4
申し遅れました。
私の名前はベル・アドリアーノと申します。ちなみに花も恥じらう16歳です。お嬢様とは違い、出るとこ出てない貧そ…いえ、控え目な身体つきをしております。
ちなみにまだまだ発展途上です。諦めませんよ。
顔は平ぼ…いえいえ、平均的だと思ってます。きっと。恐らく。見る人が見れば。
私の唯一の自慢は、腰まである少し波打つ銀色の髪に薄い紫の瞳。これは周囲に少数しかおられませんので、なかなかにチャームポイントだと思います。ですが、少数はおられますので特筆したものでもありませんけどね。
そんな私は周囲に埋没するのが特技です。気配を消しているわけではありませんが、とにかく埋没出来ます。
それで何だと言わないで下さい。埋没出来てしまうだけです。
私が他者と違う点をあげるのならば、私の生い立ちでしょうか。
私が4歳の時、教会に隣接する孤児院に保護されました。ちなみに年齢はシスター・フィー達が相談し、これ位であろうと決定されたそうです。
その時の私はひどく衰弱しており、助からないかもと言われていたそうです。しかし私の生命力は凄まじく、ぐんぐん回復していったのでした。
回復していく私に対し、シスター達は私に様々な事を尋ねたそうです。ところが私は記憶を全てなくしており、まるで産まれたての赤ん坊のような状態だったのだとか。
シスター達は私をベルと名付け、根気良く私を育てて下さいました。大きな赤ん坊を教育するのは並大抵の事ではなかったでしょう。本当に感謝してもし足りません。
徐々に覚えた事が増えていくなか、シスター達はある異変に気付いたそうです。
それは、私が言葉を発しないという事。
いくら記憶を無くしているからと言っても「あー」とか「うー」等の発語は可能なはず。しかし私にはそれが一切なく、シスター達は確信しました。
私は、話す事が出来ない、と。
それから現在まで、私は声を発する事が出来ていません。
シスター・フィーは「神の“みわざ”です」と仰っていました。本当ですかね?なら、一体何のために私は記憶も声も無くしたんでしょうか。サッパリ分かりません。
まぁ、考えても仕方ありませんよね。
話が逸れましたが、そんなこんなでシスター達に教育された私は、7歳の時に転機が訪れました。
当時お子様がいらっしゃらなかったアドリアーノ公爵夫妻の養子にと望まれたのです。
喜ぶシスター達に見送られ、私はただのベルからベル・アドリアーノへとなりました。
ここまでなら良かったのですが、世の中って上手くいかないものですよね。
私を引き取ってすぐ、元々身体が弱かった公爵夫人が亡くなられてしまい、失意の公爵様が出会われたのが現在の奥様のヴィクトリカ様です。
彼女には連れ子がいらっしゃり、それが私の一つ年上のキャサリン様。
公爵夫人が亡くなられてから沈む屋敷が一気に賑やかになり、更に奥様が公爵様とのお子様のアルト様を身篭られ、これで幸せな時を重ねるかと思われたのですが、ある日突然公爵様が亡くなられてしまったのです。
公爵様が我が息子を見る事も叶わず召されてしまわれた後、公爵家は奥様の物となりました。
「貴女はこの公爵家とは全く関係ないわ。話も出来ない出来損ないを置いておくなんて不本意だけど、私はとても優しいから追い出したりはしない。その代わり、貴女はこれからこの私達に仕えるのよ」
公爵様の葬儀の晩、奥様がそう仰りました。
正直シスター・フィー達の元へ帰りたかったのですが、そうもいきませんよね。
こうして私は9歳から現在までを、この公爵家の使用人として過ごして来たのです。
ほらね?こんな生い立ちの子なんて、なかなかないでしょう?
しかし私は特に自分を不幸だとは思っていません。負け惜しみだとかではありません。それは断言できますよ。
何故なら、幸いにも私の周りは優しい方で溢れていたからです。
昔から公爵家に勤める執事さんを中心とする使用人の方々。
義弟のアルト様。
街の方々。
彼らは私に対してとても良くして下さいます。
奥様に無理難題を押し付けられようとも、お嬢様に貶められようとも、彼らのおかげで乗り越えて来られたのです。
本当に、感謝です。
『幸せに『してもらう』のではなく、『なる』のです。貴女の思いで世界は変わります……』
本当ですね、シスター・フィー。
私は今、とても幸せですよ。