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天使は仲間を召喚、更に悪魔へと変身した。
…いえいえ、やって頂いておいて文句を言ってはいけませんね。ただ、これだけ言わせて下さい。
お風呂は一人で入れますっ!!さっ、三人で洗う必要はないと思いますよ!?
入る前とは違う意味でグッタリしましたが、やはり入浴は良いですね。とてもサッパリしました。皆さん、ありがとうございます。
ベッドに戻って落ち着いたところで思い出しました。そう言えばしっかりとお礼が言えていませんでしたね。キョロキョロと書く物を探す私にすかさず小柄でパッチリとした目の女性が手渡して下さいました。この方もとても可愛らしい方です。
「こちらをお探しですか?」
私は笑顔で受け取ると、すぐにお礼の言葉を書き連ねます。
『その節は、とても綺麗にして頂きありがとうございました。』
「いいえ。わたくし達の方が楽しかったですので」
「今日はイジれなくて残念ですわ」
「次はもっと違った装いを…」
女性達は口々にそう言って笑顔を見せて下さいました。どこか中性的な雰囲気の女性の手がわきわきと蠢いていたのは気が付かなかった事にしましょう。
ほんわかとした空気の中、来客の訪れが知らされます。
「殿下がいらっしゃいました。ベル様はそのままで良いと仰られておりますが…お会いされますか?」
殿下?…殿下とはアルフレッド様の事でしょうか?確か隊長様とお知り合いの様子でしたもんね。
私は内心首を傾げながらも了承しました。
「やぁ。具合はどう?」
キラキラとした笑みを浮かべて登場されたのは、なんと我が国の王太子殿下のリューク様でした!!
でっ!?ででででんか!?ほほほ本物!?
慌ててベッドから降りようとする私を笑顔で制し、近くまで歩み寄られます。
「突然来ちゃってごめんね?でも目が覚めたって聞いたから今のうちに会いたくて。僕はリュークだよ」
『ベル・アドリアーノと申します。殿下のお顔を拝見出来るなど思っておらず…この様な姿で申し訳ございません』
ブルブルと震える手で、ようやく文字を書く事に成功しました。ききっ、緊張します…。
「そんなに畏まらなくたって良いよ。僕が勝手に来たんだから。それに殿下は止めてよ〜。僕の事はリュークって呼んで?僕もベルって呼ぶから」
そんな畏れ多いこと出来ませんよ!!私の事はどう呼んで下さっても構いませんから、どうか許して下さいぃ!!
勢い良く首を振る私に殿下が小さく呟かれます。
「強制はしないけどね。でも僕の頼み、聞いてくれないんだ?」
ひぃぃぃっ!!??
聞きます!!呼びます!!呼ばせて下さい!!!その爽やかな笑顔が恐いです!!!
「じゃ、僕の事はリュークって呼んでね?」
うぅぅ……せ、せめて『リューク様』と呼ばせて頂きます…。
頷いた私にリューク様が声を上げて笑われました。
「ベルには申し訳ないけど、今じゃないとゆっくり話せないかなって思ってね」
ベッドサイドの椅子に優雅に座り、紅茶を飲む殿…リューク様。
隊長様の時も絵になると思いましたが、リューク様はまた別の美しさがありますね。
そう、例えるならば隊長様が悪魔でリューク様が天使。お二人は真逆の美しさを持たれているようです。お二人が並んでいるところは眼福モノでしょうね。
ところで隊長様は今どうされているのでしょうか?私を助けて下さったのは間違いなく隊長様だと思うのですが…。
「…なったからね…ってベル聞いてる?」
リューク様の声にハッと我に返ります。いけません。今はリューク様のお話の最中でした。
申し訳なく思いながらも小首を傾げると、リューク様は面白そうに笑われました。
「本当に…君達は…」
しばらく笑ってからリューク様は私の顔を覗き込まれます。
「君はしばらく王宮で保護する事になったよって言ったんだ。あぁ、心配しなくてもアドリアーノ公爵家には伝えてあるから」
えっ!?王宮にですか!?驚く私の顔を見てまたリューク様が笑われます。
むっ、何ですか?乙女の顔を見て笑うなどといくら王太子殿下でも許されませんよ?
「あぁ、ごめんごめん。あまりにベルが可愛いから……ね?許して?」
言いながら頭を乱雑に撫でられます。……まるで酒屋さんのお兄さんを思い出しますね。あのお兄さんも「いつも一人でお利口だなっ!」と頭を撫でて下さいました。
グリグリと撫で続けていた手が突然ピタリと止まり、リューク様がニッコリ笑われます。
「あ〜ぁ、まだ途中なのに。ゆっくり話せなくなっちゃったよ」