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リューク様の執務室で一週間後に迫った舞踏会の警護についてお話があった後、私は与えられた自室へ向かっておりました。
ちなみに移動中の私は騎士様二人にリリアンさんとオリビアさんの大所帯となっております。本当に恐縮です。
部屋へ戻るとアリアさんが血相を変えて泣き崩れておられました。ど、どうされたのですか!?
「どうしたの!?」
リリアンさんが直ぐ様駈け寄られます。オリビアさんと一人の騎士様は奥の部屋を確認しに行かれます。
「べ…ベル様のお茶菓子を…ちゅ…厨房に取りに行っ……て…戻りましたら…ひっく…うぇぇん…」
嗚咽交じりに話される姿が痛々しいです。一体何があったのでしょうか?
「ド…ドレスがぁ…」
騎士様の一人が青い顔をして戻って来られました。
「ドレスが引き裂かれております…」
「何ですって!?」
リリアンさんは急いで後ろに控える騎士様を振り返られました。それを見て黒髪で長身の男性が頷かれ、青い顔をした騎士様に「報告を」と短く命じられます。
「了解しました!!」
騎士様は目にも留まらぬ速さで駆け出して行かれ、黒髪の騎士様……確かバームさんが仰います。
「申し訳ございません。暫しこちらでお待ち下さい」
私は大丈夫です!それよりもアリアさんが……
「何故部屋を無人にしたの!?」
「ひっ……も、申し訳…ございませっ…」
「謝って済む問題ではないわ!!もしかしたら犯人が貴女を傷付けていたかもしれないし、ベル様の身にも危険が及んでいたかもしれないのよ!?そんな事になったら貴女の命では責任を取れないわ!!」
険しい顔をしたリリアンさんがアリアさんを怒鳴りつけ、オリビアさんは恐ろしい程の無表情でそれを眺めておられます。
ま、待って下さい!!
アリアさんも私も大丈夫だったんですから、そんなに責めないで下さい!!悪いのは犯人です!!!
慌てて間に入ろうとした私の腕をバームさんが掴まれます。
「ベル様…どんな理由にせよこれはアリア殿のミスです。彼女は罰を受けねばなりません。…赦しは時に罪に匹敵します」
『罰って……そんな……私のせいで…』
「貴女の責任ではありません。これは定められた事なのです」
でも……だって…アリアさんは私の為に…
「バームの言う通りだよ。人は誰しも責任を果たさねばならないものだからね」
リューク様の静かな声に振り返ると、見た事がない程険しい顔のリューク様と眉間にシワを寄せて何か考える風の隊長様がおられました。
『リューク様…』
「ベル、とにかく別の部屋へ。君はベルの護衛を数人呼んで来て。バームとオリビアは周囲の確認。それからアレクセイとリリアンはベルの側に着いていてあげて。アリアはここで事情の説明を……」
テキパキと指示を出されるリューク様を呆然と眺めている間に皆さんは自分の仕事を始められます。
別室に到着し、リリアンさんが温かいお茶を出して下さいました。
隊長様は私の手を握っていて下さいます。
私は何もしないで……
いつも…迷惑ばかり……
本当、余計な手間ばかり掛けさせ……る……子…………
『……っ!?』
突然頭が割れる様な激痛が走り頭を抑えます。
「ベル様!?」
「おい!?どうした!!!」
(大丈夫。言イ付ケヲ守ッテイタラ、大丈夫…)
頭の中で声がして、瞬間目の前が真っ暗になりました。