16
『叫べ!!ほらぁ!!助けを呼べよ!!お前に出来るならなぁ』
セイラムは愉悦に歪んだ顔で私の頬を叩く。
やめて!!助けてっ!!!
大声で助けを呼ぼうとする私の耳に女性の声が聞こえた。
「………守………は、………まれ……いのです」
同時に目の前の男の顔に影がかかる。体格からして別人のようだ。隣に女の影も見える。
「おらっ!!なんとか言えよ!!声出せるだろぉが!?知ってんだぞ!!」
「何で何も言わないの!?…話が違うじゃない!!」
「クソッ!!……話せって言ってるだろぉが!!」
身体に感じる衝撃と、女のヒステリックな声。
グイッと左腕を引かれ、更なる暴力を予感して身体を縮める。
『ベル…』
ベル?それは私の事?
『起きろ…ベル…』
私は、ベル?……思い出せない。…私は………
『だ…れ?』
出した声は喉に張り付いて上手く出せませんでした。
『ここは……?』
顔にへばりつく髪を払いながら周囲を見回し、そこでハタと気付きます。
私は話せなかったのですよね。
頭が混乱してて分かりませんでした。
小さく息を吐いてから改めて自分の置かれた状況を観察します。
室内は趣味の良いベージュか茶色で統一され、調度品はシンプルながらに高価な物だと遠目にも分かります。カーテンは開けられていますが、この位置からは窓の外を確認する事は無理そうですね。なんせ広すぎなのですよ…。
そして現在私が占拠しているベッドは、私が四度寝返りをしても落ちない広さがあります。
えーっと……この状況は?
取りあえずベッドから出てみようと足を降ろした時、静かにドアが開かれました。
「お目覚めですか!!」
声の主は以前私を着飾って下さった女性の一人でした。女性は素早く歩み寄ると、再び私をベットの中に押し込みました。大丈夫ですよ、と示す間も無い早技に目を白黒させていると、さっと背中を支えて水を飲ませて下さいました。
とても美味しいです。ありがとうございます。もう大丈夫ですよ。
私がホッと一息吐いて笑いかけると、女性の顔が綻びます。以前は緊張でしっかりと見れていませんでしたが、女性はとても美しい方でした。少しキツイ目元をされていますが、その分笑顔とのギャップに悶えてしまいそうです。私が元気であればその可愛らしさに悶えていたでしょう。
「軽い食事をお持ちしますね」
女性は私をもう一度横たえると、そう言って部屋を出て行かれました。
残された私は何もする事がなく天井を見つめていました。ベッドから出たら怒られそうですしね。どうも身体が怠いのは体調が悪いからですかね。でも妙にスッキリしているのですが…。
暇ですし、何があったか整理しようと思いますよ。
え〜……執事さんが退室されて、セイラム様…が…
そこまで考えて身体に震えが走ります。
私…あの時…押さえつけられて……殴られて……
震える手で頬に手を当てましたが、特に痛みは感じませんでした。慌てて自身を確認しましたが、きちんと夜着を着ています。
夢?
だけど……そうです!あの時、隊長様が助けに来て下さったんでした。
という事は、隊長様が私をここまで運んで下さったんですね!もう、感謝感謝ですよ!!
女性が持って来て下さった胃に優しそうな軽食を食べ終わり、お薬を飲むと再びベッドに横になります。う〜ん…やはり身体が怠いようです。不思議に思っていると、女性から衝撃の告白が!!
「ベル様は一週間眠り続けられておりましたので」
えぇっ!?そうなんですか!!??
「落ち着かれたのでしたら、ご面会をと申し付けられています。どうされますか?」
いえ…私は元気ですよ。身体が怠いのは一週間食事をしていないからですね。それ以外はモリモリに元気です。
大丈夫ですよ、と頷きかけてハタと気が付きます。
一週間……寝っぱなしだったんですよね?
という事は……
『お風呂っ!!お風呂だけ入らせて下さい!!!』
私の剣幕に一瞬驚いた様子の女性は「本当は駄目なんですよ?」と言った後、ニッコリと笑って了承して下さいました。
天使!!天使がいますよ!!
ここまで読んで下さってありがとうございます!!書き溜めはありますが、明日の朝も早いのでこれで一旦投稿を休みます。またよろしくお願いします^ ^