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「おはようございます」
リリアンさんの声に目を開けました。ふぁぁ〜、良く寝ました。
悩み過ぎて不眠?そんな事経験した事ないですよ。寝ようと思ったら速攻で意識失えます。ちなみに床でも椅子でもどんと来いです。
『おはようございます。遅くなってすいません』
「いいえ。たまには起こして差し上げたいと思っていたので嬉しいですよ」
私はいつも起こされる前に起きています。…と言うより、身に付いた習慣で早く起きるだけなのですが。
今日は午前中にリューク様の執務室へと伺わねばならないそうです。
昨日の今日なので、何か進展があったのかもしれませんね。
リリアンさんとオリビアさんに護衛の騎士様お二人を伴って尋ねると、そこにはレーヨン様だけがいらっしゃいました。
「リューク様はもう少しで参られますので」
申し訳なさそうにそう言ってお茶を出して下さいます。昨日も思いましたが、レーヨン様の淹れて下さるお茶は美味しいです。あ、もちろんリリアンさん達のお茶も美味しいですよ。
まったりとお茶を頂いていると、アルフレッド様が顔を出されました。
「おはよう。よく寝られたかな?…顔色は良いようだが」
『はい。お陰さまで良く休みました。アルフレッド様はお疲れの様ですが…大丈夫ですか?』
「あぁ…少しバタバタしていてね。突然だが明日発つ事になったんだ」
『明日ですか!?』
「まだこちらでの事も片付いていないが、至急私の国へ持ちかえらねばならない事が出来てな」
そう言って私の頭を撫でられます。
「ベルと離れるのは寂しいが…またすぐに会いに来るよ」
アルフレッド様は優しく微笑まれます。
そんな……会えなくなるなんて…
また私を置いていくなんて…
『ヤダ。行っちゃわないで』
思わず口を突いた言葉に驚いて口を塞ぎます。今…私は何を…。
アルフレッド様は聞き取れなかったのか「ん?」と首を傾げて私を覗き込まれました。
『いえ…お身体に気を付けて…』
「ありがとう。ベルも、くれぐれも一人にならないように」
『…はい』
その後は二人で他愛もない話をし、リューク様が来られると入れ違いに戻って行かれました。
「アルと何の話をしていたの?」
リューク様がにこやかに問われました。
『明日…こちらを発つと…』
「あぁ、そうなんだよ。急だよねぇ?」
「寂しい?」と首を傾げて仰います。
『はい……とても…』
項垂れる私を無言で見つめられていたリューク様は、突然人払いをされました。部屋には私とリューク様の二人だけです。
「ねぇ、ベル?僕はベルに聞きたい事があるんだ」
『…なんでしょう?』
「ベルの失われた記憶……それ、思い出してみない?」
一瞬何を言われたのか分からずポカンとする私に、リューク様が再度問われます。
「君が忘れた事、それを思い出す気はない?」