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不思議な王宮での生活が一月を迎えようかという頃、お茶を飲みに来られていたリューク様がにこやかに仰いました。

「庭の花が綺麗なんだ。一緒に見に行かない?」

突然のお話にカップを取り落とし……かけてアリアさんが支えて下さいました。素晴らしい反射神経ですね!ありがとうございます!

高級そうなカップを割っていたらと考えたら恐ろしいですよ。


「行きたくない?」

『いえっ!!行きたいです!!!行きます!!いつですか?今ですか!?私が外へ出ても良いのです!?』

「や、ちょっと落ち着いて」

リューク様に肩を叩かれて前のめりになっていた自分に気が付きました。…ちょっと興奮してしまいました。すみません…

「久しぶりの外だもんね…窮屈な思いをさせてごめんね?」

『私は大丈夫です。何か理由があったのでしょう?』

リューク様は私の質問に笑顔を向けられます。あ、答える気ありませんね?

「今日はアルも一緒なんだよ」

『アルフレッド様もご一緒なのですか!?』

途端に目を輝かせる私の様子に大きく噴き出されると、気取った様に腕を差し出されました。

「では、参りましょうか、姫」








王宮の庭は、それはそれは美しく煌びやかでした。まるで寸分の違いもなく計算された花々は、久し振りに外へ出る事が出来た私の心を癒してくれます。

『綺麗……』

リューク様は思わず立ち止まって溜め息を漏らす私に文句も言わず付き合ってくださいます。

「ね?綺麗でしょう?でももっと素敵な場所があるんだよ」

行ってみる?と問われて大きく頷きます。行ってみたいです!!



リューク様に連れられて訪れた場所はそこから少し歩いた所にありました。

王宮からはあまり見えない奥まった場所ですが、そこも美しく手入れがされています。先程よりも控え目な花達が可憐に咲き誇っています。景観を損なわないような美しい東屋が置かれ、休憩出来るベンチやテーブルまでありますよ。なんて素敵なんでしょう!!


「気に入った?」

『はいっ!!とても!!ありがとうございます!!!』

リューク様はニッコリ笑われると、私を東屋へ誘われます。どうやらここでお茶にするらしく、リリアンさん達が素早く準備をして下さいました。

リリアンさん達が少し離れた位置に戻られると、グッと大きく伸びをされます。

「んあ〜〜っ…疲れた。毎日毎日仕事ばっかり…僕の勤めだって分かってるけど、少しは休みが欲しいよ…。しかも四六時中見張られてちゃ気も休まらないって。だからたまにはサボっても良いよね?」

『いつもご苦労様です』

ぺこりと頭を下げる私の頭をひと撫でし、リューク様は周りを見渡されます。

「ここは僕らの母が好きな場所でね。ここでお茶をされている間、良く遊んだよ」

リューク様は昔を思い出されているようで、楽しそうに笑われます。

「僕と、アレクとレーヨン…途中からアルも一緒だった。あの時の僕は勉強が嫌で良く逃げ出してたな〜…まぁ、すぐに捕まってたけどね」




「今も逃げ出してるだろうが」

「バカは変わらずか…」




突然の声に振り返ります。…今の今まで気付きませんでしたよ。

「まったく…」と言いながら呆れた顔をされているのはアルフレッド様。隣の隊長様はとても……とても不機嫌なご様子です。眉間にシワが…あれはもう固定されているのかもしれませんね。



「あれ?何でアレクがここに居るの?」

「…レーヨンに泣きつかれた」

「それだけ?」

リューク様はチラリと私の左腕に視線を向けられましたがすぐに立ち上がられました。

「あ〜ぁ、またレーヨンに叱られるなぁ」

「戻るぞ」

隊長様はそう言ってリューク様の首根っこを掴まれます。

「あぁっ!?ちゃんと戻るよ!!??ちょ、アレクっ」

隊長様は構わず力を込められております。

それにしてもリューク様を前にした隊長様は相変わらず不機嫌ですね………あれ?……もしかして……。


『隊長様っ!!』


私はグイッと隊長様の腕を掴んで引っ張ります。その拍子にリューク様の首が絞まったらしく「グエッ!?」と声がしましたが、聞こえなかった事にしました。

「…何だ?」

『隊長様は具合が悪いのですか?』

「…は?」

私が書いた文字を見て隊長様が固まられました。

「さすがベルだね」

「凄いな」

他のお二人の言葉で私の推測が間違っていなかったのだと証明出来ました。やっぱり。そうじゃないかと思いましたよ。



「アレクったら寝ずに仕事ばっかりしてるから体調を崩しちゃうんだよ。『無茶するな』はどっちだよって感じだよね」

「コイツは言い出したら聞かないからな…意識が無くなるまでは働くだろう」



『はぁ!?何ですかソレ!!寝ずに仕事!?意識が無くなるまで!?何やってるんですか!!』

隊長様を見上げて叫びます。

「別に、平気だ」

ムッとした表情で睨まれますが、私は悪くありませんよ。悪いのは隊長様です。

と言うか、隊長様はバカです。

「バカとは何だ」

あっ!!また人の思考を読みましたね!?

じゃぁ何回も言いますよ!!

バカバカバカバカバカー!!!

隊長様の分からず屋ー!!

眉間にベルベルト山脈ー!!

「お前……何か失礼な事考えてるだろう?」



『と、とにかく!や、す、ん、で、く、だ、さ、いっっ!!』




一歩も引かない私に折れて下さった隊長様は、憮然とした顔でリューク様を引きずって戻って行かれました。






ふっ……勝ちました。



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