?』
知らない人達。
私はこの二人を知らないの。
『何故、知らない?』
連れて来られたの。
『何処から?』
私のお家から。
『どうして?』
知らないよ。
突然入って来て、私はーーーーと逃げたの。
なのにーーーーは居なくなって、私は一人になっちゃった。
『それから?』
ーーーーは言ったの。
私に言って泣いたの。
だから約束、守らなきゃなの。
『約束?』
私は絶対に話しちゃダメだよって。
『何故?』
お母様も取り合いになるからって。
だからダメなの。
『何が取り合いになるんだい?』
お菓子だよ。
甘いお菓子がね、取り合いになるからって。
ねぇ、お母様はどこ?
ーーーーは、どこ?
ーーーーーは、どこ?
ねぇ、どこ行ったの?
なんでーーはひとりぼっちなの?
助けに行くよって、言ってくれたのに!!!
ねぇ、なんで!?
ーーーーーは!?
ーーー!!
ーーー!!
目を開けると、身体中がとても怠くて動かせそうにありませんでした。
マティルダ様は私の頭を優しく撫でると、今度は違うお茶を出して下さいます。
「飲みな」
『ありがとうございます…』
それすら億劫な私にリリアンさんが飲ませて下さいました。
『ありがとうございます…それで、どうでした?』
「まぁ大体は読めたが…アンタもなかなかに手強いねぇ。とにかくゆっくり休むといいさ」
その言葉の途中で、私の瞼が重くなってしまいます。
『記憶…は…』
「起きてからだよ。ゆっくりお休み」
そう言って優しく頭を撫でられた所で私の意識は途絶えました。