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私達が向かった先はリューク様の執務室でした。
部屋の主は私達を見た途端に椅子から転げ落ちそうになられました。側に控えていらしたひょろりとした男性…レーヨン様も同じ様な反応をされています。え?どうしたのですか?
「ア、アレクぅ?き、君…いつの間にそんな…」
「信じられない…」
二人の視線が私の右手に向かっているのに気付き、私もそちらを見ます。
あわはぁっ!?ここまで繋いだままでしたぁ!?なっ!!なんて恥ずかしい事を…だから騎士さん達が驚いた顔で私を見ていたんですねっ!!??
慌てて右手を離そうとしましたが、隊長様は逆に力を入れて握られます。しっ、しかも指を絡められましたぁっ!!ここここれは俗に言う恋人がやる繋ぎ方では!?はっ、はっ、離して下さいぃっ!
グギギっと力を込める私を見下ろし、隊長様は涼しい顔で仰います。
「離れたく無いのだろう?」
そうですがそうではないのですぅ!!
物理的な話ではないのですって!!
焦る私の手を引いてソファーに座ると(もちろん手は繋いだままですよ!!)リューク様に頷かれました。
「全て聞いたんだね?…セイラムの事も?」
リューク様はこの状態を無視する事に決めたらしいです。レーヨン様はお茶を入れて下さっていますが、不自然に私達の手元を見ないようにされているのが分かります。うぅ…恥ずかしい。
「それはまだだ」
「そう…じゃぁ僕から話すよ。実はセイラムにまた逃げられてしまったんだ。ほんっと、情けない話だよねぇ?今アルと僕の密偵が捜してる。だからもう少しだけ我慢してね。それと、奴は君を狙って来る可能性が高い」
リューク様はそこで一旦言葉を切って紅茶を飲んでから面白そうに言われます。
「まぁ、君には強い番犬が着いてるから安心だね」
「誰が犬だ…」
『あのっ!!』
「どうした?」
『あの…っと、ですね…その前に手を離して下さい』
でないとお話しが出来ませんので…
「このままでも分かる」
目を見開いて抗議する私を無視してギュッと力を込められます。そんなぁ……
私は諦めて口を開きました。
これだけは聞いておきたかったのです。
『アマーリエ様は…』
私の言葉にリューク様が頷かれます。
「あの方に目立った外傷はないよ。とても元気に過ごされている」
良かったです…。でもそれにしてはリューク様のお顔が優れません。
隊長様を見上げると、無表情に答えられました。
「彼女は自分を子供だと思っている。ファーガスを親類の叔父だと思い、自身の兄である国王を父親だと認識しているようだ」
『…っ!!』
それでは隊長様の事も分からないと言う事ですか!?自分の愛する人が分からないだなんて悲しすぎます!!
…それに隊長様も……
繋いだ手に思わず力が入ります。隊長様は優しく握り返して下さいました。
「救いはファーガスが何もしていなかった事かな…奴も子供返りしている人に手を出せなかったか…もしくは神仏化していたかのどちらかだね。とにかく、叔母様には休息と治療が必要だね。…大丈夫。そのうちきっと思い出すよ」
そう言ってリューク様はすっかり冷めてしまったお茶を飲んでから続けられます。
「それより問題はセイラムと、未だに掴めない魔術師君をどうするか…だよねぇ」
「動きは?」
「全くないよ。もうすぐアルもこちらへ来ると思うけど…望み薄かな」
そう言えばアルフレッド様の姿がありませんでしたね。本日の主役様をすっかり忘れていましたよ。
「アルフレッドは彼女の治療と事情聴取を行って貰っている」
『治療…ですか?』
「あいつの魔力は少し特殊でな。人の精神を癒す事が出来るんだ。…本人曰く気休め程度らしいがな」
「クシャナ王家は代々治癒術に優れた人物が産まれる確率が高いんだよ。それが何故かは分からないけどね。どの様な面での治癒が出来るかも個々によって違うらしいよ」
二人の言葉に成る程、と頷きます。アルフレッド様に頭を撫でられた時に安心感のようなものがあったのは、癒しの力があったからだったのですね。
「特に女性は力が強い人が多いらしくて、昨年亡くなられた先々代の王妃に関しては歴史上最も優れた“癒しの姫”として名が残されているんだよ」
癒しの姫様ですか…その方がご健在だったならアマーリエ様を癒して差し上げて欲しいと頼めたんですけど…残念です。
「あぁ、来たみたいだよ」
リューク様の言葉と同時に扉がノックされました。凄いです…何故分かったのでしょうか。