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目がチカチカするような煌びやかな光景に思わず開いた口が塞がりませんでした。
すぐに奥様に注意されて閉じましたけれども。
到着してすぐに奥様の弟様であるセイラム様がこちらに近寄って来られました。
セイラム様は子爵を賜っておられ、奥様と血の繋がった弟様です。しかしそれが疑わしい程に二人は全く似ておりません。
妖艶な美女である奥様に対し、セイラム様は小柄で太っておられます。そしてその顔立ちはと言うと、まるで顔面を上下左右からペシャン!としてグシャッ!!としてこねくり回しました!!!といった感じが一番近いですかね。
別に容姿が悪い方が嫌いだと言う訳ではありませんよ。嫌いと言うには理由があるのです。
セイラム様は無能な奥様に代わり、公爵家を取り仕切っておられます。ですので時折公爵家を訪ねられるのです。その時のセイラム様は、全身に鳥肌が立つようなネットリした視線で女性を舐めるようにご覧になるのです。更に、時には身体に触れようとまで…。
セイラム様のおかげで何人の女性が辞めて行かれたか…。思い出しても腹立たしいやら、気分が悪くなるやらなのでここまでにしておきます。
とにかく、私はセイラム様が大嫌いです。
奥様は嬉しそうにセイラム様に手を預け、お嬢様と連れ立って会場の人混みへと消えて行きました。
これで取りあえず私の仕事は一段落。
後は侍女の控え室でお声がかかるのを待つだけです。
馬車を引いてくれていたポールさんにお礼を伝え、控え室へと向かいます。
控え室には私と同じく主人を待つ方々がごった返していました。もちろん女性がこれだけ集まると、様々な噂が飛び交います。
上位貴族である夫人が浮気相手の子供を妊娠したとか、とある子爵は使用人に手を付けるとか、辺境の男爵は幼女趣………。
…最後のは聞かなかった事にしましょう。
私は小さく溜息を吐くと、控え室からそっと庭へ足を運びました。メイン会場と繋がっている庭ですが、ここは使用人が入ることの出来る場所なので私が入っても大丈夫なのです。
少し離れた所から音楽が漏れ聞こえて来ます。私にはこれ位が丁度良いですね。
正直、あのように賑やかな場所は苦手です。
話しかけられたとしても答えることが出来ないので、最終的に嫌な顔をされてしまいますので。
近くに置いてあるベンチに腰掛け大きく深呼吸をします。
少し冷たい空気が気持ち良いです。
何度か繰り返していると気持ちも落ち着いてきたようです。
ふと見上げた夜空には、大きな月が輝いていました。
綺麗ですね〜。今夜は満月ですね。
素敵な夜です。
何とは無しに足をブラブラさせながら一人でお月見をしていると、突然男性の怒鳴り声に続いて乾いた音が辺りに響きました。
驚いてそちらを振り返ると同時に、小柄な女性が木陰から吹っ飛ばされて来たではありませんか!
痛みに頬を抑えて呻く女性の顔は影になって見えませんでしたが、驚愕に固まる私に気が付かれたようです。慌てて走り去ってしまわれました。
傷は大丈夫なのでしょうか?
女性が現れた茂みの方に目を凝らしますが、殴った方の男性も何処かへ行かれた様で気配もありません。
あれが、世に言う『痴情のもつれ』…なのでしょうか?