前へ次へ
32/78

24

騎士様効果か、リリアンさん達にの鋭い目のお陰か、嫌がらせの数は激減しました。

それでも手紙に刃物が入っていたり、動物の死骸がベッドに置かれていたりしています。


ですが別に気にしておりません。

私は毎日を健やかに過ごさせて頂いております。




そんな穏やかではない日々を送っておりますが、私はやはり気になる事があります。







『私はいつまでここに居なければならないのですか?』

様子を見に来て下さっている隊長様に尋ねました。

「もう少しだ…やはり辛いか?」

『そんな事はありません!皆さん良くして頂いてます。ですがやはり私などがこの様にして頂く理由が知りたいのです』

「………」

『何か事情があるのも分かります。しかしその訳も聞かされず過ごすのはやはり居た堪れません』

私の言葉に頷かれ、リリアンさん達に退室を命じられました。

「やはり限界か……では話すぞ。しかし他言無用だ」

続けて何かを呟かれると、部屋の中が一瞬眩い光に包まれて……元に戻りました。…一体何をされたのでしょう?

「盗聴防止の結界を張った。これで俺達の話は外部に漏れる事は無い」

そう言って隊長様はニヤリと笑われます。

「俺達がどれだけ大きな音を立てようと聞こえないぞ?」

あ、そうですか。分かりました。便利ですねぇ。

コクリと頷く私に、一瞬虚を突かれた顔をされてから大きく噴き出されます。え?何ですか??


「いや……分からないなら良い。それで今回の事だがな」

隊長様の真剣な表情に姿勢を正します。

「実は一旦は捕縛したセイラムだが、留置所から逃げ出した。奴はお前のせいだと逆恨みしている節があったから十中八九お前を狙って来るだろう。身の安全の為ここに保護していたと言うのが真相だ」

え…?逃げた?

なら…他の被害者はどうなっているのですか!?

「落ち着け。そこは以前言った通り保護している」

そう…ですか。それなら良かったです…。

ホッと息を吐く私に隊長様が目を細められます。

「お前は本当に……いや、本題に戻るぞ。セイラムは人身売買に携わっていたが、それはあの男一人では成し得ない。精々が奴隷にする位だろう。それは今回の事でそれは明らかだ。奴の力では逃げる事など不可能だからな。…黒幕がいるんだ。そいつを捕まえない限り同じ事が繰り返される」

私は手を握り締めて頷きます。確かにあの男だけでは余りにも計画が大き過ぎます。しかし許せませんね。


『犯人は見付かったのですか?』

「黒幕については尻尾を掴ませない。あの組織は一人捕まえたとしてもトカゲの尻尾切りと同様だ。少しでも情報が得られるかとあの男に吐かせようとしていたのだが…情けない事だ」

なる程。その様な事情があったなど知りませんでした。私は知らない間に守って頂いていたのですね…本当にありがとうございます。


『この王宮内に内通者もしくは協力者が居る…と言う事ですね?』

「そうだ。誰がどの様に繋がっているのか分からない。…誰も信用するな」

それと…と私の左腕に嵌ったままの腕輪に視線を向けられます。

「その腕輪はある程度の状況把握の為に作ったんだが……お前が公爵家に戻った時邪魔をされていた。恐らくあちら側に魔術師の類が居るのだろう。しかし今は正常に作動しているから安心しろ」

『ありがとうございます。これはそう言う意味があったのですね』

「俺は魔術師が絡んでる可能性を考えなかった。その為あの時妨害されている事に気付くのが遅れてしまったんだ。悔やんでも悔やみきれん」

『隊長様はしっかりと助けに来て下さいました。隊長様が苦に思われる事は何一つありません』

私は殊更強い視線を隊長様に向けました。これで、このお話は終わりです。

「すまんな…」

隊長様は苦笑されながらも強く頷かれました。


『嫌がらせの数々も関係があるのですか?』

「それは恐らく関係ないだろう。…確かに度を越した悪質なものもあったが、大抵は女の嫉妬だ」

『嫉妬……』

「リュークが特別扱いをしていると思われてるんだな」

『リューク様にはほとんどお会いしておりませんが…ここに置いて頂いている時点で特別扱いですもんね』

「…アルフレッドとも仲が良いだろう?アイツはお前を気に入っているらしい」


『アルフレッド様はとても優しくして下さいます。私の事を妹の様だ、と』

えへへ。自分で言って照れちゃいますね。

「妹?」

『はい。亡くなられた妹様に似ていると仰って、兄の様に思って欲しいと…』

「妹……」

隊長様は繰り返し呟かれています。どうかされたのでしょうか?…心無しか顔色が悪い様な気がしますね。


『隊長様?』

小首を傾げる私に目を向けると、大きく溜息を吐いて脱力されました。

え?え?何ですか?


「格好悪ぃ……」


は?何ですか?声が小さ過ぎて聞こえませんよ。

「何でもないんだ…気にするな」

手で顔を覆って項垂れながら言われても説得力ありませんよ。また具合が悪いのですか?

「大丈夫だ」

そう言って顔を上げられます。

苦笑を浮かべられてはおりますが、どこかスッキリとされている様子。小麦色の瞳が一層輝いていて綺麗ですね。あ……私が映っています。何でしょう…またあの感じがします。ふわふわしてて、それでいて焦りを感じるみたいな……。


無意識にジッと見つめていると、隊長様が首を傾げてニッコリ微笑まれました。

グァッ!!何ですかそのイケメンスマイルっ!!しかも小首を傾げるオプション付きっ!!あ、危うく何かが口から出てしまうところでした…。


「どうした?」

あ、いえ……何でもありませんのですよ!!別に何でもないのです!!


「ふっ……おかしな奴だな」




そう言って隊長様が優しく笑われるので、私はまたあの妙な感覚を味わう事になったのでした。

前へ次へ目次