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閑話・アレクセイ8

少し暴力表現があります。

ウェルネス王国の第四子であり第三王女のアマーリエは生まれつき膨大な魔力をその身に宿していた。

しかしそれを具現化する事は出来ず、ただ魔力を有していると言うだけであった。それは別段珍しい事ではなく、アマーリエの様な人物は数多く存在している。



アマーリエは降嫁し、男児を出産する事となった。その子供は類い稀な魔力保持者であり、魔術を具現化する才に溢れていた。

別にそれも珍しい事ではない。魔力保持者の子は同じくその力を受け継ぐ確率が高いのは周知の事実。

しかしその事に執着を見せた男が居たのだ。



ファーガス・ブロー男爵。



この男はアマーリエに対して恋心と呼ぶには醜い妄執を抱いており、常々アマーリエを降嫁して欲しいと訴え出ていた。貿易で国を支え、尽くして来た自分に美しい王女を、と。

さらにファーガスは魔力に対し並々ならぬ憧れを抱いていた。強大な力があれば爵位も上げられると考えていたのだ。

しかしアマーリエが選んだのは自身の幼馴染であり侯爵のジョシュア・バートンだった。



先代の国王はアマーリエがジョシュアに恋慕しているのを知っており、愛娘に好きな男と添い遂げて欲しいという思いがあってこその婚姻だったのだが、ファーガスはこれを認めなかった。



「私が男爵位だからなのか!!この愚王め!」


「おのれジョシュア・バートン……私からアマーリエを奪いおって…」


「待っていてくれアマーリエ…私が助け出してやるからな!!」




己が気付かぬうちに精神を蝕む毒。

それは確実に男を喰らっていった。



















それはいつもと変わらない静かな夜半の出来事だった。

屋敷の住人は皆寝入っているか、それ以外の者は仕事をしていた。


最初に異変に気付いたのは今年14歳になるアマーリエの息子、アレクセイだった。

(何かおかしい……一体何が…)

身体を起こしかけて、再び寝具へ倒れ込む。

「な…ん…?」

身体に力が入らないのだ。それどころか声を出す事も危うい。これでは魔術を使う事が出来ない。

(何が起こってるんだ!?…それにこの大勢の気配は…)

不吉な予感に胸が押し潰されそうになりながら、アレクセイは父母の寝室へと這って行った。



そこには床に倒れて真っ赤になった父と、その血を全身に浴びて呆然と座り込む母の姿があった。

「ち…うえ……は、は…う……」

必死に側へ寄ろうとする彼の背に衝撃が走り、顔面から床に倒れ込んだ。

「…ぐっ!!」

「力があってもこうなったらただのガキだな」

「おい、そいつはあまり傷付けるなよ」

「わぁってるよ」

男に縛られ、担ぎ上げられた。抵抗しようにも身体は動きそうにもなかった。

(父上!!母上!!)

それでも必死に目で父母を見やる。

父はピクリとも動かず、母は虚ろな目をして虚空を見ていた。



それが、アレクセイが父母を見た最後の姿だった。





その後屋敷は火が放たれ全焼。


後日、侯爵夫婦及び中に残っていた者達は残らず死亡したと王室は発表した。




一方、連れ去られたアレクセイや他の使用人は王宮の騎士達によって助けられた。しかしその際犯人全員が自害してしまうというミスを犯す。

その為、犯行の詳細は不明のままである。




数週間後、犯人は近隣国で貴族の屋敷に侵入し強盗・誘拐・殺人等を犯している犯罪集団だろうと結論付けられた。


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